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 私だってそう。
 だから、やってやる。
「こっちを切って、このつるを伸ばします」

 トベールじいのハサミを借りて、つるをばしゃり。うぅ、胸が痛む。
 折角伸びてくれたのに、ごめん。まだ葉も痛いほど元気なのに。
「それが枯れたら土に還ってまた他の養分になりますわい」
「そうね」

 トベールじいの畑では青菜が育っていた。そろそろトマトやナスも実をつける。かぼちゃは花がぽつぽつ咲いてきたところ。じいに教えてもらったのだが、花には雄花と雌花があって、蜂や他の虫が受粉をしてくれるらしいのだが、朝方に人の手でもやるという。
「ま、人間の子づくりと同じじゃ」
 そうなの? ああ、余計にわからない。グラッド先生なら指南本をお持ちなのかしら。

 私がこうしている間にもアルゼット様は他の妃候補と過ごしているらしかった。私には知らされないが、誰かとごはんを食べたり、お散歩をしているそうだ。衛兵の動きでわかってしまう。
 音楽が聞こえてきたから今はユウカ様が歌っているのかもしれない。
「はぁ」
 あの歌を聞いたらアルゼット様はやっぱりって気が変わるのではないだろうか。ソラカ様が踊りを披露したら? シエ様はアルゼット様の肖像画を渡すのではないだろうか。それとも私とは違って難しい政治の話でもするのかしら。

 こんなときはやっぱり農作業。土に触れているとほっとする。植物にも癒される。ハーブの効能やコンパニオンプランツなんて初めて耳にすることをトベールじいがぽろっと言うから慌ててメモメモ。メモ魔のリオールのおかげで聞き逃さずにすむ。

 知っていたけど、アルゼット様って本当に意地悪。夜、私の部屋に来ても他の候補者とどう過ごしたのか教えてもくださらない。それは礼儀のようなものなのでしょう。話されても私だって困るし、その人がいないところで話すのは陰口になってしまう。

 頭がよかったら彼の不満を分析してこの人に好かれる女になればいい。でもきっと簡単に見破られる。口先だけではアルゼット様を惑わすことなどできない。そういう眼をしている。
 私も彼が最終的に誰を選んでも恨んだりしないわ。

「また手が汚い」
 と水を含ませた柔らかい布で拭いてくれる。
「あなたとお風呂に入りたくて」
 と言ってしまってからはっとした。
「そうか、そうか」
 嬉しそうに笑わないで。私の口が、嘘をついたの。あなたを喜ばせたくて。
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