正妃になったらかぼちゃを作りたい

吉沢 月見

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 まだ夕刻だというのに部屋に戻ってベッドへ寝転ぶ。

「私だって、ソラカ様の体でユウカ様の声で、シエ様の才とハナ様の心持ちだったら最強にきれいな人だと思うわよ。それこそサラ様に匹敵するくらい」
 ミスズに愚痴ったつもりだったのに、
「そんな女、御免だ」
 とアルゼット様の声がした。

「お、おかえりなさいませ」
 馬車の車輪が壊れ、帰りは馬に乗って帰って来たそうだ。予定時刻より早い時間だったために馬車係も迎える側近たちも揃わず、体裁を重んじる上役はすぐに自害をほのめかすようで、面倒になってアルゼット様は私の部屋に逃げてきたというわけ。その一連を聞いて、
「ふふっ」
 と笑うと、
「土産だ」
 と野菜をくれた。果物ではない。私の手先から肘くらいの長さで、太さはもう少しある。

「芋?」
 確かに芋も好き。
「それもかぼちゃだ。木の実に似た味がするらしい」
「へえ」
 色も違う。形も細長い。

「他にも岩のようにデカいものや片腕くらい長いものがあるらしいぞ。大きすぎるものは味も大味らしいが」
「どこの畑でも作れるのかしら。種を取っていろいろ作ってみたいな」
 ウキウキしちゃう。料理によって使う種類を変えるってじいも話していたわ。
「そんなことが楽しいのか。変な奴」

 アルゼット様は本も貸してくれて、それには掛け合わせについて記載されていた。
「違う野菜を掛け合わせても実になるものがあるんですって。不思議」
「お前のほうが不思議だ。普通の女はそんなことで喜ばん」
 そうなのかしら。野菜作りは国を治めることに似ていない? 種を蒔いて大きく育てる。国を反映させることだって近しいでしょう?

 お茶を飲んで、疲れたというのでアルゼット様はまたお風呂へ。
 私にはあなたのほうが不思議です。
「なにも一緒に入らなくても」
「警護の手間が省けるだろ」
 城には王帝だけのお風呂がある。他の姫たちは時間を決めて入っているのだろう。なんだか申し訳ない。広すぎる。女の子だけなら一緒に入ってもいいな。でも肌を見せたくない人もいるだろうし恥ずかしがり屋さんもいる。

 今日は岩をくりぬいたような湯船。お尻がざらついて痛いと言ったらお膝に乗せてくれた。
「お前の肌は柔らかいからな。さあ、正妃になりたいと言え。そうしたらかぼちゃも風呂もお前のものだ」
 とアルゼット様は言うけれど、私がなりたいと言ってなれるものではない。アルゼット様でも決められないのかもしれない。

「まだ我々は勉強中ですので、あなたやあなたの国の人にとって最良の妃を選んでくださいませ」
 頭がいいとか顔がいいだけでは選べないのだろう。それこそ国の大きさで選ぶのであれば、うちは論外だわ。小国だし、他の国のように誇れる産業も技術もない。後ろ盾になれない。

「それはわざとなのか?」
 アルゼット様が私から目を逸らした。
「へ?」
「しがみついて」
「こうしていたらいろいろ見えないから」
 明るいから見られたくない。一枚着ていても濡れると透ける。抱きついちゃえば見られずにすむ。

 他の人だったらどうするのかしら。そんな想像もしたくない。
「まあ、よい」
 アルゼット様の体は筋肉質で、当然私の体より大きくて、安心する。私の薄い布の上から湯をかけてくれる。
「寒くないか?」
「ええ」
 本当は優しい人なのかもしれないな。無理矢理に私に触れたりもしないもの。

 私の部屋へ戻ったアルゼット様は鼻をクンクン。犬みたい。
「そなたは動くな」
と命ぜられた。枕の下に小刀を発見。
「それもプレゼントですの? ちょうどこれくらいのが欲しかったのです。次はこれくらいの鎌にしてくださいね」
 私は言った。畑で使うのにちょうどいい。トベールじいが貸してくれるものは大きすぎるのだ。シャベルもひと回り小さいものがいいな。
「あはははっ」
 とアルゼット様は大笑い。

「今日はどちらへ?」「明日はお土産のかぼちゃを食べてもいいですか?」「え? 王妃って王帝のごはん作らないの?」
 私が質問をするときちんと返答してくれる。面倒臭そうではない。ただ、ずっと私を見ているから恥ずかしくなる。
 自分からはそんなに話してくれない。起きているときよりも、共に寝ているときのほうが愛しく感じる。一日の3分の1は睡眠に費やしているのだ。寝ているほうが意地悪も言わないし、なによりも温かい。
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