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朝、目が覚めたらもうアルゼット様はいなかった。
「お目覚めですか、ルラル様」
「うん。おはよう、ミスズ」
「おはようございます。ちょうど今しがた、王帝一行がお出かけになったようですよ」
私が受けたグラッドさんの講義では王帝が出かける際、王妃は必ず見送るのが古くからの習わしだと聞いた。
「ミスズ、着替えを急いで」
「アルゼット様は寝かせておけと仰ってましたよ」
「だめよう。ほら、これ脱がせて」
慌てて着替えて階段を駆け下りたけれど遅かった。一行はもう門をくぐろうとしている。
「申し訳ありません」
お見送りには先帝の側室であるケイビ様とあまり人前に出ないサラ様までいた。
「王帝がルラル様を起こさなくていいと」
とミスズも私を擁護するが、それが余計に怒りに火をつける。
「そのような情交のあとを私たちに見せびらかして、本当に嫌味な子ね」
ケイビ様のきつい口調よりも、
「あなた、王妃失格よ」
というサラ様の声のほうが私には痛かった。
いや、あなただって王妃になってないですよねという言葉は部屋に戻ってから頭に浮かんだ。喉元を通らなくてよかった。
その日は大人しく本を読み、勉強に励む。妃の勉強って存在しない。慎ましい人がいいのだろうか。人当たりがいい人ならばケイビ様を取り込んだり、サラ様とも渡り合えるようになるのかもしれない。
人の顔色を窺うくらいなら畑を耕すほうがましだ。
他の候補たちだって己を磨いているに違いない。そう考えると余計に焦る。
「うーん。畑行こ」
この季節の雑草の生え方は尋常ではない。
「あなた様はこんなことしている場合では…」
とトベールじいまで口にするようになった。
「だって動いてないと嫌な想像ばかりしてしまうんだもの。そこの草むしりするわね。土が元気だから雑草もすごいわ」
ヤギさんが食べても食べても追いつかない。城の馬でも投入してもらいたいが、野菜をかじられたら困る。
今は夏野菜に向けての土づくり。ふかふかにしつつ、栄養を与える。気温というよりもこの国の土は柔らかい気がする。粘土質ではなく、さらさら。農業に適しているのだろう。かぼちゃも順調だ。うちの国の土はどうしたらこうなるのだろうか。
トベールじいに質問しようと思っていたのに、
「トベール殿」
とひょろりとしたオールバックの男性が先にじいに話しかける。
「おお、トッカ。あの件か。しかし本来は冬に掘り出すもの」
「なんの話?」
私は聞いた。
「風邪薬のためにある植物の根を掘りたいのだが時期がちと遅い」
「今年の冬のためにもう少し備蓄をしておきたいのです」
トッカ様もお連れが多い。その足元、さっき私が耕したんだけど。
そういうむつかしい話は他でやってくれないかしら。いやん、お付きの人まで畑に入ってきた。大人数で踏み固めないで。
「山の奥へ行けばよいだろう。うちの者も連れて行け。すぐに根を探し出すから」
口調から察するとトベールじいのほうが偉いのだろうか。トッカ様のほうが若いからかもしれない。
「ありがとうございます。おや、そちらはルラル様ですね」
トッカ様の視線が私に向く。
「はい」
他の姫たちより特徴がない、平凡な女だとその目が言っている。好きでこの顔なわけじゃないわ。
私が美人というだけで王妃に選ばれるのであれば、他の人たちだってあんなに努力はしないだろう。きっと違うものをアルゼット様は求めている。
私は母様が亡くなってしまっているから王妃の仕事についてわからないのだろうか。他国の姫のほうがいいのかもしれない。
「お目覚めですか、ルラル様」
「うん。おはよう、ミスズ」
「おはようございます。ちょうど今しがた、王帝一行がお出かけになったようですよ」
私が受けたグラッドさんの講義では王帝が出かける際、王妃は必ず見送るのが古くからの習わしだと聞いた。
「ミスズ、着替えを急いで」
「アルゼット様は寝かせておけと仰ってましたよ」
「だめよう。ほら、これ脱がせて」
慌てて着替えて階段を駆け下りたけれど遅かった。一行はもう門をくぐろうとしている。
「申し訳ありません」
お見送りには先帝の側室であるケイビ様とあまり人前に出ないサラ様までいた。
「王帝がルラル様を起こさなくていいと」
とミスズも私を擁護するが、それが余計に怒りに火をつける。
「そのような情交のあとを私たちに見せびらかして、本当に嫌味な子ね」
ケイビ様のきつい口調よりも、
「あなた、王妃失格よ」
というサラ様の声のほうが私には痛かった。
いや、あなただって王妃になってないですよねという言葉は部屋に戻ってから頭に浮かんだ。喉元を通らなくてよかった。
その日は大人しく本を読み、勉強に励む。妃の勉強って存在しない。慎ましい人がいいのだろうか。人当たりがいい人ならばケイビ様を取り込んだり、サラ様とも渡り合えるようになるのかもしれない。
人の顔色を窺うくらいなら畑を耕すほうがましだ。
他の候補たちだって己を磨いているに違いない。そう考えると余計に焦る。
「うーん。畑行こ」
この季節の雑草の生え方は尋常ではない。
「あなた様はこんなことしている場合では…」
とトベールじいまで口にするようになった。
「だって動いてないと嫌な想像ばかりしてしまうんだもの。そこの草むしりするわね。土が元気だから雑草もすごいわ」
ヤギさんが食べても食べても追いつかない。城の馬でも投入してもらいたいが、野菜をかじられたら困る。
今は夏野菜に向けての土づくり。ふかふかにしつつ、栄養を与える。気温というよりもこの国の土は柔らかい気がする。粘土質ではなく、さらさら。農業に適しているのだろう。かぼちゃも順調だ。うちの国の土はどうしたらこうなるのだろうか。
トベールじいに質問しようと思っていたのに、
「トベール殿」
とひょろりとしたオールバックの男性が先にじいに話しかける。
「おお、トッカ。あの件か。しかし本来は冬に掘り出すもの」
「なんの話?」
私は聞いた。
「風邪薬のためにある植物の根を掘りたいのだが時期がちと遅い」
「今年の冬のためにもう少し備蓄をしておきたいのです」
トッカ様もお連れが多い。その足元、さっき私が耕したんだけど。
そういうむつかしい話は他でやってくれないかしら。いやん、お付きの人まで畑に入ってきた。大人数で踏み固めないで。
「山の奥へ行けばよいだろう。うちの者も連れて行け。すぐに根を探し出すから」
口調から察するとトベールじいのほうが偉いのだろうか。トッカ様のほうが若いからかもしれない。
「ありがとうございます。おや、そちらはルラル様ですね」
トッカ様の視線が私に向く。
「はい」
他の姫たちより特徴がない、平凡な女だとその目が言っている。好きでこの顔なわけじゃないわ。
私が美人というだけで王妃に選ばれるのであれば、他の人たちだってあんなに努力はしないだろう。きっと違うものをアルゼット様は求めている。
私は母様が亡くなってしまっているから王妃の仕事についてわからないのだろうか。他国の姫のほうがいいのかもしれない。
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