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 部屋の前での騒ぎだったため、他の部屋の王女たちが悲鳴を上げる。
「ここで私を殺したら、あなたの妃になりたい人が減るのでは?」
 己の考えが間違っているとは思わないので、私は頭を下げなかった。

 王帝は、
「ふんっ」
 と剣を収めた。

 そんなこんなで、王帝の印象は悪い。この間は見かけただけ。今日は剣を向けられた。
「最悪。あんな人の妻になりたくなーい」
 畑で叫んだら、
「あははははっ」
 とトベールじいには笑われ、
「おやめください、ルラル様」
 と珍しくリオールに叱られた。

「見た? こんな目のつり上がった怖い顔の男だったわ。トベールじいは王帝と親しいの?」
 私は聞いた。
「もちろん。アルゼット様が小さい頃に剣を教えたわい」
「トベールじいが? 嘘でしょ?」
「本当じゃよ。これくらいのときな」
 トベールじいがスコップをまっすぐ立てた。私のおへそよりやや上の背丈のとき彼は何歳くらいだったのだろう。
 今の王帝はリオールよりも背が高くてガタイもよさそうだった。正直、怖かった。目の奥に悪いものが住んでいる。そういう眼をしていた。

「実際はどういう方なのでしょう?」
 指示された通り土に藁を敷きながらリオールが尋ねる。
「急に王帝につくことになり、それでも反発が少ないのは人徳かと」アルゼット様の話をすると、じいは優しい顔になる。「そなたの国のことは記憶にないが、先帝がそなたらを助けるためにかぼちゃを送ったとは考えにくい。あのお方は本当に気まぐれで。豊作で余っておったから送っただけかもしれんぞ」
 じいまで私たちの恩人を悪者にする。

「それでも私たちが助かったのは事実です」
 トベールじいは私の手に種を置いた。
「かぼちゃの種だ」
「いいのですか?」
 もうこれでお別れということだろうか。王帝にあんなことされたんだもん。投獄されないだけまし。
「そなたの国では発芽しなかったとか。植える前に一晩水につけたか? ここを少し割ると芽が出やすうなる」
 トベールじいが教えてくれた。リオールが慌ててメモを取る。
「そうなのね。国へ戻ることになったらやってみるわ」
 今日のことできっとすぐに戻ることになるだろう。父様と兄様に叱られるわ。ごめんなさいね、リオール。きっと私がこの国に残ることも難しい。私よりもリオールの将来だって危ぶまれる。有能な家系だと言われ続けてきた彼に申し訳ない。

 帰ることになったら、国の王宮から離れた辺境で慎ましく2人で暮らしましょうよ。そんなこと、リオールは望んではいないのでしょうね。
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