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 午後は自由時間で、それぞれが勉学や芸を磨く。多くが図書館で本を読むと言った。肩が凝りそうなので私は別行動。
「みんないろんなことを知ってるのね、感心しちゃうわ。そんな噂、私の耳には届いていないのにどうやって仕入れているのかしら」

 私は畑の一角を借りて、畑の管理をしているトベールじいにいろいろ教わっている。リオールも彼の言葉を聞き逃すまいとメモを取る。
「女は話好きじゃからの」
「私はこうして土をいじってるほうが好きだわ。トベールじい、畝はこれでいい?」
 畑の土を盛って作物を作りやすくするのだ。
「高すぎじゃ」
「そう? うちはこれくらいよ」
「こんな一尺もいらん。半分で」
「はーい」
 リオールと畝を直す。
「こんな高い畝、さつまいもか大根か」
 ぎくり。だって、うちの主食はさつまいも。あれだけは不思議とたくさんなるのだ。

 トベールじいは場外にも畑や果樹園を持っているらしい。さっき畑に撒いていたのは畑の酸性を中性にするために卵の殻を砕いたものらしい。知らなかった。雨が降ると土は酸性に傾くそうだ。もちろん酸性を好む野菜もある。
うちは畑に撒くのは牛糞くらい。
「トベール様、この見慣れぬ枝のようなものは?」
 リオールが聞く。
「アスパラという野菜じゃよ」
 生い茂った草の中から緑の茎のようなものが顔を出す。
「先端が花みたい。作るの簡単?」
 私は聞いた。
「いいや」
 なんでも株を育てるのに一年以上を要する。収穫までには三年。そんなのん気に待っていられない。すぐ実って、すぐに食べられるものがいい。

「うちだって夏はナスとかトマトとかたくさんできるの。問題は冬よ」
 稲も小麦も作れず、イモも不作だったら民が死ぬ。
「アスパラも、一度育てばその後何年も収穫はできる」
 トベールじいはおじいちゃんだから腰が曲がって私と同じくらいの背丈。顔はしわしわで、きっと頭の中もしわしわなんだわ。そのほうが頭がいいって聞いたことあるもの。
「それはいいわね」
 果物も実が鳥に食べられてしまうことも多い。この国はどうしているのかしら。たくさん実れば分け与えてもいいけれど、動物たちとも奪い合いになってしまう。

 トベールじいに教わって、かぼちゃのための土づくりを習う。
「話を聞く限り、ルラル様のところの土は水はけに問題がありそうですな」
 と見てもいないのに言い当てる。
「確かにここの土より粘土質かもしれないわ」
ここでも耕した土に牛糞を混ぜる。馬は近衛団の管理、牛は料理人たちが世話をしているらしい。どちらの排泄物もこのトベールじいが畑の肥やしにしている。耕して、畝を作れば排水がよくなると教わる。
「もみ殻を混ぜるといいのじゃが」
「生憎、芋以外の穀物はさっぱりなの。山の栗も不作の年があるし」
 一年を通して育つか貯蔵できるようなものでなければ改善策にならない。

「メェェ」
 ヤギとロバは雑草対策でトベールじいのペットのようなもの。畑の周りの草を食べるようにつないでいる紐の長さを調節し、作物は食べないようにしているそうだ。
「こっちの雑草が粗方食べ終わったらあっちに縄をつないでいるだけで、難しいことはしとらん」

 じいには数名の使用人までいる。皆、耳の聞こえぬ者、口のきけぬ者、手傷を追い腕のない人もいた。
「わが国では療養所に集まって皆静かに暮らしております」
 リオールが伝える。
「儂が死んだ後も彼らは生きる。生きる道を作ってあげたい」
「そうですね」
 その考えには同意する。でもそのあとの、
「儂はうるさい奴は嫌いじゃ」
 というのも本音なのだろう。

 トベールじいのところにはグラッド先生も来たし、他の偉そうな役人たちも顔を出した。
「会議じゃった」
 と連れてゆかれることも多いから、うちの国でいうところの長老とか、そういう偉い人のようだ。
「これは、鶏糞にもみ殻を混ぜた肥料かしら」
 配合は半々くらい。
「そうですね」
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