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「王帝であらするアルゼット様は御年18歳ながら国のことを考え…」
グラッド先生は若そうなのに博識だ。だから私たち、王妃候補に勉強を教える。集められた一室からはちょうど畑が見えた。日当たりがいいから太陽光がさんさんと降り注いでいるな。うちの国は山ばかりで、平坦な畑も風を防ぐために大きな木が多く、畑に影を作ってしまっているのだ。あれでは地温が上がらない。いい策はないかしら。
「故にアルゼット様をお支えする妃をこうして我々は慎重に選んでいるわけです」
グラッド先生が叫ぶ。お心が健やかで、華美で、腹に一物がない人なんているのだろうか。みんな、それぞれ私のようになにかしらの企みがあるはず。
それにしてもみんな美人ぞろい。背筋を伸ばして、髪の毛先、後ろ姿までぬかりない。国の利益、己のためだとしても妃に選ばれるのは名誉なこと。自分の人生だって保障される。
「これがアルゼット様の肖像画になります。端正な顔立ちでしょう?」
こんなことを聞いているくらいなら、そこの空いている畑を耕したいなんて思ってちゃいけないのだろう。隅っこの布をかけているところは苗を育てているのかしら。虫対策かもしれない。
ん? 農夫が畑になにか撒いている。水ではない。粉のようなもの。農薬だろうか。肥料かもしれない。その中身を教えて。
「グラッド様、ひとつお聞きしたいことがございます。私たちの中の誰かが選ばれた暁には、正妃ということでよろしいのでしょうか?」
私と同じ机の女性が手を上げて質問をする。確か、ソラカ様。武芸に長けていて、舞もお上手だとか。
「それにはご返答しかねます」
グラッド先生が狼狽えて答える。わかりやすい人。決まっていないのかもしれないし、アルゼット様が拒否しているのかもしれない。
「亡くなった先帝の妃も私たちのようにアルゼット様の妃になり得るということだけでもお答えください」
それを聞いたのはシエ様。絵がうまくて、色鉛筆で描いた木が本物のようでびっくりしたわ。
「それも…」
「もう噂になっております。先帝の手つかずの妃、もしくは亡くなられた王帝になるはずだったアルゼット様の兄上の婚約者様もこの城内にいらっしゃるとか? 私たちと彼女たちは同列の扱いということになるのでしょうか?」
なんですって?
歌のお上手なユウカ様は話し声も美声だ。はっきりとした口調の彼女にグラッド先生はたじたじ。
「私たちはいつ王帝、アルゼット様に会えるのですか?」
「2人きりでお話ししたいわ」
「その時間は設けていただけますの?」
妃候補たちが口々に話し出す。
「予定が決まり次第通達いたします」
女たちの圧に負けて、結局その日のお勉強はそれまで。みんなが我先にとなる気持ちもわかる。私たちより先に試験を受けて落ちる人、私たちより後に入国した女の子たちとそのうち同列になる日が来るのかしら。そのときに抜きに出ていなければ残れない。
グラッド先生は若そうなのに博識だ。だから私たち、王妃候補に勉強を教える。集められた一室からはちょうど畑が見えた。日当たりがいいから太陽光がさんさんと降り注いでいるな。うちの国は山ばかりで、平坦な畑も風を防ぐために大きな木が多く、畑に影を作ってしまっているのだ。あれでは地温が上がらない。いい策はないかしら。
「故にアルゼット様をお支えする妃をこうして我々は慎重に選んでいるわけです」
グラッド先生が叫ぶ。お心が健やかで、華美で、腹に一物がない人なんているのだろうか。みんな、それぞれ私のようになにかしらの企みがあるはず。
それにしてもみんな美人ぞろい。背筋を伸ばして、髪の毛先、後ろ姿までぬかりない。国の利益、己のためだとしても妃に選ばれるのは名誉なこと。自分の人生だって保障される。
「これがアルゼット様の肖像画になります。端正な顔立ちでしょう?」
こんなことを聞いているくらいなら、そこの空いている畑を耕したいなんて思ってちゃいけないのだろう。隅っこの布をかけているところは苗を育てているのかしら。虫対策かもしれない。
ん? 農夫が畑になにか撒いている。水ではない。粉のようなもの。農薬だろうか。肥料かもしれない。その中身を教えて。
「グラッド様、ひとつお聞きしたいことがございます。私たちの中の誰かが選ばれた暁には、正妃ということでよろしいのでしょうか?」
私と同じ机の女性が手を上げて質問をする。確か、ソラカ様。武芸に長けていて、舞もお上手だとか。
「それにはご返答しかねます」
グラッド先生が狼狽えて答える。わかりやすい人。決まっていないのかもしれないし、アルゼット様が拒否しているのかもしれない。
「亡くなった先帝の妃も私たちのようにアルゼット様の妃になり得るということだけでもお答えください」
それを聞いたのはシエ様。絵がうまくて、色鉛筆で描いた木が本物のようでびっくりしたわ。
「それも…」
「もう噂になっております。先帝の手つかずの妃、もしくは亡くなられた王帝になるはずだったアルゼット様の兄上の婚約者様もこの城内にいらっしゃるとか? 私たちと彼女たちは同列の扱いということになるのでしょうか?」
なんですって?
歌のお上手なユウカ様は話し声も美声だ。はっきりとした口調の彼女にグラッド先生はたじたじ。
「私たちはいつ王帝、アルゼット様に会えるのですか?」
「2人きりでお話ししたいわ」
「その時間は設けていただけますの?」
妃候補たちが口々に話し出す。
「予定が決まり次第通達いたします」
女たちの圧に負けて、結局その日のお勉強はそれまで。みんなが我先にとなる気持ちもわかる。私たちより先に試験を受けて落ちる人、私たちより後に入国した女の子たちとそのうち同列になる日が来るのかしら。そのときに抜きに出ていなければ残れない。
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