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 泣き疲れて寝るなんて数年ぶりだった。喉が渇いていた。そして泣いただけなのに、体はぐったり疲れていた。朝方だけど、まだ暗かった。むうちゃんも寝ていた。手を伸ばせば触れるところで寝ている。むうちゃんとたーくんの距離もそうだったはず。
 死を受け入れたのではない。しょうがないと思うようになっただけ。だってもういないのだ。死者は生き返らないし、時間も戻せない。

 温泉に入った。お湯が出っぱなしだとカビは生えないのかな。タイルはお湯が流れる部分だけ変色している。立派ではない。小さいお風呂でも一人では広い。のぼせるまで入りたかった。しかし理性が邪魔をする。あっち側を見たい。たーくんはあっち側にはいなかったはず。ミヤコちゃんは向こう側だ。

 原沢さんはもう起きていた。
「おはよう」
「おはようございます。昨日はすいませんでした」
 と謝罪する。
「お風呂上がり? アイス食べる?」
「いただきます」
 チョコのアイスを食べた。おいしい。

 星名さんが起きてきて、むうちゃんがやって来て、最後にたっくんがぼさぼさの頭で登場した。
 全員で、
「いただきます」
 を言って、鮭を食べた。咀嚼の音がする。漬け物はザクザク音を立てた。汚くない。おいしい。生きるっていうのはこういうことだ。死んだ人を気にかけてばかりもいられない。

 むうちゃんとラクの散歩に出かけた。
「たーくんを殺した人にいつか会うの?」
 私は聞いた。
「どうかな。まあ、理由があったことしたんだろうけど、突発的だったし、自分で蘇生しようともしてるから長くても6、7年なんじゃないかな」
「人を殺したのにそんなもんなんだ」
「そうよ。会っても、何話すの? 謝罪は何年経っても受け入れたれない。向こうも会いたいとは思わないでしょうよ。もしも会いたいと要望されてもそれは向こうの勝手なずるさよ。無理だわ」
 そう答えたむうちゃんは背筋を伸ばしていた。ああ、もうたーくんが死んだことを受け入れている。そういう背中だった。

 ここに滞在するのもそんなに長くないのかもしれない。子どもだからわがままを言えない。学校に行かなくても生きていけるでしょう。でも私は生きてゆく術を身につけたい。そのためには学ばなければいけない。

 むうちゃんとたっくんは星名さんを駅へ送って行った。星名さんは男性だけれど、仕事上の付き合いのみのようだ。誰か早くむうちゃんを癒してくれないかな。この田舎には馴染んだようだけれど。人が少ないだけでもむうちゃんは有難かったはずだ。それに、原沢さんのおおらかさ、山の大きさ、星のきれいさ、温泉の恵み。全てがむうちゃんを癒しているように思う。

 私は原沢さんとパウンドケーキを作った。大好きなナッツをたくさん入れた。明日、たけし君に持って行こうと考えていた。
「風が強い」
 と帰って来たむうちゃんが言った。カーテンを開けると、風が強く、空が赤っぽかった。
「いやな天気」
 と原沢さんも言った。ラクが鳴いていた。
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