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「本当にごめんなさいね」
 原沢さんが謝罪した。
「いえいえ、どうせこの子がいつものように鍵をかけることを忘れていたせいだから」
「大丈夫」
 と答えたけれど、本当はまだどくどくしていた。緊張じゃない。恐怖に似たゾクゾク感。襲われたことはないけれど、きっと同じように感じるだろう。気味が悪いけれど、あれがああなって人が作られるんだもんな。それをもう体験している友人もいるけれど、私はまだいい。だって、嫌じゃない。それによって自分だけじゃなくて相手の人生も狂わしてしまうかもしれない。好きだからそういうことをするのに、責任を押し付け合って、嫌いになってしまうかもしれない。だから、まだいい。
「ちょっと衝撃が大きいかな?」
 放心はしていないが、むうちゃんの問いかけに答えられなかった。

「お父さんとお風呂入らないの?」
 原沢さんが聞いた。
「入らない」
 父とお風呂に入った記憶はない。父は一人で入浴するのが好きなのだ。私ももう入れない年頃になってしまった。私と父は同じように大事なものを逃したということだ。
「気にしないでください」
 とむうちゃんは言った。
「息子さん、大学は?」
 私は尋ねた。だって帰って来るって聞いてなかったから。
「急に帰るって連絡があって。うちが女性限定にしたことは話してあったんだけど。ごめんなさいね」
「ここが家だからしょうがないですよ」
 むうちゃんの言葉に私も納得する。
「悪いわね」
「いいえ。私たちは気にしません」
「あまりうろつかないようにさせるわ」
「背が高いですね」
 それは私も思った。
「そう。旦那は普通で、私は小さいほうなのにね。牛乳が好きだったせいかしら」
「人気の俳優さんに似てますね」
「そう? 私はそういうのにうとくて」
 むうちゃんと原沢さんの会話で少し落ち着けた。
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