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「白金さんが教えてくれたんだけど、たーくんを殺した人ね、妊娠しているんだって。たーくんの子どもかはわからないけど、時期的に可能性は高いよね。その話を聞くまで、その人のこと、恨んでた。でも今は赤ちゃんを産んでほしいと思う。たーくんの生まれ変わりだとは思ってないけど」
 白金さんが帰ったあとでむうちゃんが言った。原沢さんも階下に戻っていた。

「産むの?」
 私は聞いた。
「さあ」
「産めるの? 子どもがかわいそうじゃない?」
「殺人犯の子どもだから?」
「そう」
 きっと大変な人生を送ることになる。
「子どもは親を選べないし、親も子どもを選べない」
「産まない選択もあるよね」
 むうちゃんは二つ目のどらやきを口に運んだ。そして、
「仕事が終わったから、今日は早く寝るよ」
 と言った。

「そうだ。サイン書いてほしいんだけど」
 思い出して私は言った。
「なにゆえ?」
「知り合いに頼まれて」
「もう友達ができたの?」
「そんな感じ」

 むうちゃんとたけし君の妹は合わせないほうが賢明だ。刺激が強すぎる。感受性が強い二人がひき合うのか反発するのかはわからない。どちらにも影響が出るだろう。むうちゃんは画風が変わってしまうかもしれないし、ミヤコちゃんは寝込んでしまうだろう。人が好きなものだけを食べ続けてはいられないように、極端に好むものを摂取しないほうがいい。しかもこの二人は大きな害を生むと思う。殺したり、切断したりしそうだ。食べるかもしれないし、冷凍するかもしれない。不気味だけど、そんな感じがする。

 夜は怖いことを考えてしまってだめだ。真っ暗なのに山の形が見える。月明かりのおかげでほっとした。
 たけし君はもう寝ているだろうか。むうちゃんはもうこんなふうにたーくんのことを想うことはないのだろうか。さすがにもうむうちゃんの中でも死んだことは確定しているだろう。生きたまま別れるのとどちらがよかったのだろうか。たーくんはむうちゃんのことが好きだったのかな。好きじゃないのに一緒にいたのかな。お金目当てだったのかな。不倫相手はお金がなかったのかな。だとしたら、一瞬でもどこに惹かれたのだろうか。たーくんに聞くことはできないし、殺人犯にも聞けない。

 むうちゃんと温泉に浸かった。
「生き返るわあ」
 むうちゃんが言った。
「死んでないじゃん」
「ははっ。そうだね」
 天才っていうのはむうちゃんみたいな人のことだ。翌朝にはもう違う漫画の構想を次々に生み出していた。前進している。悲しくても、たまに後退しても、ちゃんと前だけ見ている。むうちゃんは、賞とか権威には興味がなさそうだった。家の近くの豆腐屋が潰れたときは大騒ぎしていた。あのときはまだたーくんがいた。いつまで思い返すのだろう。付きまとうのだろう。
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