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「あんたちゃんとうんちしてる?」
とむうちゃんに聞かれたのはこちらへ来て数日が経った頃だ。
「してるよ。ここだと音が気になるから下のトイレでしてるの」
私は答えた。
「ユリカ、もしかしてうんちを汚ないものだと思ってる?」
「違うの?」
「どういう教育受けてるの? 学校で習わなかった? あれは栄養になってくれた食べ物のカスなんだよ。感謝しないと」
むうちゃんが力説する。
「うんちに感謝するの?」
「そうだよ。音とか匂いがどうとか言ってるようじゃ、まだまだあまちゃんだね。体にためておくとよくないから、ちゃんと出てきてくれてありがとうって流すのよ」
「はあ」
むうちゃんが言うとそう思えてくる。そんなこと、学校じゃ教えてくれないよ。うんちしたくても学校じゃみんな我慢してると思う。そうだよな。食べたものが体を通ってうんちになるんだよな。普通のことなのになんかすごい。不思議というか、すごいものに思えてきた。自分の体の仕組みも。私が命令したわけでもないのに消化してくれて排泄を知らせてくれる。すごいな、私の体。私が寝てるときだって心臓は動いてくれて、呼吸も継続してくれる。今度は苦手な食べ物も食べてみよう。きっといい栄養になってくれるはず。
「ほら、お姉ちゃんから電話」
「はいはい」
電話ではなくてメールだった。ママから父の帰りが遅いと不満が書き綴られていた。昨日は父から母が羽を伸ばしていると来たばかりだった。
「両方、遊び人の親って嫌だな」
と呟いてしまった。
「お姉ちゃんたち? あの二人は似すぎなんだよ。お姉ちゃんは若いときもてたし、義兄さんだって大学のときテニスサークル入ってたんでしょ? どっちかが我慢したって、片方が治らなければもう一方は苛々するばかりよね。ユリカがいれば歯止めがかかるんでしょうけど」
「私もそうなる?」
避けられるだろうか。
「大丈夫だよ。あれは遺伝しないから。私とお姉ちゃんだって全然違うもん」
「容姿は似てるよ」
「見た目だけね。でも私だけ剛毛。ユリカは?」
「普通」
「いいわね。大変なのよ。脱毛は痛いし、金がかかる。忘れた頃にほら」むうちゃんが足を見せた。確かに太めの毛がつんつんしていた。「大きくなったら毛が少ないことだけで親に感謝できるわよ」
そう言ってむうちゃんは机に向かった。感謝はとっくにしてるよ。むうちゃんが叔母さんで嬉しいよ。ママは毛が少ないかもしれないけど、むうちゃんには才能があったじゃない。そっちのほうを欲する人のほうが多いと思うな。
むうちゃんは座布団を二枚重ねて座っている。集中するとお尻が座布団のくっついてしまうようで、カラのグラスを口に運んで苛ついていた。私はコンビニで買って来たお茶を注いだ。たーくんにはお茶をきちんと淹れるのに、自分のことは後回しだったね。むうちゃんはそのことに気づいているのだろうか。
とむうちゃんに聞かれたのはこちらへ来て数日が経った頃だ。
「してるよ。ここだと音が気になるから下のトイレでしてるの」
私は答えた。
「ユリカ、もしかしてうんちを汚ないものだと思ってる?」
「違うの?」
「どういう教育受けてるの? 学校で習わなかった? あれは栄養になってくれた食べ物のカスなんだよ。感謝しないと」
むうちゃんが力説する。
「うんちに感謝するの?」
「そうだよ。音とか匂いがどうとか言ってるようじゃ、まだまだあまちゃんだね。体にためておくとよくないから、ちゃんと出てきてくれてありがとうって流すのよ」
「はあ」
むうちゃんが言うとそう思えてくる。そんなこと、学校じゃ教えてくれないよ。うんちしたくても学校じゃみんな我慢してると思う。そうだよな。食べたものが体を通ってうんちになるんだよな。普通のことなのになんかすごい。不思議というか、すごいものに思えてきた。自分の体の仕組みも。私が命令したわけでもないのに消化してくれて排泄を知らせてくれる。すごいな、私の体。私が寝てるときだって心臓は動いてくれて、呼吸も継続してくれる。今度は苦手な食べ物も食べてみよう。きっといい栄養になってくれるはず。
「ほら、お姉ちゃんから電話」
「はいはい」
電話ではなくてメールだった。ママから父の帰りが遅いと不満が書き綴られていた。昨日は父から母が羽を伸ばしていると来たばかりだった。
「両方、遊び人の親って嫌だな」
と呟いてしまった。
「お姉ちゃんたち? あの二人は似すぎなんだよ。お姉ちゃんは若いときもてたし、義兄さんだって大学のときテニスサークル入ってたんでしょ? どっちかが我慢したって、片方が治らなければもう一方は苛々するばかりよね。ユリカがいれば歯止めがかかるんでしょうけど」
「私もそうなる?」
避けられるだろうか。
「大丈夫だよ。あれは遺伝しないから。私とお姉ちゃんだって全然違うもん」
「容姿は似てるよ」
「見た目だけね。でも私だけ剛毛。ユリカは?」
「普通」
「いいわね。大変なのよ。脱毛は痛いし、金がかかる。忘れた頃にほら」むうちゃんが足を見せた。確かに太めの毛がつんつんしていた。「大きくなったら毛が少ないことだけで親に感謝できるわよ」
そう言ってむうちゃんは机に向かった。感謝はとっくにしてるよ。むうちゃんが叔母さんで嬉しいよ。ママは毛が少ないかもしれないけど、むうちゃんには才能があったじゃない。そっちのほうを欲する人のほうが多いと思うな。
むうちゃんは座布団を二枚重ねて座っている。集中するとお尻が座布団のくっついてしまうようで、カラのグラスを口に運んで苛ついていた。私はコンビニで買って来たお茶を注いだ。たーくんにはお茶をきちんと淹れるのに、自分のことは後回しだったね。むうちゃんはそのことに気づいているのだろうか。
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