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 むうちゃんが入院してしまったため、ママとむうちゃんの家に荷物を取りに行った。元々むうちゃんとたーくんの写真などはなかったけれど、たーくんの品が減ったその家は私には異質で、むうちゃんには強い衝撃だったのだろう。だから弱ってしまった。むうちゃんが繊細であること、向こうの親は知らないから。たーくんが死んだことだって、殺されたという事実だけだってはっきり言って夢物語みたいなのに、奇妙の連続に私だって気がおかしくなりそうだ。

「なんか、他の家にいるみたいね」
 とママも言った。
「うん」
「どうしてあんたが涙目なのよ」
「だって、たーくんいないし、むうちゃんは倒れるし」
「他人のことに動揺しないの。むつみが変なんだからそのせいでユリカまでおかしくなったら余計にあの子が可哀そう」
 ママの言うことは正論だ。大変なのはむうちゃんなのだ。私や天国のたーくんがじたばたしたってどうにもならない。

 病院に行くと父が廊下に出ていた。
「どうしたの?」
「警察の人が来てるんだ」
「そう」
 刑事さんが帰り、父とママも帰った。私はむうちゃんと本を読んでいた。

「女の人が自供して、実況見分のために明日部屋に来るそうなの」
「え、待って。たーくんて、女の人の部屋で殺されたんじゃないの?」
「実は私たちの家なの。女の人が怒鳴り込んできて、目の前でたーくんを刺した。ユリカが敏感だから言い出せなくて。もうあの家が怖くなった?」
「ううん、平気だよ」
と答えたけれど、ちょっと嫌だなとは思った。そうか、あの家で殺されたのか。そりゃ、むうちゃんが病むわけだ。むうちゃんは淡々と話し、最後だけ顔を手で覆った。
「鍵は渡したんだけど、私も立ち合いに行かないといけないの。ママには内緒よ」
「何時から? 私、付き添うよ」
 と口走っていた。だって、入院するほど弱っているむうちゃんを一人にさせられない。
「今泣いてるようじゃ明日は辛いわよ。たーくんをどこでどう刺したとか、そういう話するんだから」
「大丈夫」
 大丈夫ではないだろう。でもそう言ってしまった。口が動いた。正義感ではない。

 嫌だな。でもどうにもならなかった。両親に秘密を作ることくらい、私の年齢では当然だ。友達に嘘をつくこともある。それらとは類が違う。秘密が重すぎるのだ。一人が殺され、それが身内みたいな人で、親友のような間柄だけど血縁からすると叔母にあたるむうちゃんがへこたれている。補いたいと思うのは普通のことだと思う。
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