包んで、重ねて ～歳の差夫婦の極甘新婚生活～

１４２

　僕の指示がないだけで止まってしまう会社ではない。それぞれが真剣に、全力で働いてくれている。
　それができない人間もいる。所在なさそうに定時が来るのを待っている。

　ある者は人から頼まれた生地を探し、ある者は去年との売り上げの差を数字で比較。なにかしらできることはある。それをやってくれればいい。協調性なんてなくていい。人を疎む人間はここにはいないと思いたい。


　出遅れたせいもあって、仕事を終えたのは深夜だった。
　家に帰ってもよのぎさんはいないのだ。だったらここで寝てしまおうか。会社のソファで寝ることが当たり前だったはずなのに、家に帰って一人のベッドで眠る。
　枕からよのぎさんの匂いがする。寂しい。この気持ちを味わいたくなくて一人でいたのだ。でも今はただひたすら寂しい。

　こちらを慮ってかメッセージさえくれない。スマホのよのぎさんの写真を見て眠る。
「おやすみ」
　君が死んだら毎日がこうだ。だから、長生きしてください。なるたけ、僕も長生きするから。


　妻が家にいないだけで心細い。
　心が寒い。土曜なのに知恵熱。

　洗濯をしなければならないのに。
　不器用なのによのぎさんがシャツにアイロンをかけてくれていることには気づいていた。面倒だからクリーニング屋に出そうか。だが、勘繰られてでもしたら面倒臭い。一人のときは洗濯機の乾燥機能を使いアイロン効果で誤魔化していた。そうしよう。外に出るのも億劫だ。

　よのぎさんの匂いを探して、飼い主を待ち焦がれる犬の気分。枕を抱いて眠って、夫でなければ完璧にやばい奴。

　よのぎさん宛の手紙が届いて、彼女が妻であることを再確認。保険会社からだった。僕の生命保険でも掛けたのだろうか。