包んで、重ねて ～歳の差夫婦の極甘新婚生活～

５２

　若い子のデザインが突飛でないのは自分で壁を作ってしまうから。合格点が取れれば自分が作りたいものでなくてもいいという顔をする。その点、由愛ちゃんは頑固一徹。かわいいのに心は漬物石。なぜか年上の女性受けが悪い。非常識の一言で片づけられてしまう。
　いつか、彼女に追い抜かれるだろう。それが楽しみでたまらない。失敗体験は多いほう。だから乗り越えて、また由愛ちゃんを超えたいと努力する。そのときにはもっと老眼になっているに違いない。

　一人ではここまでになれなかった。もっと会社を大きくしたくて、人を雇ってデザインを盗まれたり人間関係のトラブルが生じたり、でもそれはきっと誰かの力を借りたくて、服を作る楽しさやお金を得る興奮を人と分かち合いたかったからだ。

　今の会社は心地いい。間違ったら訂正してくれるから独りよがりにはならない。

　由愛ちゃんなんて、
「ダッセ」
　の一言。女の人のほうが強いなと思う。男は、特に家族を持つと弱腰になって意見を言わなくなって社長組を抜けてもらった人もいる。

「かわいいですね」
　旗本さんがスカートの画像を取り込みながら言う。丸顔の羽切さん、たまご型の由愛ちゃんと比べると旗本さんは前髪で顔を隠して地味である。メガネも邪魔。でもパソコンに向かう彼女の横顔はするんときれい。

「先生、うちはなにをしたらいいですか？」
「由愛ちゃんはそのスカートに合うトップス考えて。この前の生地を使ってもいいよ」
「うちにだけ仕事丸投げ」
　とぼやく。
「信用してるからだよ」
　僕は言った。
「うっし」
　袖をまくってデザイン画を描く若い人は少ない。
　だって、逆リンゴカッタースカートに勝てるデザインは由愛ちゃんにしか考えられなさそう。下が派手なら上を大人しくさせてしまうものだが由愛ちゃんにセオリーは通用しない。