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4 シュリーデル侯爵家について
しおりを挟むフィーナの生家であるシュリーデル侯爵家は、フェルヴィーゼ王国の中では凡庸な侯爵家として知られている。
特に重要な役職に就いているわけでもなく、親戚筋に権力者がいるわけでもない。もちろん有力な貴族でもなければ、ただ爵位があるだけの名ばかりの侯爵家といえる。
つまりは国王派でもなければ、貴族の中にあってどの派閥にも属していない中立的な立場を常に取っていたのだ。
それゆえ、他の貴族たちから見れば王家は自らの実権を守るため、どの派閥にも属さないシュリーデル侯爵家の令嬢を王太子の婚約者に選んだように見えただろう。
なんの権力も持たない、力のある伯爵家にも劣り、爵位があるだけの名ばかりの侯爵家。それが他の貴族たちから見たシュリーデル侯爵家だ。
だが、それは表向きの側面にすぎなかった。
この侯爵家は非公式ではあるが、王家から与えられた重要な役職に代々就いていたのだ。
つまり、裏から常に王家を支える役職に就いていた。
簡単に言えば、『王家の密偵』と呼ばれる者たち。
密偵とは、主に権力者に仕え情報収集や表向きにはできない裏の仕事を行う者たちだ。
彼らの多くは、表向きには存在しないとされ、身分は非常に低い者たちも多く、先祖代々同じ家に使え続けている。
そしてシュリーデル侯爵家も、先祖代々王家に仕え忠誠を誓っているのだ。ただ一般的な密偵とは違いかなり特殊で、表向きは侯爵家として存在している。
王家の密偵は、密偵の中でも群を抜き能力が高いことで知られてはいたが…その存在は、噂として囁かれる程度のものだった。
もちろん、この侯爵家が今まで王家の密偵として働いていることに気づいた者は、ひとりとして存在しない。なぜなら、秘密を知りえた者はすぐにも闇へと葬り去られ、物言わぬ人となるからである。
――その日の夜、
王宮から侯爵邸に戻り、すぐにシュリーデル侯爵である父に報告をした後、フィーナは夕食をとった後、自室にこもると静かに本を読んでいた。
まだ夜は浅く、眠るまでには時間もある。
それに…今日一日はいろんなことがあり過ぎて、頭を休める時間が欲しかったのだが。
ふと、読んでいた本を閉じると柱の暗がりに向け声を掛けたのだ。
「アインス――。戻ってきたのなら正面から入ってくればいいのに…その登場の仕方は心臓に悪いわ」
「ごめん。先にフィーナと話がしたくてね」
ふいに柱の暗がりから姿を現したのは、黒装束に身を包んだ細身の青年だった。髪はフィーナと同じ銀色。年は彼女よりも少し上ぐらいだろうか。
彼は、にこにこと人好きのする笑みを浮かべると、悪びれた様子もなく姿を現したのだ。
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