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1 王家の庭園にて
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それは、のどかなそよ風が吹く王家の庭園でのこと。
私は静かな表情で感情が表に出ないよう、優雅な仕草でカップを口に当て、紅茶を飲んでいた。
目の前にいる人物を完全に無視できたなら――紅茶も、私好みの爽やかな口当たりで申し分なく、おまけに私の大好きなお菓子までついている。
香ばしいライ麦の風味に、優しくどこか素朴な匂いのする小麦色のスコーン。そこに添えられているストロベリーとグランベリーのジャム。さっぱりとした甘みの真っ白なクリーム。
香ばしいスコーンに、ジャムとクリームをつけて食べると至福の時間を味わうことができる。
心の中では、口の中に思いきり頬張って味わいたいが、そこは我慢だ! 侯爵令嬢としてはあるまじき行為だということは自覚している。
王家の庭園も新緑が美しく、春の季節ということもあり可憐な花々が咲き誇り、小鳥が綺麗な声で歌っている。
私の大好きな、心ゆくまでのぼっちなお茶会を満喫できるのなら、とてもゆったりと癒されていたことだろう。
しかし――目の前には、絵にかいたような美しい王子様が座り、私に微笑みかけている。
そこら辺の貴族の令嬢ならば頬をバラ色に染め、うっとりと夢心地だろうに……
だけど私は、内心では顔が引きつっていた。
なぜなら、ふつうの令嬢がうっとりするような微笑み裏の性格を私は知っているから。この男はかなりの腹黒なのだ。
私の本心は…その綺麗な顔をすぐにでも殴って、席を立ちたい気分なのだ。無礼だと十分わかってはいるが…
しかし、この国の王太子殿下に向かいそんなことをするわけにもいかない。私たち一族にとって大切な方でもあるのだから。
そんなことをすれば、侯爵家の当主であるお父様がどう思われるか…。
ほんとーにめんどくさい後始末を考えれば、おのずと答えは出ている。
不本意だが、愛想笑いを浮かべつつアルフレット王太子とのお茶会に付き合うしかないのだ。
「まあ、不服かも知れないが、しばらく私とのお茶会に付き合ってもらうぞ。フィーナ嬢」
「そんな王太子殿下に招いて戴けただけでも光栄ですのに、私に不服などございませんわ」
「まあ、そういうことにしておこうか」
どこか、意味深なことをいうとアルフレット王太子は紅茶に口をつけたのだ。
離れた所にいる護衛から会話の内容は聞こえてはいないはずだ。遠目から見れば、和やかな雰囲気に見えるだろう。
この方は私の心の内などお見通しというわけか。完全に化かしあいの会話、とんだ茶番というわけだ。
だが、いつまでもこんな茶番に付き合うつもりなど私には毛頭ない。
「では、大変不躾ですが単刀直入にお伺いいたします。私を呼ばれた本当の理由をお聞かせ願いますか? ただのお茶会というのは建前では?」
「ほお、私が其方を呼んだ理由など、あらかた察しがついていると思ったのだがね?」
王太子アルフレットは不敵な笑みを浮かべると。
「では、前置きは抜きにして話そうか。フィーナ嬢、私の婚約者になってほしい」
その瞬間フィーナの顔は完全に引きつったのだ。
私は静かな表情で感情が表に出ないよう、優雅な仕草でカップを口に当て、紅茶を飲んでいた。
目の前にいる人物を完全に無視できたなら――紅茶も、私好みの爽やかな口当たりで申し分なく、おまけに私の大好きなお菓子までついている。
香ばしいライ麦の風味に、優しくどこか素朴な匂いのする小麦色のスコーン。そこに添えられているストロベリーとグランベリーのジャム。さっぱりとした甘みの真っ白なクリーム。
香ばしいスコーンに、ジャムとクリームをつけて食べると至福の時間を味わうことができる。
心の中では、口の中に思いきり頬張って味わいたいが、そこは我慢だ! 侯爵令嬢としてはあるまじき行為だということは自覚している。
王家の庭園も新緑が美しく、春の季節ということもあり可憐な花々が咲き誇り、小鳥が綺麗な声で歌っている。
私の大好きな、心ゆくまでのぼっちなお茶会を満喫できるのなら、とてもゆったりと癒されていたことだろう。
しかし――目の前には、絵にかいたような美しい王子様が座り、私に微笑みかけている。
そこら辺の貴族の令嬢ならば頬をバラ色に染め、うっとりと夢心地だろうに……
だけど私は、内心では顔が引きつっていた。
なぜなら、ふつうの令嬢がうっとりするような微笑み裏の性格を私は知っているから。この男はかなりの腹黒なのだ。
私の本心は…その綺麗な顔をすぐにでも殴って、席を立ちたい気分なのだ。無礼だと十分わかってはいるが…
しかし、この国の王太子殿下に向かいそんなことをするわけにもいかない。私たち一族にとって大切な方でもあるのだから。
そんなことをすれば、侯爵家の当主であるお父様がどう思われるか…。
ほんとーにめんどくさい後始末を考えれば、おのずと答えは出ている。
不本意だが、愛想笑いを浮かべつつアルフレット王太子とのお茶会に付き合うしかないのだ。
「まあ、不服かも知れないが、しばらく私とのお茶会に付き合ってもらうぞ。フィーナ嬢」
「そんな王太子殿下に招いて戴けただけでも光栄ですのに、私に不服などございませんわ」
「まあ、そういうことにしておこうか」
どこか、意味深なことをいうとアルフレット王太子は紅茶に口をつけたのだ。
離れた所にいる護衛から会話の内容は聞こえてはいないはずだ。遠目から見れば、和やかな雰囲気に見えるだろう。
この方は私の心の内などお見通しというわけか。完全に化かしあいの会話、とんだ茶番というわけだ。
だが、いつまでもこんな茶番に付き合うつもりなど私には毛頭ない。
「では、大変不躾ですが単刀直入にお伺いいたします。私を呼ばれた本当の理由をお聞かせ願いますか? ただのお茶会というのは建前では?」
「ほお、私が其方を呼んだ理由など、あらかた察しがついていると思ったのだがね?」
王太子アルフレットは不敵な笑みを浮かべると。
「では、前置きは抜きにして話そうか。フィーナ嬢、私の婚約者になってほしい」
その瞬間フィーナの顔は完全に引きつったのだ。
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