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不穏な影と貴族の娘
しおりを挟むあれから数週間が経ち、そんなある日のこと。
村の境で猟師をしている男が診療所へと駆け込んできたのだ。村の近くで若い女が行き倒れになっているというので至急、診てほしいというのだ。
ちょうどアメリアは森へ薬草を採りにいったまま、まだ村には戻ってはいなかった。
もう少し待てば村に帰ってくるだろうが悠長に彼女を待つわけにもいかず、セルフィスは運び込まれてきた患者の診察を行うことにしたのだ。
運び込まれてきた患者の容態を診ると、特に病にかかっているようにも、毒蛇などに噛まれたようにも見えなかった。どうやら、ただの疲労と空腹により倒れたようだと結論に至りほっと息を吐く。
「命に別状はありません。ただの疲労と空腹により倒れたようですね。少しずつ栄養がある物を食べさせていけばすぐに回復するでしょう。今日は念のため、ここで様子を見ることにします」
セルフィスはそう伝えると、彼女を心配して運び込んできた村人たちはほっと安堵し、それぞれの場所へと帰っていったのだ。
セルフィスは女が眠っている寝台の横の椅子へと、そっと腰をかける。
年のころならアメリアと同じぐらいか少し年上か・・まだ若い娘のようだ。
着ている服をみると上等で、この辺に住む村娘のものとは明らかに違う。おそらくは貴族の娘・・
だが、なぜ貴族の娘がこんなところをうろついているのか?
まったく不可解で首を捻るしかない。
娘を見つけた男の話によると、人探しの旅の途中で眩暈がしてそのまま倒れてしまったと、娘は意識を失う前にそう話していたらしいが・・なんとも不可解で、おかしなことだ・・
この話をそのまま信じるかは別として、体調のすぐれない人間をそのまま放っておくわけにもいかないというのが彼の本音でもある。
脈は正常だし、このまま目が覚めるまで静かに眠らせておいた方が良いだろうとセルフィスは判断し席を立とうとした、その時――
娘は目をふと開けると、彼の服の裾を掴んだのだ。
「あの・・もう少しだけ傍にいてもらえまえんか?」
彼女は熱っぽくセルフィスを見つめると囁いてきたのだ。
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