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第一章
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「ただいまー」
「お、陽!おかえり。今日もダンス?精が出るねえ」
ダンスレッスンを終えて僕が家に帰りリビングへと入ると、姉の日和が見ていたテレビから目を離して僕に微笑みかけた。
「姉さん!帰ってたの」
僕はリュックを置くと、姉の向かいのソファに腰掛ける。
「ん。久々の連休だからね、里帰りよ」
「里帰りって……たった30分の距離でしょ」
そんなことを返しながらも、僕は久々に会う姉のキラキラした笑顔を見つめた。
「そんなこと言わないでよー!大好きな弟の様子を見にわざわざ来たんだからー!」
そう言ってウインクするこの姉は、僕の自慢だ。
明るく社交的で、誰からも好かれる、芸能界で引っ張りだこのメイキャップアーティスト。
姉さんは、華やかな場所が似合う人で、たまに家に帰ってきたときも色々なメイク道具の良い匂いがふわりとする。
昔、姉さんがメイクしたモデルの雑誌を見つけたとき、なぜが僕は僕がメイクしたわけでもないのに誇らしく思ったものだ。
言ってしまえば、姉は僕とは真逆の人。
「んー?どした?悩みならこの頼れる姉さんに相談してみなさい?」
姉の言葉に返すことなく黙った僕に、そう姉が優しく問いかける。
僕は、姉の目をまともに見れなくなり、目を逸らしながら言葉を探った。
「あー……えっと……じゃあ一つ」
僕はドキドキしながらそう切り出した。
断られたらどうしよう?などと余計なことが頭の中を回る。
「無理を承知で言うけど」
「ん?何々どした?」
「姉さんの仕事してる姿を見学するって……だめ?」
僕はソワソワして頭をかきながらそう言った。
「あ、無理にとは言わないよ!ちょっと学校の課題で……来週から夏休みでしょ?」
僕はうまく出てこない言葉を頭の中でぐるぐるさせながらそう言う。
「そこで……その……自分の憧れの人について書く課題がある……んだよね」
僕はそこまで言ってモジモジした。
この課題を聞いた時、頭に浮かんだのは2つ。
一つは姉さん。
もう一つはZIPS……ORION ENTERTAINMENTのジュニアグループだ。
ジュニアグループとは、まだ正式にデビューしてないメンバーの事で、彼らはまだ実際にグループでCDデビューはしていない。
けれど、国民的人気グループSAVER’S……高橋が好きなグループだ……のバックダンサーを筆頭に、他の先輩のライブや舞台に出演したりと次期デビューを噂されているグループだ。
僕は彼らがZIPSとしてジュニアで活動し始めた頃から注目している。
まあ、言ってしまえば僕の一番の「推し」だ。
彼らは目の覚めるようにキレのあるダンスパフォーマンスとアクロバットが得意なグループである。
初めて見た時、そのアクロバットの完成度と一糸乱れぬフォーメーションのダンスパフォーマンスに目を奪われて釘付けになった。
……ああ、こうやって思い返すと、どうしても熱が入っちゃう。
だから、ただのファンとして憧れるだけじゃなく、彼らみたいに踊れるようになりたいって気持ちが自然と強くなっていった。
その日から、ただダンスが好きで続けていた僕に「ZIPSの様に踊る」という目標が出来たのだ。
ちなみに、歌もラップも勿論上手い。
ただ、まだデビュー前と言うことで、まだオリジナルの曲は少ないのだが。
歌が上手いメンバーは……しまった、またもやオタク早口で妄想語りしすぎた。
話を戻そう。
勿論、ツテも何もないただのファンの僕が、いくら憧れだからと言って彼らを取材して課題にするなんてことは出来ない。
となると、選択肢は姉一択になる。
……が、姉も売れっ子だ。
姉の仕事を見学したいメイキャップアーティストなんて星の数ほどいるはずだ。
当たり前だがそれを押し除けて見学が簡単にできるとは思っていない。
でも、もし、姉の仕事を見学させてもらえるなら、良い課題ができると思うのも事実だ。
「憧れの人、ね」
姉はそう言ってフッと笑うと、ぐしゃぐしゃと僕の髪を混ぜた。
「なによー!可愛いこと言ってくれるじゃない!」
「だ、だって……姉さんはいつもキラキラしてて……本当に格好いいと思うから……」
僕の言葉に、姉は僕をギュッと抱きしめると、嬉しそうに笑う。
「あーもう。そんな可愛いこと言われたら断れないじゃない。わかった。いいよ!」
「え!ほんと?」
「ほんと!事務所とタレントさんに連絡して、許可もらってみるよ。日程は夏休みならいつでもいい?」
「勿論!合わせるよ!姉さんありがとう!」
僕はそう言って思わず姉を抱きしめ返す。
「こら!苦しいわよ!」
笑いながらそう言う姉に「ごめん」と返しながらそれでも緩む頬が抑えられない。
憧れの姉が、憧れの芸能界でキラキラ働いている仕事が見られる。
僕はダンスレッスン以外に夏休みの楽しみができて、久々にワクワクしていた。
まさか、それがキッカケで僕の人生が180度変わっていくなんて、この時の僕は全く思いもしなかったーー。
「お、陽!おかえり。今日もダンス?精が出るねえ」
ダンスレッスンを終えて僕が家に帰りリビングへと入ると、姉の日和が見ていたテレビから目を離して僕に微笑みかけた。
「姉さん!帰ってたの」
僕はリュックを置くと、姉の向かいのソファに腰掛ける。
「ん。久々の連休だからね、里帰りよ」
「里帰りって……たった30分の距離でしょ」
そんなことを返しながらも、僕は久々に会う姉のキラキラした笑顔を見つめた。
「そんなこと言わないでよー!大好きな弟の様子を見にわざわざ来たんだからー!」
そう言ってウインクするこの姉は、僕の自慢だ。
明るく社交的で、誰からも好かれる、芸能界で引っ張りだこのメイキャップアーティスト。
姉さんは、華やかな場所が似合う人で、たまに家に帰ってきたときも色々なメイク道具の良い匂いがふわりとする。
昔、姉さんがメイクしたモデルの雑誌を見つけたとき、なぜが僕は僕がメイクしたわけでもないのに誇らしく思ったものだ。
言ってしまえば、姉は僕とは真逆の人。
「んー?どした?悩みならこの頼れる姉さんに相談してみなさい?」
姉の言葉に返すことなく黙った僕に、そう姉が優しく問いかける。
僕は、姉の目をまともに見れなくなり、目を逸らしながら言葉を探った。
「あー……えっと……じゃあ一つ」
僕はドキドキしながらそう切り出した。
断られたらどうしよう?などと余計なことが頭の中を回る。
「無理を承知で言うけど」
「ん?何々どした?」
「姉さんの仕事してる姿を見学するって……だめ?」
僕はソワソワして頭をかきながらそう言った。
「あ、無理にとは言わないよ!ちょっと学校の課題で……来週から夏休みでしょ?」
僕はうまく出てこない言葉を頭の中でぐるぐるさせながらそう言う。
「そこで……その……自分の憧れの人について書く課題がある……んだよね」
僕はそこまで言ってモジモジした。
この課題を聞いた時、頭に浮かんだのは2つ。
一つは姉さん。
もう一つはZIPS……ORION ENTERTAINMENTのジュニアグループだ。
ジュニアグループとは、まだ正式にデビューしてないメンバーの事で、彼らはまだ実際にグループでCDデビューはしていない。
けれど、国民的人気グループSAVER’S……高橋が好きなグループだ……のバックダンサーを筆頭に、他の先輩のライブや舞台に出演したりと次期デビューを噂されているグループだ。
僕は彼らがZIPSとしてジュニアで活動し始めた頃から注目している。
まあ、言ってしまえば僕の一番の「推し」だ。
彼らは目の覚めるようにキレのあるダンスパフォーマンスとアクロバットが得意なグループである。
初めて見た時、そのアクロバットの完成度と一糸乱れぬフォーメーションのダンスパフォーマンスに目を奪われて釘付けになった。
……ああ、こうやって思い返すと、どうしても熱が入っちゃう。
だから、ただのファンとして憧れるだけじゃなく、彼らみたいに踊れるようになりたいって気持ちが自然と強くなっていった。
その日から、ただダンスが好きで続けていた僕に「ZIPSの様に踊る」という目標が出来たのだ。
ちなみに、歌もラップも勿論上手い。
ただ、まだデビュー前と言うことで、まだオリジナルの曲は少ないのだが。
歌が上手いメンバーは……しまった、またもやオタク早口で妄想語りしすぎた。
話を戻そう。
勿論、ツテも何もないただのファンの僕が、いくら憧れだからと言って彼らを取材して課題にするなんてことは出来ない。
となると、選択肢は姉一択になる。
……が、姉も売れっ子だ。
姉の仕事を見学したいメイキャップアーティストなんて星の数ほどいるはずだ。
当たり前だがそれを押し除けて見学が簡単にできるとは思っていない。
でも、もし、姉の仕事を見学させてもらえるなら、良い課題ができると思うのも事実だ。
「憧れの人、ね」
姉はそう言ってフッと笑うと、ぐしゃぐしゃと僕の髪を混ぜた。
「なによー!可愛いこと言ってくれるじゃない!」
「だ、だって……姉さんはいつもキラキラしてて……本当に格好いいと思うから……」
僕の言葉に、姉は僕をギュッと抱きしめると、嬉しそうに笑う。
「あーもう。そんな可愛いこと言われたら断れないじゃない。わかった。いいよ!」
「え!ほんと?」
「ほんと!事務所とタレントさんに連絡して、許可もらってみるよ。日程は夏休みならいつでもいい?」
「勿論!合わせるよ!姉さんありがとう!」
僕はそう言って思わず姉を抱きしめ返す。
「こら!苦しいわよ!」
笑いながらそう言う姉に「ごめん」と返しながらそれでも緩む頬が抑えられない。
憧れの姉が、憧れの芸能界でキラキラ働いている仕事が見られる。
僕はダンスレッスン以外に夏休みの楽しみができて、久々にワクワクしていた。
まさか、それがキッカケで僕の人生が180度変わっていくなんて、この時の僕は全く思いもしなかったーー。
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