七歳差の恋愛事情は苺より甘くてコーヒーよりも苦い

朝比奈歩

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本編

第8話

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「よ、早かったな」
「急にすみません」
圭介はマンションのドアを開けて潤を招き入れるとリビングへと案内をし、テーブルの上にいくつかの資料を出す。
「これがまず、言われてた『西洋中世史研究入門』の原本とコピー。後、『ローマ法とヨーロッパ』はきっと参考文献で要りそうになるだろうから、これも持ってけ。ついでだからこっちの『ローマ法の歴史』の資料もやるよ」
圭介は言いながら、いくつかの本と沢山ラインの引いてあるコピー資料を渡してくれる。
コピー資料には細かく書き込みがなされていて、それを読むだけでも勉強になりそうだ。
「ありがとうございます、助かります」
潤は資料と本を受け取ると、カバンに詰め込む。
行きは軽かったカバンがずっしりと重くなった。
「はは、重いだろ。途中まで持っていってやるよ」
圭介はそういうと、潤のカバンを持つ。
「え?いえそんな、悪いです!」
潤は首を振ると、カバンを取り返そうとした。
しかし、圭介は軽快に笑うと潤の頭をぐしゃりと撫でてカバンを肩にかけてしまう。
「じゃあ、その代わり今からコーヒー一杯付き合えよ。おれ、中途半端な時間に飯食ったら、小腹が空いちゃってさ」
「え?ああ……はい、コーヒーくらいなら……」
潤はいくら言っても渡そうとしない圭介からカバンを取り返す事を諦めると、小さく笑った。
「よし、決まり。この近くに、自家焙煎の旨い店があるんだよ」
そう言うと、圭介は立ち上がって潤を促す。
潤も続いて立ち上がると、部屋の出口へと向かった。
マンションを出て少し歩くと、賑わいのある繁華街へ出る。
圭介と潤が並んで道を歩いていると、不意に酔っ払いが潤にぶつかりそうになった。
「……ったく」
圭介は酔っ払いを細目で見ると、潤の肩を抱きグイと自分の方へ引き寄せる。
「おっとぉ~ごめんなさぃねえ~」
フラフラした酔っ払いは、既のところで潤にぶつからずにすり抜けると、そのままフラフラと歩いていった。
「……えっと、あの……先輩」
「ん?……ああ、すまん」
控えめに掛けられた声に、圭介は謝りながら抱いていた肩を離す。
「いえ、庇ってくれて、ありがとうございます」
潤は素直に礼を言うと、照れたように俯いた。
圭介は、そんな潤をみて苦笑いをする。
この潤という青年は、おそらく自分の魅力をまだまだ分かっていないのだろうと、圭介は思っていた。
整った顔、白い肌、凛とした瞳。
少々気の強そうな雰囲気は纏っているが、それが逆にいいアクセントになっている。
圭介は小さく肩をすくめながら歩を進めた。
「お、ここだここ」
圭介は目的のカフェを見つけると、ドアを押して潤を中に入れる。
雰囲気のある小洒落たカフェだが、大人の落ち着きがあり、『インスタ映え』とは一線を画した店構えだ。
客層も大人の男性が多い。
圭介は案内された窓際のテーブルにつくと、メニューを広げる。
メニューには色々な種類のコーヒーが何種類も載っていて、普段あまり本格的なコーヒーを飲まない潤はどれを選んだらよいかわからず、圭介の顔を見上げた。
「あの……僕、コーヒーあんまり詳しくなくて……」
困ったような顔をした潤に、圭介は笑う。
「そっか。じゃあいくつか質問するぞ。苦味と酸味はどっちが苦手だ?」
「……苦いのはちょっと……」
「ん。じゃあ、酸味は?」
「そこまで得意じゃないです」
「潤は甘党か?」
「………はい」
圭介は再び笑うと、幾つかの豆を選ぶ。
「じゃあ、中煎りの物がいいな。だとすると……」
その中から、圭介は一つの種類を指さした。
「これなんか、割とマイルドでクセがなくて飲みやすいと思うぞ」
選んだコーヒーは『グアテマラ アルトデメディナ』。
「じゃあ、それで」
潤はよく分からないながらも、選んでもらったコーヒーに頷く。
「おれは、深煎りの『インドネシア マンデリン トバコ』だな」
圭介はそう決めると、二人分のコーヒーを注文した。
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