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本編
第7話
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「……ん?あれ?」
潤はノートパソコンのキーボードを打ち込みながら、テーブルの上に散乱した資料を漁る。
レポート用に借りてきたはずの資料がない。
大学の図書館から、確か四冊借りてきたはずだ。
テーブルにあるのは『西洋中世学入門』『概説西洋法制史』『裁判官・立法者・大学教授』……やはり一冊足りない。
『西洋中世史研究入門』と言う本も借りたはずだったが、忘れてしまったのだろうか?
潤はカバンの中を再度確認するが、やはり入っていない。
潤は昼間の出来事を思い出す。
図書館に行って……順番に本を探して……あ、そうだ!最後の本だけは貸し出し中だったのだ。
後でサークルの先輩の圭介に資料がないか聞こうと思って、そのまま忘れていた。
潤は時計を見る。
時計の針は午後9時半を指していた。
今から圭介に連絡しても良いだろうか?
潤はスマホを手に取ると、圭介とのLINEを開いた。
『先輩すみません。《西洋中世史研究入門》って本、持ってませんか?』
スマホをフリックし、さっとそれだけを打つとすぐに既読がつく。
『西洋法制史?「フェーデとフリーデ」「中世法の理念と現実」あたりのレポートかな?原典もあるし、その辺りの部分のコピーの資料で良ければあげるよ』
1分もしないうちに、圭介から返事が来た。
流石は圭介、本のタイトルを言っただけで、レポートの内容まで当てるとは。
潤は舌を巻くと、すぐに返信をする。
『そうです。もし良ければ資料貸してもらえませんか?』
ピコンと音がして、またもすぐに返事がきた。
『今から?良いよ。持って行こうか?』
『いえ、僕が取りに行きます。良いですか?』
『分かった。準備して待ってる』
スマホの画面を消すと、潤はうーんと伸びをした。
カバンにスマホを入れ、肩にかける。
テーブルから立ち上がりかけてはたと気がつき、再び座ると潤は手近なレポート用紙に椿へのメッセージを書いた。
『先輩の所に資料を借りに行きます。すぐ戻るよ 潤』
心配性な椿のことだから、万が一潤よりも先に帰ってきたら、潤が居ないことにとても心配するだろう。
メッセージを書き終えると、潤は急いで圭介のマンションへ向かうべく靴を履いた。
今日は金曜日。
世の中は明日からの休みに浮かれお酒を飲んだりした人が多く、陽気なムードが漂っている。
潤は、大騒ぎしながら家や二軒目へと向かう人混みを縫いながら、駅へと向かった。
椿さんもこんな風に飲んでいるのかな、と頭の隅で考えて、潤は頭を振った。
椿は酒に弱い方ではないし、そもそも酔い潰れるほど羽目を外して飲むこともない。
潤が見る限り、家で飲むにしても、外で飲むにしても、椿が酔って醜態を晒したことは一度もなかった。
もっとも、潤と外で食事をするときに椿が酒を飲むことは殆どなかったが。
椿はああ見えてビールに目がなく、週末などは風呂上がりに美味そうにビールを飲んだりしていた。
潤にはその美味しさが分からなかったが。
一度ビールを飲んだ椿とキスをしたら、物凄く苦くて、甘党の潤は思わず涙目になったものだ。
それ以来、潤はビールを飲んだ椿とはキスをしない事にしている。
もっとも、上機嫌の椿は構わず頬や髪にキスを降らせるから、潤はつい照れてしまって『酔っ払い!』などと悪態をついてしまうのだった。
不意にそんな幸せな日常を思い出して頬を緩めると、丁度来た電車に飛び乗る。
ガタゴトと揺られながら、潤はぼんやりと椿のことを思った。
帰ってきたら拗ねたふりをしてたくさん甘えてやろう、とか、明日の休みは独占してやろうとか。
きっとビールを飲んでくるだろうから、キスはなしだな、とか。
そんな事を思いながら、潤は圭介のマンションの最寄り駅まで幸せな計画を練っていた。
潤はノートパソコンのキーボードを打ち込みながら、テーブルの上に散乱した資料を漁る。
レポート用に借りてきたはずの資料がない。
大学の図書館から、確か四冊借りてきたはずだ。
テーブルにあるのは『西洋中世学入門』『概説西洋法制史』『裁判官・立法者・大学教授』……やはり一冊足りない。
『西洋中世史研究入門』と言う本も借りたはずだったが、忘れてしまったのだろうか?
潤はカバンの中を再度確認するが、やはり入っていない。
潤は昼間の出来事を思い出す。
図書館に行って……順番に本を探して……あ、そうだ!最後の本だけは貸し出し中だったのだ。
後でサークルの先輩の圭介に資料がないか聞こうと思って、そのまま忘れていた。
潤は時計を見る。
時計の針は午後9時半を指していた。
今から圭介に連絡しても良いだろうか?
潤はスマホを手に取ると、圭介とのLINEを開いた。
『先輩すみません。《西洋中世史研究入門》って本、持ってませんか?』
スマホをフリックし、さっとそれだけを打つとすぐに既読がつく。
『西洋法制史?「フェーデとフリーデ」「中世法の理念と現実」あたりのレポートかな?原典もあるし、その辺りの部分のコピーの資料で良ければあげるよ』
1分もしないうちに、圭介から返事が来た。
流石は圭介、本のタイトルを言っただけで、レポートの内容まで当てるとは。
潤は舌を巻くと、すぐに返信をする。
『そうです。もし良ければ資料貸してもらえませんか?』
ピコンと音がして、またもすぐに返事がきた。
『今から?良いよ。持って行こうか?』
『いえ、僕が取りに行きます。良いですか?』
『分かった。準備して待ってる』
スマホの画面を消すと、潤はうーんと伸びをした。
カバンにスマホを入れ、肩にかける。
テーブルから立ち上がりかけてはたと気がつき、再び座ると潤は手近なレポート用紙に椿へのメッセージを書いた。
『先輩の所に資料を借りに行きます。すぐ戻るよ 潤』
心配性な椿のことだから、万が一潤よりも先に帰ってきたら、潤が居ないことにとても心配するだろう。
メッセージを書き終えると、潤は急いで圭介のマンションへ向かうべく靴を履いた。
今日は金曜日。
世の中は明日からの休みに浮かれお酒を飲んだりした人が多く、陽気なムードが漂っている。
潤は、大騒ぎしながら家や二軒目へと向かう人混みを縫いながら、駅へと向かった。
椿さんもこんな風に飲んでいるのかな、と頭の隅で考えて、潤は頭を振った。
椿は酒に弱い方ではないし、そもそも酔い潰れるほど羽目を外して飲むこともない。
潤が見る限り、家で飲むにしても、外で飲むにしても、椿が酔って醜態を晒したことは一度もなかった。
もっとも、潤と外で食事をするときに椿が酒を飲むことは殆どなかったが。
椿はああ見えてビールに目がなく、週末などは風呂上がりに美味そうにビールを飲んだりしていた。
潤にはその美味しさが分からなかったが。
一度ビールを飲んだ椿とキスをしたら、物凄く苦くて、甘党の潤は思わず涙目になったものだ。
それ以来、潤はビールを飲んだ椿とはキスをしない事にしている。
もっとも、上機嫌の椿は構わず頬や髪にキスを降らせるから、潤はつい照れてしまって『酔っ払い!』などと悪態をついてしまうのだった。
不意にそんな幸せな日常を思い出して頬を緩めると、丁度来た電車に飛び乗る。
ガタゴトと揺られながら、潤はぼんやりと椿のことを思った。
帰ってきたら拗ねたふりをしてたくさん甘えてやろう、とか、明日の休みは独占してやろうとか。
きっとビールを飲んでくるだろうから、キスはなしだな、とか。
そんな事を思いながら、潤は圭介のマンションの最寄り駅まで幸せな計画を練っていた。
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