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本編
第6話
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「古谷さん~!好みのタイプってどんな人ですかぁ~?」
椿の腕を掴んだまま、春奈がそう問う。
「……これといってないよ。強いて言えば、好きになった人がタイプかな」
椿の答えに、春奈はさらに腕を絡めると再び口を開く。
「いいなぁ~。古谷さんに好きになられる人、幸せだろうな~」
「そうかな」
「そうですよ!優しいし、格好いいし、穏やかで大人だし……」
春奈はそう言うと、とろんとした眼で椿を見つめる。
普通の男なら「ドキッ」としてもおかしく無い可愛い仕草だ。
しかし、椿には溺愛する可愛くて仕方ない恋人がいた。
……普段、あまり態度には出さないが。
まさか、その事で潤が悩んでいるなどと、椿は知る由もないだろう。
実は潤が思うより、椿は潤のことを深く愛していた。
しかし、椿自身がそうした姿を見せないから、潤は気が付かない。
それは、椿にとって自分は潤の「余裕ある大人な恋人」でいたいと思っているからに他ならないが、実際の恋愛ではそればかりが良いとはならないのが辛いところだ。
それはある意味、潤をとても大切に愛していることの裏返しであるのだが、いかんせん伝わらないから意味がない。
なんにせよ、椿は潤にベタ惚れと言って良いほど惚れていた。
だから、いくら他の人間が可愛く迫ったところであまり効果はないのだ。
それどころか、困惑しかしない。
椿は眉毛を下げると、やんわりと春奈を制する。
「……上田さん。少し飲み過ぎじゃ無いかな?」
「そんなことないれすよー」
しなだれかかる春奈に、椿は今日何度目かになるため息をついた。
このままでは全員潰れてしまう。
椿は佐々木に視線をやった。
佐々木は他のメンバーに比べてまだマシな方だ。
「ねえ、このままだとあの三人潰れちゃうよ」
椿に言われ、佐々木はうーんと考えるような仕草をする。
そして、思いついたように視線を椿に戻した。
「ああ……高橋さんは旦那さんが迎えに来るって言ってた。水谷さんはおれが送るわ。古谷、おまえ上田さん頼める?」
「………」
椿は少し困ったような顔をするが、このまま酔った女性を置いて帰るわけにはいかない。
「……わかったよ」
「おーい、上田さん!寝ちゃう前に住所!教えて!水谷さんも!」
佐々木はそう言うと、酔った二人からスマホをかり、住所を控える。
「……ほい、これ上田さんの住所」
佐々木はそう言うと、支払いをするためにレジに向かった。
椿は受け取ってメモを見ると、頭をかく。
まさか、こんな事になるなんて。
何もやましいことはしていないのに、椿は頭の中で潤になんと説明しようかと悩んでいた。
早く帰ると約束したのにな、と口の中でつぶやくと、寝る寸前の春奈を軽く揺さぶる。
「上田さん……上田さん……!さあ、帰ろう」
「んん~……はぁい……」
椿は上田を支えると、支払いを終えた佐々木と共にタクシーを拾うために店の外に出た。
「じゃ、上田さんは頼んだよ」
「……ああ」
椿は、この日最大となるため息をつくと、キラキラと煌めく夜空を見上げた。
椿の腕を掴んだまま、春奈がそう問う。
「……これといってないよ。強いて言えば、好きになった人がタイプかな」
椿の答えに、春奈はさらに腕を絡めると再び口を開く。
「いいなぁ~。古谷さんに好きになられる人、幸せだろうな~」
「そうかな」
「そうですよ!優しいし、格好いいし、穏やかで大人だし……」
春奈はそう言うと、とろんとした眼で椿を見つめる。
普通の男なら「ドキッ」としてもおかしく無い可愛い仕草だ。
しかし、椿には溺愛する可愛くて仕方ない恋人がいた。
……普段、あまり態度には出さないが。
まさか、その事で潤が悩んでいるなどと、椿は知る由もないだろう。
実は潤が思うより、椿は潤のことを深く愛していた。
しかし、椿自身がそうした姿を見せないから、潤は気が付かない。
それは、椿にとって自分は潤の「余裕ある大人な恋人」でいたいと思っているからに他ならないが、実際の恋愛ではそればかりが良いとはならないのが辛いところだ。
それはある意味、潤をとても大切に愛していることの裏返しであるのだが、いかんせん伝わらないから意味がない。
なんにせよ、椿は潤にベタ惚れと言って良いほど惚れていた。
だから、いくら他の人間が可愛く迫ったところであまり効果はないのだ。
それどころか、困惑しかしない。
椿は眉毛を下げると、やんわりと春奈を制する。
「……上田さん。少し飲み過ぎじゃ無いかな?」
「そんなことないれすよー」
しなだれかかる春奈に、椿は今日何度目かになるため息をついた。
このままでは全員潰れてしまう。
椿は佐々木に視線をやった。
佐々木は他のメンバーに比べてまだマシな方だ。
「ねえ、このままだとあの三人潰れちゃうよ」
椿に言われ、佐々木はうーんと考えるような仕草をする。
そして、思いついたように視線を椿に戻した。
「ああ……高橋さんは旦那さんが迎えに来るって言ってた。水谷さんはおれが送るわ。古谷、おまえ上田さん頼める?」
「………」
椿は少し困ったような顔をするが、このまま酔った女性を置いて帰るわけにはいかない。
「……わかったよ」
「おーい、上田さん!寝ちゃう前に住所!教えて!水谷さんも!」
佐々木はそう言うと、酔った二人からスマホをかり、住所を控える。
「……ほい、これ上田さんの住所」
佐々木はそう言うと、支払いをするためにレジに向かった。
椿は受け取ってメモを見ると、頭をかく。
まさか、こんな事になるなんて。
何もやましいことはしていないのに、椿は頭の中で潤になんと説明しようかと悩んでいた。
早く帰ると約束したのにな、と口の中でつぶやくと、寝る寸前の春奈を軽く揺さぶる。
「上田さん……上田さん……!さあ、帰ろう」
「んん~……はぁい……」
椿は上田を支えると、支払いを終えた佐々木と共にタクシーを拾うために店の外に出た。
「じゃ、上田さんは頼んだよ」
「……ああ」
椿は、この日最大となるため息をつくと、キラキラと煌めく夜空を見上げた。
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