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本編
第5話
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「それでは!高橋さんの結婚と、新たな門出を祝して乾杯!!」
「乾杯!!」
グラスの鳴る音がし、皆思い思いに頼んだドリンクを飲んでいる。
薄暗い居酒屋の個室には、椿を含めて五人の同僚が居た。
椿は少し困ったように微笑むと、隣の同僚……佐々木に小さく声をかける。
「……ねえ、他の人たちは?」
「ん、誘ってないよ。言ってなかったっけ?」
「………」
今回は、園主催の送別会だと聞いていた。
だから、園に勤める同僚は皆参加するものだと椿は思っていたのだ。
ところが、蓋を開けてみれば集まったのは自分を含めたったの五人。
「今日は園主催だって聞いたけど……」
椿はそういうと、佐々木は苦笑いをしながら『まあまあ』と椿を宥めた。
「だっておまえ、園の行事以外来ないじゃん?だからさ」
「………」
椿は僅かに眉を下げると、小さく吐息をつく。
「怒るなよ、高橋さんがどうしてもおまえを呼びたいって言ってんだよ」
「怒ってはいないよ」
椿はそういうと、ビールに口をつける。
まあ、来てしまったものは仕方がない。
適当に理由をつけて途中で帰ろう。
椿はそう決めると、料理に箸をつけた。
「ねえねえ、古谷さん!古谷さんって彼女いるんですか?」
不意に高橋が椿にそう質す。
「彼女?」
椿は困ったように微笑みながら聞き返した。
「そう、彼女!古谷さんモテそうだし、いるのかなー?」
既に、一杯目のビールを秒殺して軽く出来上がっていた水谷が、そう矢継ぎ早に質問をする。
「……いや、彼女は……」
「えー?!もしかしていないんですかーーー?!」
きゃあきゃあとはしゃぐ女性陣に苦笑すると、椿は口を噤んだ。
実際彼女はいない。
しかし、それは椿の場合イコール恋人がいないという意味ではないのだ。
しかし、それをどこまで説明して良いものかは分からない。
椿は曖昧に笑うとビールを口にする。
「上田さん、彼氏いないんじゃ無かった?古谷なんてどう?」
「ええー!私なんかでいいんですか?!私は全然オッケーですよ!」
椿は形だけ微笑みをたやさずに、四人の話を聞いている。
「どうよ、古谷?」
佐々木の言葉に、椿は穏やかに答える。
「上田さんは綺麗だし、優しいし……俺なんかにはもったいないよ」
やんわりとそういうと、佐々木は椿の背をバシッと叩く。
「んなことないって!すげーお似合い!」
「そんなこと言ったら上田さんに迷惑だよ」
椿の言葉に、上田はブンブンと首を振る。
「そんな事ないです!」
「やだー春奈!めっちゃ乗り気!」
水谷はそう言って上田を囃し立てると、上田……春奈は顔を赤くした。
「もうさ、付き合っちゃえよ!」
佐々木の言葉に、椿はやんわりと首を振る。
「いや、流石にそれは暴論すぎるよ」
「んな事ないって!……あ、お姉さん!こっちビール追加!」
「あ、こっちもお願いしまーす!」
椿を除き、どんどんとメンバーは杯を空けていく。
椿は少し眉を下げると、佐々木に目配せをした。
「ちょっと……ペースが早くないか?」
「そうかー?ほら、おまえも飲めよ!」
佐々木はそう言うと、椿のグラスにビールを注ぐ。
「いや……俺はそろそろ……」
椿がそう言って席を立とうとすると、いつのまにか隣に座っていた春奈が椿の腕を掴む。
「ええー、古谷さん帰っちゃうんですかぁ~?!わたし、ずっとこうやって古谷さんとお話ししたいなーって思ってたんですよー!」
春奈はそう言うと、椿を再び席に座らせる。
「………」
困ったような顔で再び席に座ると、椿は聞こえないように小さくため息をついた。
「乾杯!!」
グラスの鳴る音がし、皆思い思いに頼んだドリンクを飲んでいる。
薄暗い居酒屋の個室には、椿を含めて五人の同僚が居た。
椿は少し困ったように微笑むと、隣の同僚……佐々木に小さく声をかける。
「……ねえ、他の人たちは?」
「ん、誘ってないよ。言ってなかったっけ?」
「………」
今回は、園主催の送別会だと聞いていた。
だから、園に勤める同僚は皆参加するものだと椿は思っていたのだ。
ところが、蓋を開けてみれば集まったのは自分を含めたったの五人。
「今日は園主催だって聞いたけど……」
椿はそういうと、佐々木は苦笑いをしながら『まあまあ』と椿を宥めた。
「だっておまえ、園の行事以外来ないじゃん?だからさ」
「………」
椿は僅かに眉を下げると、小さく吐息をつく。
「怒るなよ、高橋さんがどうしてもおまえを呼びたいって言ってんだよ」
「怒ってはいないよ」
椿はそういうと、ビールに口をつける。
まあ、来てしまったものは仕方がない。
適当に理由をつけて途中で帰ろう。
椿はそう決めると、料理に箸をつけた。
「ねえねえ、古谷さん!古谷さんって彼女いるんですか?」
不意に高橋が椿にそう質す。
「彼女?」
椿は困ったように微笑みながら聞き返した。
「そう、彼女!古谷さんモテそうだし、いるのかなー?」
既に、一杯目のビールを秒殺して軽く出来上がっていた水谷が、そう矢継ぎ早に質問をする。
「……いや、彼女は……」
「えー?!もしかしていないんですかーーー?!」
きゃあきゃあとはしゃぐ女性陣に苦笑すると、椿は口を噤んだ。
実際彼女はいない。
しかし、それは椿の場合イコール恋人がいないという意味ではないのだ。
しかし、それをどこまで説明して良いものかは分からない。
椿は曖昧に笑うとビールを口にする。
「上田さん、彼氏いないんじゃ無かった?古谷なんてどう?」
「ええー!私なんかでいいんですか?!私は全然オッケーですよ!」
椿は形だけ微笑みをたやさずに、四人の話を聞いている。
「どうよ、古谷?」
佐々木の言葉に、椿は穏やかに答える。
「上田さんは綺麗だし、優しいし……俺なんかにはもったいないよ」
やんわりとそういうと、佐々木は椿の背をバシッと叩く。
「んなことないって!すげーお似合い!」
「そんなこと言ったら上田さんに迷惑だよ」
椿の言葉に、上田はブンブンと首を振る。
「そんな事ないです!」
「やだー春奈!めっちゃ乗り気!」
水谷はそう言って上田を囃し立てると、上田……春奈は顔を赤くした。
「もうさ、付き合っちゃえよ!」
佐々木の言葉に、椿はやんわりと首を振る。
「いや、流石にそれは暴論すぎるよ」
「んな事ないって!……あ、お姉さん!こっちビール追加!」
「あ、こっちもお願いしまーす!」
椿を除き、どんどんとメンバーは杯を空けていく。
椿は少し眉を下げると、佐々木に目配せをした。
「ちょっと……ペースが早くないか?」
「そうかー?ほら、おまえも飲めよ!」
佐々木はそう言うと、椿のグラスにビールを注ぐ。
「いや……俺はそろそろ……」
椿がそう言って席を立とうとすると、いつのまにか隣に座っていた春奈が椿の腕を掴む。
「ええー、古谷さん帰っちゃうんですかぁ~?!わたし、ずっとこうやって古谷さんとお話ししたいなーって思ってたんですよー!」
春奈はそう言うと、椿を再び席に座らせる。
「………」
困ったような顔で再び席に座ると、椿は聞こえないように小さくため息をついた。
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