朝比奈歩 短編集

朝比奈歩

文字の大きさ
上 下
2 / 4
翼が欲しいと思ったりした日

翼が欲しいと思ったりした日 side B

しおりを挟む
好きな人がいます。
その人のそばにいたいと思います。
でも、その人とは離れていなくちゃいけなくて。
その人にも俺にも、生活ってものがあって。
わがままを言っちゃいけないのは解ってるけど。
それでもどうしても会いたい日っていうのがあって。
そんな日は。
背中に翼が欲しいなんて、思ってしまったりします。
あの人のところへ……飛んでいけるから。 

「こら、歩……そんなところで寝てると風邪を引くぞ」
俺はソファーで転寝をはじめている彼にそう声をかけると、軽く頭を撫でてやる。
「う……まだ寝ない……」
歩は、はっと気が付いたようにソファーから飛び起きる。俺は軽く苦笑しながらまだ寝ぼけているだろう、彼の彼の頬をつまんだ。
「無理をするな。今日はサッカーの試合だったんだろう?疲れているに決まっているさ」
「うう……でも……」
そうは言いながらも、歩の瞼はかなり重いのだろう。彼の頭はまるで首の据わらない乳児のようにゆらゆらと揺れている。俺はそんな彼の姿が可愛くて、ちょっとだけ笑った。
「もう、限界だろう。心配しなくても、明日は一日キミに付き合えるから」
俺は彼の頭をあやすように叩くと、彼を無言でベッドへと促す。
「だって……せっかく義直と会えたのに……」
歩は俺に寄りかかるようにしてかろうじて起き上がると、ふにゃふにゃになってしまった声でそう呟く。
「…………」
「一週間ぶりに……会えたのに……」
「そうだけど」
「義直は……俺と違って忙しいし……」
「そんなことはないよ」
「そんなことなくはないよ。仕事……忙しいって聞いてるから……」
「……気にしなくてもいいのに」
そんなことを、誰に聞いたのだろう?まぁ、検討はついているけど。
「せっかく会えたのに……」
――トクン、と鼓動が跳ね上がったのを感じる。
「……歩」
「……いっぱい……話したいこと……」
――僅かに、体温が上昇したかのような錯覚を覚える。
歩は、無意識のうちにも俺の脈拍を早くする術を覚えているらしい。いや、そんな彼だから、俺が惹かれたのだろうか?
「ある……に……」
そうは言いながらも、彼の口調はままならない。でも、そんな彼がいとおしく思えて、俺は彼の頬に唇を寄せた。
「よしな……お?」
「まったく……そんなにふにゃふにゃで、キミは何を話そうというの?」
「う……だって……」
俺がそういうと、歩は少しだけ拗ねたように端整な眉を寄せる。キミは本当に……くるくると表情が変わるんだね。
「俺としては今日はゆっくり疲れを取って、明日を一日めいっぱい一緒にいる方が有効だと思うんだけれど?」
「…………」
「勿論寝ぼけた歩も可愛いから、このまま見ていても飽きないんだけれどね」
それは、本心だ。でも、それでは彼の身体がもたない。彼にはできる限り無理をして欲しくないから。
「さぁ、今日はもう寝よう」
俺は彼を少々強引に抱き上げると、寝室へと向かう。歩は日本人では長身な方だが、その身長の割に彼の体重は軽い。それに気がついたのはちょっと前の事だ。身長自体は俺と5~6センチしか変わらないのだが、洋服は2サイズ違う。前に歩に貸したシャツの肩幅の違いに、彼自身かなりショックを受けていたようだった。
――もし、翼があったら。
「わ……義直……降ろして……!」
「すぐ着くよ」
俺は軽く笑うと、歩をそっとベッドに降ろす。
「到着」
「は……恥ずかしいよ!」
「大丈夫、誰も見てはいないよ」
「そういう問題?」
そう言いながら膨れる歩の頬に一度キスをすると、俺は彼の髪を撫でる。
「そう、そういう問題なの。さ、早く寝なさい」
「……子ども扱いしてるだろ」
「してないよ」
「……本当?」
「ああ、本当だ」
ゆっくりと、彼の柔らかな髪を撫でる。こういう動作が、きっと子ども扱いをしていると思われる所以なのだろう。けれど、本当に子ども扱いをしているつもりはない。彼だから……触れたくなるのだけれど。でも、それを言葉で説明するのは難しい。
「……義直」
「なんだい?」
「……俺、義直の事好きだからな」
「…………」
「……義直は?」
「俺も歩が好きだよ」
「本当?」
「勿論、本当に」
――もし、自分の背中に翼があったら。
キミを包み込んで、君を傷つける総てのものから守りたいと思う。
「信じてくれないのかい?」
――でも俺は天使ではないから……俺には2本の腕しかないから。
この腕で君を守ろう、自分が存在する限り。
「おやすみ……歩」
自由に飛び回る……キミを守ろう。
キミが存在する限り……永遠に……。 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

青少年病棟

BL
性に関する診察・治療を行う病院。 小学生から高校生まで、性に関する悩みを抱えた様々な青少年に対して、外来での診察・治療及び、入院での治療を行なっています。 ※性的描写あり。 ※患者・医師ともに全員男性です。 ※主人公の患者は中学一年生設定。 ※結末未定。できるだけリクエスト等には対応してい期待と考えているため、ぜひコメントお願いします。

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

執着攻めと平凡受けの短編集

松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。 疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。 基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)

仕事ができる子は騎乗位も上手い

冲令子
BL
うっかりマッチングしてしまった会社の先輩後輩が、付き合うまでの話です。 後輩×先輩。

それ以上近づかないでください。

ぽぽ
BL
「誰がお前のことなんか好きになると思うの?」 地味で冴えない小鳥遊凪は、ある日、憧れの人である蓮見馨に不意に告白をしてしまい、2人は付き合うことになった。 まるで夢のような時間――しかし、その恋はある出来事をきっかけに儚くも終わりを迎える。 転校を機に、馨のことを全てを忘れようと決意した凪。もう二度と彼と会うことはないはずだった。 ところが、あることがきっかけで馨と再会することになる。 「本当に可愛い。」 「凪、俺以外のやつと話していいんだっけ?」 かつてとはまるで別人のような馨の様子に戸惑う凪。 「お願いだから、僕にもう近づかないで」

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

あの日の記憶の隅で、君は笑う。

15
BL
アキラは恋人である公彦の部屋でとある写真を見つけた。 その写真に写っていたのはーーー……俺とそっくりな人。 唐突に始まります。 身代わりの恋大好きか〜と思われるかもしれませんが、大好物です!すみません! 幸せになってくれな!

処理中です...