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パパラッチフィーバー!

パパラッチフィーバー!⑩3

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局に着くと、おれたちは打ち合わせ通りさっとリハを流し、本番に備える。
観客も入って準備OK。
おれたちはお揃いのジャージに着替えると、セットで作られたゲートにスタンバイする。
「今夜のゲストは……AshurAの五人!」
紹介の掛け声とともにゲートからスモークが吹き出し、おれたちは笑顔で入場した。
「AshurAの皆さんは初出演ですよね?……あ、SEI さんは別のチームで一回お越しいただきましたっけ?」
「はい。『チームアスリート』で去年出させてもらいました。その時は僅かの点差で負けたので、今日は完全勝利を目指します!」
清十郎が爽やかにそういうと、観客から『頑張ってー』と声援が送られる。
清十郎はその声援に軽く手を振ると、爽やかな笑顔を見せた。
「さて、ここで情報が入っています。実は……メンバーの中で一番鈍臭いのはLINさんだっていう話ですけど…意外ですが本当ですか?LINさん」
「ええ?!その情報源、絶対一哉だろ!鈍臭いって…酷くね?確かに運動神経は一番無いかもしれないけど!」
「えーと……はい、情報源はKAZUYAさんで正解です」
Key WESTの樋口くんがそう言って笑う。
「ちょっと違うかな。凛は鈍臭いんじゃなくて天然なだけだよね?」
優がそんな風に軽口を叩く。
どっちもどっちだ!
「そうだねー。今日も休憩室で涎垂らして寝てたし?」
おい!バラすな!
おれが憤慨すると、ハイハイとばかりに一哉が頭をぽんぽんと叩く。
「全部図星だからって怒るな」
一哉の言葉に会場が笑いに包まれた。
「さあでは、そんなAshurAの皆さんと今日は楽しく対戦していきたいと思います!」
ここで一旦カットがかかり、セットが変わる。
「まず、第一対戦は……ファイティングサッカー!」
このゲームはボールを蹴って流れてくる的に当て、どれだけ的を落とせるかを競うゲームだ。
自慢じゃ無いが、おれはサッカー経験なんで学校の体育でしか無いぞ。
「このゲームに参加していただくのは…LINさん、YUさん、KAZUYAさんの三名です!」
「LINさん、サッカーの経験は?」
「任せてください!全然無いです!」
「無いのかよ!」
「だからあとは任せた、元サッカー部!」
おれは優に無茶振りすると、おでこを弾かれる。
「ちょっと、ハードル上げないでよ」
「ここでまたもや情報が。YUさんは地元のサッカークラブ『FC川崎』のジュニア時代にU-14に選ばれていたとか?!」
会場内からおーっと歓声が漏れる。
「だれ、この情報源?!」
苦笑いした優の言葉に、テヘッと擬音がつきそうな笑顔で舌を出すと、翔太が手を上げる。
「おれでーす!」
「まったく……油断も隙もないね」
いや、いいじゃん。
むしろプラス評価じゃん。
おれの『鈍臭い』と比べてみてよ?!
「さあ、そんな三人の挑戦です!では、スタンバイお願いします!」
おれたちはそれぞれの立ち位置に立つ。
ファーストキッカーはおれ。
セカンドキッカーは一哉。
ラストキッカーは頼みの綱、優だ。
「では、はじめます……スタート!!」
ピーッと笛が鳴り、ベルトコンベアーが動き出す。
おれは集中して流れる的を見ると、的の中心に向かってボールを蹴ろうとした。
「ーーLINの裏切り者!!!」
おれの足がボールに触れるかどうかという時に、観客席からそんな声が飛ぶ。
おれは、瞬間的に頭が真っ白になり、そのままあらぬ方向へボールを蹴った。
ボールは的を外れ、セットの真ん中へと流れていく。
次の瞬間に客席がざわつきはじめ、カットがかかった。
「今のは誰だ!!」
「機械を止めろ!!」
スタッフさんが慌ただしく動き始める。
おれは何が起こったのか分からずに、ただボールの行方を目で追っていた。
ーー裏切り者?おれが?
時間が酷くゆっくり流れている様な気がする。
テンテンとボールが弾み、セットの裏へと消えていった。
瞬間、隣にいた一哉がグイッとおれの肩を揺さぶる。
「ーーおい!凛!」
「……あ」
おれはやっと時間が正常に戻った気がして、一哉の顔を見上げる。
「おれが……裏切り者?」
「ばか、あんなヤジ気にすんな!」
「そうだよ……そもそも凛はこの件に関してはむしろ被害者なんだから!しかも、こんな状況であんなヤジを言うなんて……あの子はAshurAのファンでも何でもないよ」
いつのまにかそばにいた優が、その瞳に怒りを乗せてそう言う。
おれは頭を振ると深呼吸をする。
「……気にしないことにする」
「ああ、そうしろ」
一哉はそう言うとおれの背中をポンと叩いた。
同じように優も肩を叩く。
「LINさん、大丈夫ですか?」
プロデューサーが飛んできて、おれに確認を取った。
「……大丈夫です。ご心配をおかけしました」
おれは頬を軽く叩くと、もう一度自分の立ち位置に立つ。
すると、観客席の中から『頑張れ!』や『気にしないで!』など、優しい言葉が飛んできた。
おれはその言葉に勇気をもらうと、観客に頭を下げる。
「では、撮影を再開します!……スタート!」
おれは、怒りの全てを込めて、ボールを蹴る。
ボールは見事的の真ん中を射抜き、次々と的を崩していった。
おれが取れなかった的は一哉が優雅に落とし、最後に残った難しい場所を正確に優が落としてゆく。
「AshurAチーム……なんとあと少しで満点の780点!!」
樋口くんの言葉に、中村くんが答える。
「いやあ、さすがAshurA!本番で魅せてくれますね!おれたちも負けてられないな!」
その後は何のトラブルもなく撮影は続いたが、おれの心の中には『裏切り者』と言われた事がモヤとなって残っていた。
分かっている。
AshurAのファンからしたら、あのインタビューはおれがAshurAを捨てると思えたんだろう。
けど、おれはAshurAを愛しているし、このメンバーだからこそやっていけると思っている。
逆に、このメンバーじゃなかったら、おれは芸能活動なんかしていない。
それくらい、おれにとってAshurAは大きなものだ。
なんせ、おれの最推しだから。
確かに秋生のこともA’sのことも好きだ。
でも……秋生とのユニットは、AshurAを捨ててまで欲しいものではない。
おれは楽屋の椅子に座りペットボトルの水を一口飲むと、ボーッと前を見つめる。
「凛ー!また余計な事考えてるでしょー!」
「翔太……」
「大丈夫だって!すぐにこんな騒ぎ収まるよ!」
翔太はおれの髪をくしゃくしゃと撫でると、ニコッと笑う。
「今日はおれんちおいでよ!前に凛が見たいって言ってた『buzzer beater』のBlu-ray手に入ったし!」
「……行く」
「よしゃ、決まり!」
翔太は嬉しそうにおれを立たせると、フォークダンスのように踊りながら歩く。
おれはそんな翔太の明るさに少し救われると、少しだけ気が晴れた気がした。
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