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君最!シリーズ日常編

拓海編②

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久々の水族館は想像よりずっと進化していて、とてもとても綺麗で面白かった。
キラキラ輝く熱帯魚や、変わった形の深海魚、イワシのトルネードや、ゆったり泳ぐマンボウ。
それら全てが新鮮で、おれは全ての水槽の前でかなりはしゃいだ。
拓海さんはそれを楽しそうに見ている。
……拓海さん、魚よりおれの観察してるんじゃない?と疑うくらい見られた気がしたのは気のせいだろうか。
おれたちはそのまま進んでクラゲのコーナーまでやってきた。
色とりどりのクラゲがフワフワと泳ぎ、とても幻想的で綺麗だ。
「うわあ、綺麗!かわいい!」
おれはフワフワ優雅に泳ぐクラゲの水槽に張り付くと、さまざまな色に光るクラゲに見惚れる。
「拓海さん!スキューバしてる時も、こんな風にクラゲが見えたりするんですか?」
「うん、そうだね。種類によっては見えたりするよ。海の中で見るクラゲはとても幻想的で綺麗だな」
そこまで言って、拓海さんは言葉を切った。
「ところで、凛くん」
「はい?」
「そろそろ、敬語をやめにしてもらえないかな?」
「え?!」
突然の拓海さんの申し出に、おれは思わず聞き返してしまう。
「普通に喋って欲しいんだ。だめかい?」
「ええと……拓海さんがそれでいいなら……」
おれはしどろもどろになりながらそう言うと、拓海さんは嬉しそうに笑う。
「良かった。嬉しいよ」
おれは、拓海さんの優しげな笑顔にノックアウト寸前になりながらなんとか踏ん張る。
まったく、色気がありすぎる。
「拓海さんはどこの海に潜りにいくの?」
「色々だよ。日本国内のこともあれば、海外のこともある」
おれが言葉を崩したのがよほど嬉しいのか、拓海さんはその端正な顔をニコニコと崩して答える。
「凄いなー」
「ねえ、凛くん」
「うん?」
「もし、君さえ良ければ……休みを合わせて、今度こそ本当のスキューバに行かないかい?」
「え!おれ初心者だけど、潜れるの?」
「インストラクターがついて一緒に潜れば大丈夫だよ」
「やってみたいなぁ」
「やってみようよ。きっと楽しいよ」
拓海さんはそう言うと、おれの耳元に唇を寄せて囁いた。
「おれが、色々教えてあげるから」
拓海さんの言葉に、おれはボッと顔を赤くすると、拓海さんはそんなおれを見て笑う。
「きみは、本当に……」
クックッと笑うと、拓海さんは館内が暗いのを良いことに、おれの頬に唇を寄せた。
「かわいいね」
唇を離しながらそう言うと、すっと顔を離す。
おれは恥ずかしいやら照れるやらで顔を真っ赤にして俯くことしかできない。
拓海さんは吐息だけで笑うと、そんなおれの手を引いて次の水槽へと向かった。
おれたちはその後もたくさんの水槽を楽しむと、イルカショーのステージへとやってきた。
おれたちは並んでベンチに座ると、当たり前かのように拓海さんはおれの腰に手を回してくる。
その手つきがあまりにも自然過ぎて、おれは突っ込むタイミングを逃してしまった。
ショーは可愛いイルカたちがジャンプをしたり、色々な芸をしたりして楽しませてくれる。
かわいい……めっちゃかわいい……!
「可愛すぎる!」
「……確かに、可愛すぎるね」
いや、拓海さんイルカ見てる?
おれの方ばっかり見てない?
イルカのいたずらでちょっと水がかかったりしながら、おれたちは目一杯イルカショーを楽しんだ。
イルカショーが終わり、順路の最後はお土産屋さんだ。
う……さっき見たばっかりだからイルカのぬいぐるみが可愛く見えて仕方がない。
おれはソワソワしながらイルカのぬいぐるみをそっと手に取る。
……いやいやいや、良い大人だしおれ。
ぬいぐるみを置いて、やっぱりもう一度手に取る。
「……ぷっ!」
ハタと気がつくと、拓海さんがそんなおれを見て笑っている。
は、恥ずかしいところ見られたー!!
「そ、それ……欲しいの……?」
「や、その!……うー!子供っぽいとこ見られた……」
おれが顔を真っ赤にして俯くと、拓海さんは笑いながらおれが持っていたぬいぐるみを手に取った。
「この子?」
「え?」
そのまま拓海さんはレジに行くと、サッと会計を済ませてしまう。
そして戻ってくると、おれにイルカのぬいぐるみを手渡した。
「はい。今日の記念にどうぞ」
「あ、ありがとう……」
おれは照れながらもそのぬいぐるみを受け取る。
よし、このぬいぐるみはタクミと名付けよう。
「今度は、本当のスキューバをしようね」
拓海さんの言葉に、おれは頷く。
今度は本物の海で、もっと近くで。
当たり前のように手を引く拓海さんの横を歩きながら、おれはその日に想いを馳せた。
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