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君最!シリーズ日常編

優編②

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おれはハーフタイムに優から渡されたドリンクを飲むと、興奮してはしゃいだ。
「すげえ!めっちゃ熱い!面白い!」
「そっか、良かったよ」
優がなんとなく優しい顔でおれを見下ろす。
やっぱり自分の好きなものを好きって言ってもらえるのは嬉しいよな!
「水野選手の絶妙アシスト、マジ超絶技巧だったよな!」
「うん」
「その前の椎名選手のカットもヤバかった!」
「うん」
「もちろん藤村選手のシュートもカッコ良かった!」
「……凛」
あ、やべ!
はしゃぎすぎた?!
おれが黙ると、優はふっと笑っておれの頬を撫でた。
「可愛すぎる」
そう言うと、チラリと周りを確認しておれの頬に唇を寄せる。
いやいや!
いくら今ハーフタイムで人が少ないとはいえ……人前!!
いや、人前じゃなかったらいいのかと言われるとそれも違う気がするけど!
おれは顔を真っ赤にすると、優を見上げる。
「本当は口にしたいけど、我慢するよ」
いやいやいや、何言ってるのこの人。
ここはパブリックスペースです!
いや、だから人前じゃなかったらいいのかと言うと、そうじゃ無いけど!
そうこうしているうちに後半が始まる。
後半は仙台が攻撃的な布陣にメンバーをチェンジし、果敢に攻めてくる。
椎名選手をはじめとするフォーバックがギリギリのラインでゴールを防ぎ、まさに後半も一進一退。
ボールがゴールから外れるたびに相手チームからはため息、自チームからはホッとした安堵の吐息が聞こえる。
おれは声をかぎりに応援すると、再び椎名選手のパスカットから川崎に試合が傾いた。
グングン敵を追い抜き、フェイントからの華麗なパス。
パスを受けたサイドハーフの永田選手が水野選手へさらにパスを繋ぐ。
両ウイングが上がってきて、水野選手は右ウイングの萩原選手にアシストをした。
萩原選手は強烈なシュートを決めたが、これにはオフサイドフラッグが上がる。
「ああああ!」
「あーっ!」
川崎サイドからはため息が漏れる。
おれも優のユニフォームを掴んで悔しがった。
優は苦笑してそれを見ている。
いや、盛り上がりすぎてわるい……。
再びゲームが始まり、先程のシュートは決まらなかったものの、流れは川崎に来ていた。
かーわーさーき!
ドンドンドン!
オーオーオー!
かーわーさーきー!
ドンドンドン!
オーオーオー!
ここで川崎の選手交代。
サイドバック田中選手の登場だ。
おれたちは声の限り応援する。
三度椎名選手のパスカットから、田中選手へパス。
田中選手はボールをもって猛然と敵陣へ駆け上がった。
田中選手から水野選手へ鋭いパスが通る。
水野選手は相手との一対一でフェイントをかけると、相手を抜き去りそのまま自らシュートをした。
激しいシュートがゴールポストを揺らす。
『ゴオオオオオオオル!!』
電光掲示板にゴールと表示され、おれたちは再び抱き合って喜んだ。
どさくさに紛れて、優が再び頬にキスしてきたのはまあ許してやろう。
そのまま試合は川崎有利で進め、2対0で勝利。
試合終了のホイッスルが鳴ったと同時に、ファン同士ハイタッチを決め、喜びを噛み締めた。
フィールド上では水野選手が勝利者インタビューを受けている。
それを、優は嬉しそうに眺めていた。
「ちょっと、サッカー続けてれば良かったって思った?」
おれがそう聞くと、優は驚いたようにおれを見つめる。
「なんで?」
「なんとなく……」
もし、そうだと言われたらおれはどう思うんだろう。
「いや、おれはAshurAとして活動してる今が楽しいよ。凛とも出会えたし」
優の言葉に、浮上するおれの心。
おれってわがままだな。
おれたちはスタジオを後にしながら試合の余韻に浸っていた。
「……ところで凛。椎名選手が応援ありがとうってさ」
優はそんなことを言いながら、おれにスマホの画面を見せる。
そこには、優と水野選手のLINEのタイムラインになぜかおれの応援する姿の写真が載せられていた。
え?
こんな写真いつ撮ったの?
そして、水野選手の返信には「椎名がありがとって。めっちゃ喜んでた」と一言返されている。
「椎名選手、凛のファンなんだってさ」
なに?!
知らなかった!
優はおれをじっと見つめると、ニヤリと笑う。
「でも、凛はあげないから」
「は?それどういう……」
「いいの、凛は知らなくて」
タクシーが来るまで、おれたちはそんなこんなではしゃぎまくったのであった。
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