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君最!シリーズ日常編

一哉編②

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「……めっちゃ気持ちいい!」
「そうだろう?」
一哉の乗る馬は、いつもラファエルと言う馬なんだそうだ。
白馬……じゃなくて芦毛の綺麗な馬だ。
おれは一哉と並んで馬を歩かせると、サワサワと揺れる樹々の木漏れ日を感じて目を細めた。
ゆらゆら揺れる振動が気持ちいい。
「あぁーこれ、ハマりそう!」
おれが感極まったようにそう言うと、一哉はその瞳を嬉しそうに細める。
「はは。気に入ってもらえたなら良かった」
しばらく進むと、目の前に海が広がる。
この牧場は小高い丘の上にあるため、コースから海が見えるのがポイントだ。
実際には結構遠くにあるらしいのだが、青空と、牧場の緑と、海の蒼のコントラストがめちゃくちゃ綺麗でおれは思わず声を上げる。
「綺麗すぎる!」
おれの言葉に、一哉が苦笑をした。
「あんまりはしゃいで落ちるなよ」
おれは一哉の言葉にしっかりと手綱を握りなおすと、それでも目の前の絶景に夢中になった。
相変わらずエルヴィンはゆっくりと優しく歩を進め、おれを夢の世界へと連れていってくれる。
「エルヴィンもお前のことが気に入ったみたいだな」
「本当か?」
「ああ。穏やかな顔をしてる」
おれはエルヴィンの身体をそっと撫でると、ブルルと優しく嘶いて返してくれた。
か、可愛すぎる……!
おれは顔をふにゃふにゃにしてニヤけると、エルヴィンに抱きつきたくなる衝動を必死で抑えた。
急に変な動きをして驚かせたらダメだしな。
「……ったく、可愛すぎるだろうが」
一哉の言葉に、おれはうんうんと頷く。
「エルヴィンめちゃくちゃかわいいな!」
「いや……おれが言ったのは……まあいい」
一哉は苦笑しながらそう言う。
よくわからないが良いならいい。
初心者コースは牧場内一周だからおよそ30分程度。
あっという間にゴールが見えてくる。
ああ……もうエルヴィンとの時間が終わりなのか。
おれは残念に思いながらも最後までエルヴィンの背を楽しむ。
「ああ……名残惜しいよ」
「そんなに気に入ったなら、また連れてきてやるよ」
「本当?!」
「ああ」
一哉の言葉におれは満面の笑顔を向ける。
「あ……でも、おれと来たらおまえ、初心者コースしか走れなくてつまらなく無い?」
実際は一哉は上級者だから、もっとスピードを出して走ったり出来るはずだ。
けど、おれと来たらおれに合わせて初心者コースをゆっくりということになる。
「構わないさ。……一人で来るのとは違って良いものも見えたしな」
一哉はそう言って笑う。
「おら、ラスト少し気を抜くなよ」
「おう!」
こうして、おれの初乗馬体験はあっという間に終わった。
エルヴィンから降り、その背を撫でてやると嬉しそうに(多分)嘶く。
「エルヴィン、また来るよー」
「はは、気に入ってもらえたようで何よりです」
担当の係の人はそう言うと、何やら一哉にボソボソと耳打ちした。
「……LINさんって、テレビで見るより……その……可愛いですね」
「おい……凛に手を出したら分かってんだろうな?」
「だ、出しませんよ!」
「……?どうした一哉?」
「なんでもねえ」
一哉はそう言うと、おれの肩を抱いて歩き出す。
「せっかくここまで来たんだ、ついでにお前が好きそうな美味いもの食わせてやるよ」
そう言って一哉が連れてきてくれたのは予想外の店だった。
「ソ、ソフトクリーム!」
「ああ、ここは馬だけじゃなく牛舎もあるから、新鮮な牛乳で美味い乳製品が食える」
そう言って一哉はソフトクリームを一つ注文するとおれに手渡す。
「一哉はいいの?」
「おれはいい。その代わり別のものを買っていく。ほら、溶ける前に食え」
おれは一口ソフトクリームを頬張ると、その濃厚なミルク分と甘さ控えめな味に感動した。
「うっま!」
「……ふっ、そいつはよかった」
一哉はそう言うと、チーズを何種類か購入する。
「ここのチーズはワインに合うんだ」
なんか、何やってもサマになるというか……イケメン狡い。
帰りの車の中(現代の王子は馬も車も似合う)おれは思わずウトウトしてしまう。
人に運転させといて寝るとかマズイと思って必死で目を開けているが、楽しくてはしゃぎすぎたのと一哉の運転がうますぎてダメだ。
「無理せず寝てていいぞ」
「う……でも……」
「いいから寝てろ。着いたら起こしてやるから」
一哉は優しげにそう言って笑うと、おれの目を手で覆う。
おれの意識が残っていたのは、そこまでだった。
「おやすみ、おれのお姫様」
そう言った一哉の呟きは、おれの耳には入らなかった。
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