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脅迫状パニック!

脅迫状パニック!エピローグ

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「いやー。LIN君は本当に魔性だなあ」
監督はモニターを見ながら、そんな感想を漏らす。
おれはパーカーを羽織ると、同じようにモニターチェックをした。
そこには、目に涙を浮かべて息も切れ切れに喘ぐおれの姿がしっかりと映し出されていた。
自分で言うのも何だけど、エッロ!!
おれはモニターを見ながら頭を抱えた。
こ……これがお茶の間に放送されるのか……。
すでに放送された第二話のキスシーンも【春人瑞樹キスシーン】としてTwitterでしっかりトレンド入りしてるし、毎回放送後のタイムラインも深夜枠にも関わらず【happiness】がトレンド入りしている。
キスシーンが放映された時のメンバーの騒ぎようと言ったら無かったしな……。
今回はもっとだろう。
おれは楽屋に戻って着替えると、最後のシーンに備える。
最後は、瑞樹が春人と力を合わせてデビューを華々しく決める歌唱シーンだ。
ヘアメイクをしてもどり、マイクを構え、舞台に立つ。
「シーン163……スタート!」

『街灯の光がぼくのスポットライト
ぼくは夜の公園で一人歌う
今あなたに出会えないならせめて
この歌があなたに届きますように
あなたを守りたい
あなたを傷つける全てのものから
ぼくの歌が風になって
あなたを包んで守ってくれますように
あなたが笑っていてくれること
それがぼくのhappiness
あなたが幸せになるためなら
ぼくは何でもしよう
あなたの笑顔を守る事
それがぼくのhappiness
あなたが笑顔でいるためなら
ぼくはなんでもするよ』

「……カット!オーケーです!」
わあっと歓声が上がる。
「LINさん、オールアップです」
そう言って、スタッフさんから花束をもらう。
おれは、ちょっとだけウルっときながら、挨拶をする。
「皆様のおかげで、ここまで辿り着く事ができました……本当にありがとうございました!」
おれの挨拶に、拍手が巻き起こる。
ああ……辞めずに頑張ってきて、良かった。
おれは鼻をズビッと啜ると、拓海さんは背中をポンポンと叩いてくれる。
「おつかれ」
「拓海さんも……ありがとうございました!」
拓海さんはおれの顔をじっと見ると、ふっとその端正な顔に笑顔を乗せる。
そして、おれの胸ポケットにメッセージカードを入れた。
「……おれは、諦めないぜ?」
耳元でそう囁くと、おれの肩をポンと叩く。
「また、食事にでも誘うよ」
そう言って颯爽と去ってゆく背中は、痺れるほど格好良かった。



happinessの最終回の放送直後、おれのスマホはメンバーからのLINEメッセージでパンク寸前だった。
おれは途中めんどくさくなって通知を切ってやったが。
すると、翌日のダンスレッスンの時も各メンバーに次から次へと質問攻めにあう。
「ちょっと凛、エロ過ぎるんだけど」
「まさかと思うが、あれは演技だよな?」
「あんな顔できるんだね?!」
「……事情聴取だな」
「あ一もう!一人ずつ喋れ!」
「はいはーい!布団の中どうなってるの?!」
「お互いズボン履いてる」
「エロすぎ」
「それはおれ自身も思った」
「演技だよな?」
「ズボン履いてるって言っただろ」
「久我……絞める」
「拓海さんカポエィラの達人らしいぞ」
「はいはい。皆さん興奮するのもわかりますけど、そろそろレッスン開始ですよ!」
敦士が手を叩きながらそう言う。
「皆さん、今年は大きなツアーがあるんですから、気合入れてくださいね」
そうだ、ツアー。
これを楽しみにしてくれているファンの為にも頑張らないと。
おれたちは円陣を組む。
「……改めて。おれたちは五人と一人でAshurAだ!誰が欠けてもAshurAじゃない。このまま突っ走るぞ!」
「おお!」
おれたちの声は、窓から差し込む日差しの中、ダンススタジオに大きく響いた。


第一章 脅迫状パニック 完
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