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脅迫状パニック!

脅迫状パニック!⑭-3

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その五分後敦士がドアをノックすると、おれは飛び上がってドアを開けた。
一応、覗き穴から敦士であることを確認して。
「すみません、遅くなりました」
「いや……さんきゅ」
おれはソファーに座ると、天井を仰ぐ。
「凛さん、ヨーグルトとかゼリーくらいなら食べられそうですか?」
「ん……ヨーグルト、貰う」
おれはそう言ってヨーグルトを受け取ると、モソモソと口に運ぶ。
正直、味はよくわからない。
ただ、カロリーの補給の為に食べた。
「凛さん」
「……うん」
「おれは、隣の部屋に居ますから、何かあればすぐ……」
「え!」
「え?」
おれの言葉に、敦士は驚いたように目を見開く。
「……だ」
「え?」
「一人は……嫌だ…」
「凛さん……」
敦士は困ったように頭をかく。
「今日は…空いていた部屋がシングルルームしかなくて……」
わがままを言っているのは、わかっている。
でも、どうしても一人でいたく無かったのだ。
「おれ、ソファーでいいから、ここにいてくれよ」
「何言ってるんですか、いいわけないじゃないですか!」
「………」
「………」
「はぁ……分かりました。おれがソファーで寝ます」
「それは駄目だ……おれのわがままでここにいて貰うんだし……」
「しかし……」
「一緒に寝ればいい」
「……!」
「駄目か……?」
「駄目かって……」
「……ごめん、無理だよな。ーーおれのわがままだった」
おれは無理矢理笑顔を作ると、ヨーグルトの残りをかき込む。
これ以上迷惑をかけちゃ駄目だ。
おれは自分にそう言い聞かせると、深呼吸をする。
最悪、眠らなきゃ良いだけなのだ。
「ごめんな、わがままばっか言って」
「凛さん……」
「敦士だって疲れてるのに、おれは自分のことばっかりで……嫌になるよな」
おれは努めて明るく言うと、頭をかいた。
「……っ」
「敦士に愛想尽かされないようにしないと」
「凛さん!」
敦士はそう言うと、はぁと大きなため息をついた。
「愛想尽かすとか……あるわけないじゃないですか。わかりました、ここに居ます」
「え、でも……」
おれの言葉に、敦士は困ったような顔で見つめる。
「凛さん、一人だったら寝ない気だったでしょう?」
「………」
「ーーやっぱりそうですか。だったら、おれが居て少しでも眠れるなら……ここに居ます」
敦士にはなんでもお見通しなのか……。
おれは申し訳なさと情け無さで俯く。
「……ごめん」
「謝らないでください。……さ、凛さん。食べたらシャワー浴びて来てください」
おれはそう促され、バスルームに押し込まれる。
熱いシャワーを頭から浴びると、少しだけ気分が上昇した。
しっかり身体を温めて出ると、敦士がテーブルでノートパソコンに向かって仕事をしている。
いつもキチッと締めているネクタイを緩め、真剣に画面に向かう姿に、なぜかおれはドキッとした。
ーードキ?
何でだ、おれは今何でドキッとした?
おれは頭を振ると、敦士に声をかける。
「シャワー、お先。敦士も入れよ」
おれの言葉に敦士が振り返り、分かりましたと返事をする。
「これだけ片付けたら入ります」
そう言って再び画面を見つめる横顔が、なんだか違う人のようで、おれは思わず視線を逸らした。
シャツ越しに見える背中も、おれの知っているゲーム『君は最押し!』の敦士とは全然違う、筋肉質な男の身体だ。
ゲームでは、こんなに肩幅も筋肉もなかった。 もっとこう、細くて守ってやりたくなるような頼りなげな身体だったはずだ。
おれは髪をタオルで拭きながらベッドに腰掛ける。
「風邪をひかないように、ちゃんと乾かしてくださいね」
キーボードを叩きながら、ちゃんとおれの行動を把握している。
流石敏腕マネージャー。
おれは言われた通りしっかり髪を乾かすと、ベッドに横になり、敦士の横顔を再び見つめる。
しばらくすると、敦士はノートパソコンの画面を閉じ、軽く伸びをした。
「……終わった?」
「……っ!?凛さん、ずっと見てたんですか?」
「うん。だってやる事ないもん」
「そうでしたね、スマホも使えないですもんね、すみません……」
「敦士が謝る事じゃないだろ。……シャワー浴びたら?」
おれの言葉に、敦士は困ったように笑うと「じゃあシャワー行きます」と言ってバスルームに入った。
しばらくすると、シャワーを浴びる音が聞こえてくる。
おれは手持ち無沙汰になって、何気なくテレビをつけた。
タイミングよく、清十郎の出ていたスポーツバラエティがやっていた為、それを眺める。
ーー知ってはいたけど、清十郎運動神経良すぎだろ!
同じ番組に出ている一流アスリートたちに勝るとも劣らないパフォーマンスを見せている。
おれは思わず口を開けて見惚れていた。
「ーー清十郎さんの出ていた番組ですね」
いつのまにかシャワーから出ていた敦士が髪を拭きながらそう言う。
いつものスーツ姿とは違うラフな格好の敦士に、おれはなんだかどきどきした。
そして、やっぱりTシャツ越しの敦士は良い身体をしている。
「……な、何ですか凛さん?」
「いや……敦士って着痩せする?こうやって薄着で見るといい身体してるなーって。なんかスポーツやってる?」
「……実は、空手と柔道合わせて五段です」
な、なにー?!
「今もオフの日は道場に通っていますし、ジムも通っています」
そりゃいい身体に決まってるよね?!
あー、だからあの時綺麗な背負い投げ決めてたんだね?!
おれは改めてマジマジと敦士の身体を見ると、敦士は照れたような顔をする。
「あ、あんまり見ないでください。凛さんみたいにスタイル良くないんで……」
いやいや、何言ってるの?
充分すごい身体ですよ。
おれはテレビを消すと、ベッドの横を少し開ける。
敦士は少しだけ逡巡すると、控えめにおれの隣に座った。
「もう仕事はいいの?」
「はい、今日の分は終わりました」
「じゃあ、そろそろ寝るか」
「はい」
おれはベッドに潜り込むと、敦士も少し離れたところに入った。
「……おまえ、布団からはみ出てるだろ」
「………」
「風邪ひく。もうちょいこっちこいって」
おれの言葉に敦士は僅かに身体を寄せると、ベッドサイドに手を伸ばす。
「電気、消しますよ」
「うん」
そうやって、おれたちは真っ暗な部屋の中お互い天井を見つめていた。


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