上 下
30 / 106
脅迫状パニック!

脅迫状パニック!⑬-2

しおりを挟む
「なあ、凛。少しドライブしないか?」
一哉の提案に、おれは頷く。
確かに少し気分転換がしたい。
一哉はハンドルを握ると、首都高を走らせる。
そうしてしばらく車を走らせ、首都高を降りると、静かな海の見える公園に車を停めた。
真冬ではないが、エアコンを止めると夜の今は少しだけ肌寒い。
一哉は無言で自分のジャケットをおれにかけると、おれの頭をぽんぽんと叩く。
「無理しねえで、泣きたい時は泣いちまえ」
そう言って、一哉はおれの頭を自分の胸に抱き寄せた。
「……っ」
おれは張り詰めていた緊張が一気に解け、目からポロポロと涙を溢れさせる。
脅迫状、酷い贈り物、事故に見せかけた障害未遂、誘拐、部屋への侵入……それらの事は、とっくにおれの心のキャパを超えていた。
おれは低く嗚咽すると、一哉に縋り付いて静かに泣く。
涙が後から後から止めどなく溢れ出て、胸が苦しい。
一哉は何も言わずにおれを抱きしめ、背中を撫でくれていた。
「おれはっ……殺したいほど…っ…憎まれてるんだな……っ」
人の悪意がこんなに怖いなんて知らなかった。
当たり前のように、好意だけ受け取って生きてきた……おれはあまちゃんだ。
「………その、百倍…いや、一千倍好かれてるだろうが」
おれの背を撫でながら、一哉がそう言う。
「おれだって……そうだ」
そう言った一哉の声が僅かに震えている。
「このおれが、好きでいるんだぞ」
一哉はそう言うと、おれの頬を撫でる。
「……一哉…」
おれが濡れた瞳で一哉を見上げると、視線が一哉の真剣な青い瞳とぶつかった。
一哉はその唇を開きかけて、閉じて…また開く。
「凛ーー好きだ。……いいか、ライクじゃねえぞ」
一哉の真剣な視線が、嘘でも冗談ではないことを表している。
「凛、愛してる」
そう言うと、一哉の唇がおれの唇を覆った。
ゆっくりと押し付けるようなそれは次第に激しくなり、おれは車のシートに押し倒される形で強く唇を奪われる。
唇を揺さぶって開いたところから舌が入り込み、おれの舌を絡め取った。
「…っ…んっ」
そのあまりの激しさに、おれは息もできず一哉の肩に掴まってただキスを受ける。
ゾクゾクと背中に走る電流を感じながら、おれは唇を貪られた。
一哉は唇を離すと、再びおれを抱き寄せる。
本当は、わかっていた。
優も、清十郎も、翔太も、敦士も、一哉も……そういう意味でおれを好きだっていうことは。
でも、おれはそれに気が付かないふりをしていた。
気が付きたくなかったからだ。
気がついてしまったらーーその中の誰かを選んでしまったら……AshurAとしての関係性が壊れてしまうんじゃないかと思っていた。
おれは、今のAshurAが好きだ。
誰が欠けても駄目なんだ。
仮に、おれが誰かの手を取ったらーー他のメンバーはどう思うのだろう。
今のままではいられなくなるのだろうか。
そんなのは、嫌だ。
おれは、そんな自己中心的な考えから、皆の好意に気がつかないふりをした。
おれは、最低だ。
好意だけ受け取って、何も返そうとしない、選ぼうとしない……。
「……ごめ…一哉……ごめ……おれ……っ」
おれの言葉に、一哉はその瞳を切なそうに細めた。
「ーー悪い。おれは、最低だな。おまえを困らせることをわかってて、自分の気持ちを押し付けた……」
違う、最低なのはおれの方だ。
「なあ、凛。でもな、ひとつだけ聞いてくれ」
一哉はそう言うと、おれの背をあやすように撫でる。
「おれは……おれたちは、おまえが誰を選ぼうと、誰も選ばなかろうと、おまえへの気持ちを変えたりはしない」
そう言うと、優しく笑う。
「だから凛、あまり自分を追い詰めるな。おれたちは、おまえが一番幸せになれる道を探してるんだ」
「一哉……」
「ま、もちろん自分が選ばれるための努力はどんどん続けていくけどな?もちろんそれは、他の奴らも同じだ。ーーだから、覚悟しておけよ、凛」
なんで……なんで皆こんなおれを好きでいてくれるんだ。
おれは再び涙を溢れさせると、ポロポロと零す。
「ありがっ…と…ごめっ…ありっ…とっ…っ」
「ふっ…まったく、おまえは本当に泣き虫凛だな」
一哉はそう言うと、乱暴にハンカチでおれの顔を拭いた。
皆の好意が胸に沁みていく。
嫌われている事の、何万倍も愛されていると感じられた。
だからおれはひとつ、心に決める。
皆の気持ちには、誠実にいよう。
一哉の言う通り、誰を選んでも、誰も選ばなくても……無かったことにはしないでいよう。
皆の気持ちに、おれも向かい合っていこう。
「ふっきれたみたいだな」
一哉はおれの鼻を摘むと、ニヤリと笑う。
「ひゃめろ!おれのひゃなはおばえみたいにたかくなひんだ!」
「だから高くなるように摘んでやってるんだろうが」
くっそー!
おれは負けじと一哉の頬を摘むと、びよんと伸ばしてやった。
おおー伸びる!
流石、お肌のコンディションバッチリだな。
「へめー、やひやがったな」
おれたちは互いの行動に顔を見合わせると、大声で笑った。
こんな大声で笑ったの、久しぶりだ。
「……ありがと、一哉」
「ふっ、下心があるからな」
そう言うと、一哉は車のエンジンをかける。
「さ、帰って風呂入って、その不細工な顔を明日までになんとかするぞ」
「うっ……」
おれはサイドミラーに写った自分の顔を見て愕然とする。
流石に泣きすぎた。
目がパンパンだ。
「一哉様、明日までになんとかなりますか?」
「仕方ねえな、なんとかしてやるよ……その代わり痛くても我慢しろよ?」
その日帰ってからしてもらった一哉のフェイスリンパマッサージは、確かに効いたが、死ぬ程痛かった……。


お相手キャラクター人気投票
皆様のお好みのお相手キャラクターを教えてください!
人気のキャラクターで短編を書かせていただきます!
https://forms.gle/FV2QjGRX8n8Tq7686
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

地味で冴えない俺の最高なポディション。

どらやき
BL
前髪は目までかかり、身長は160cm台。 オマケに丸い伊達メガネ。 高校2年生になった今でも俺は立派な陰キャとしてクラスの片隅にいる。 そして、今日も相変わらずクラスのイケメン男子達は尊い。 あぁ。やばい。イケメン×イケメンって最高。 俺のポディションは片隅に限るな。

【完結】父を探して異世界転生したら男なのに歌姫になってしまったっぽい

おだししょうゆ
BL
超人気芸能人として活躍していた男主人公が、痴情のもつれで、女性に刺され、死んでしまう。 生前の行いから、地獄行き確定と思われたが、閻魔様の気まぐれで、異世界転生することになる。 地獄行き回避の条件は、同じ世界に転生した父親を探し出し、罪を償うことだった。 転生した主人公は、仲間の助けを得ながら、父を探して旅をし、成長していく。 ※含まれる要素 異世界転生、男主人公、ファンタジー、ブロマンス、BL的な表現、恋愛 ※小説家になろうに重複投稿しています

不良高校に転校したら溺愛されて思ってたのと違う

らる
BL
幸せな家庭ですくすくと育ち普通の高校に通い楽しく毎日を過ごしている七瀬透。 唯一普通じゃない所は人たらしなふわふわ天然男子である。 そんな透は本で見た不良に憧れ、勢いで日本一と言われる不良学園に転校。 いったいどうなる!? [強くて怖い生徒会長]×[天然ふわふわボーイ]固定です。 ※更新頻度遅め。一日一話を目標にしてます。 ※誤字脱字は見つけ次第時間のある時修正します。それまではご了承ください。

【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。

白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。 最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。 (同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!) (勘違いだよな? そうに決まってる!) 気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。

クラスのボッチくんな僕が風邪をひいたら急激なモテ期が到来した件について。

とうふ
BL
題名そのままです。 クラスでボッチ陰キャな僕が風邪をひいた。友達もいないから、誰も心配してくれない。静かな部屋で落ち込んでいたが...モテ期の到来!?いつも無視してたクラスの人が、先生が、先輩が、部屋に押しかけてきた!あの、僕風邪なんですけど。

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

俺の義兄弟が凄いんだが

kogyoku
BL
母親の再婚で俺に兄弟ができたんだがそれがどいつもこいつもハイスペックで、その上転校することになって俺の平凡な日常はいったいどこへ・・・ 初投稿です。感想などお待ちしています。

なんで俺の周りはイケメン高身長が多いんだ!!!!

柑橘
BL
王道詰め合わせ。 ジャンルをお確かめの上お進み下さい。 7/7以降、サブストーリー(土谷虹の隣は決まってる!!!!)を公開しました!!読んでいただけると嬉しいです! ※目線が度々変わります。 ※登場人物の紹介が途中から増えるかもです。 ※火曜日20:00  金曜日19:00  日曜日17:00更新

処理中です...