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脅迫状パニック!

脅迫状パニック!⑫-3

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おれはカーテンの隙間から入ってきた光に目を覚まさせられると、軽く目を瞬いた。
身体のだるさはすっかり取れている。
おれはゆっくりと起き上がると、簡易ベッドに視線をやった
敦士は既に起きているのか、ベッドは空になって整えられている。
すると、病室のドアが開き、敦士が入ってきた。
顔を洗ってきたらしい。
ネクタイが緩められ、タオルを首にかけている。
「凛さん、おはようございます。もう起きて大丈夫ですか?」
「はよ。うん、もうだいぶ良いよ」
「退院して大丈夫そうですか?」
「うん。いつまでも寝てられないしな。仕事も山積みになってくし」
おれはそういうと、軽く伸びをする。
トラウマがあるとはいえ、もう犯人は捕まったのだ。
怯えることもない。
おれも顔を洗おうと起き上がると、自分の手首を見てそのアザにドキリとする。
「凛さん!」
「ああ……大丈夫だ」
拘束具を付けられた時のアザ。
このアザが消えるまでどのくらいかかるだろうか。
おれは軽く頭を振ると、冷たい水で顔を洗う。
鏡に映るおれの顔は、知っている様な、知らない様な、不思議な顔。
おれでいて、おれでない。
そんな感覚。
おれは顔を拭くと、髪を整える。
おれは、誰なんだろう。
西園寺凛?徳重雅紀?それともLIN?
きっと、どれもがおれなんだ。
どれが欠けてもおれにはならない。
「なあ、このアザ……メイクで消えるかな?」
「濃いめのドーランを塗ってもらいましょう。駄目なら、リストバンドでも嵌めますか?」
「そうするか」
その後、診察も終わり先生の許可も出たため退院となった。
おれは、荷物をまとめると……って言っても、殆どが敦士が用意してくれたものだけど……タクシーに乗り込む。
敦士はおれを家に送り届けると、玄関で心配そうな顔をした。
「一人で大丈夫ですか?」
「昼間なら多分大丈夫。夜はちょっと辛いかもだけど、皆が居てくれるみたいだし」
「わかりました。また、仕事の合間に様子を見にきますから…何か欲しいものがあれば連絡ください」
「サンキュ」
おれは敦士を見送り、マンションの鍵をかける。
一人の部屋は妙に広くて、おれはソファに膝を抱えて座り込んだ。
腕のアザを見るたび、気持ち悪さが込み上げてくる。
人を性的対象として見た、あのおぞましい目。
おれは頭を振った。
昨日の敦士も恋愛対象としておれを見ていたはずだ。
なのに、気持ち悪さはかけらも感じなかった。
だから、このおぞましさは、ただ男にそういう対象として見られたからと言うわけではないらしい。
他のメンバーとキスした時も、恥ずかしさはあっても気持ち悪いとか嫌とか、そういう感情はなかった。
だから、やはりこの気持ち悪さは『おれ個人』という性質を無視してただ『性的コンテンツとして消費』されていた、歪んだ見方が気持ち悪かったのだ。
おれはため息をつくと、キッチンに立ってコーヒーを淹れる。
久しぶりに帰った我が家は、なんとなく物悲しい。
おれは改めてメンバーや敦士のありがたみを感じる。
おれはコーヒーを持ってリビングに戻ると、テレビのリモコンを探す。
ーーあれ?
確か、出て行く前はここにおいたはず……。
おれはキョロキョロとテーブルの上を見ると、すぐ横にそれは置かれていた。
なんだ、あるじゃん。
おれはリモコンでテレビをつける。
その時、またも軽い違和感を感じた。
おれはいつも、朝は同じニュース番組を見ている。
あの日は朝出て行ったきりだから、朝のツジテレビニュース番組のチャンネルのままのはずだ。
なのに、付けたテレビはテレビ関東を映している。
まさか、な。
おれは、嫌な予感を打ち消すように、部屋の中ををぐるっと眺める。
ーーうん、変なところは無い。
ちゃんと、玄関の鍵もかけてあったし、窓の鍵も掛かっていた。
ざわつく心を押さえるように、おれはテレビを消して音楽をかける。
部屋におれ以外の人の気配はないーー筈だ。
たまたま、チャンネルを替えたまま忘れてしまっただけだ。
うん、そうに違いない。
おれは痛み始めた頭を押さえて、ソファーに横になる。
そのまま、おれはトロトロと眠りに落ちていった。
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