上 下
17 / 106
脅迫状パニック!

脅迫状パニック!⑧

しおりを挟む
ーー頭がガンガンする……。
おれは、うっすらと覚醒していく意識の中で、ぼんやりとそんなことを考えていた。
隣では、ボソボソと話す声が聞こえる。
おれは半分だけ覚醒している意識の中でそれを聞くいていた。
「……今後、何があっても絶対凛を一人にしないこと。これは徹底しないと」
「ああ、普段はおれたちの誰かがついていれば良いとして……ドラマの撮影はどうする?」
「基本的にはおれがついているようにします」
「けどさー、敦士もおれたち全員のスケジュール管理もしてるわけだし、離れなきゃ行けないことも出てくるんじゃない?」
「……そこなんですよね」
「というか、あいつはこんな思いまでして、ドラマの撮影しなきゃいけないのかよ?」
「………」
「そうだよね。凛だって最初は乗り気じゃなかったわけだし」
「……そう、ですよね。凛さんの身の危険には代えられませんよね」
敦士の沈んだ声が聞こえる。
あの声は……責任を自分で抱え込んでる声だ……。
「おれが、凛さんをドラマにって言ったせいで……こんな事になって……」
「……がう……」
「……?」
「……ち、がう」
「凛!気がついたのか?!」
「…敦士のせいじゃ、ない……」
おれは、割れそうに痛む頭を押さえながら、ゆっくりと上半身を起こした。
「でも……」
「最終的に決めたのは、おれだ。それに、アンチが湧くのは敦士のせいじゃ無いだろ」
おれは、楽屋のソファーに寝かされていたらしい。
今何時くらいだろう。
どれくらい眠っていたのか。
「凛さん……」
おれは起き上がってソファーに座ると、軽く頭を振る。
それだけで頭が痛い。
「だから、あんまり自分を追い詰めるな」
おれの言葉に、敦士はその大きな目に涙を浮かべて、おれの手を握った。
「凛さん……おれは……何があっても、どんな事があっても、必ず凛さんを守ります。おれの命をかけて…!」
いや、気持ちは嬉しいけどどんな騎士の誓いだよ。
おれは軽く笑うと、敦士の頭を撫ぜる。
「そういうのは、プロポーズの時に好きな相手に言え」
「凛さん!おれは真面目です!」
「解ってるよ。だから余計にダメだよ。自分の命は一番に大切にしろ」
おれはそう言うとため息をつく。
昨日今日と見てわかった。
相手は普通じゃない相手だ。
そんなやつ相手に、おれのために命を賭けてまで無理をする必要はない。
「あー。でもおれ、敦士の気持ちちょっとわかるなー」
不意に、翔太がそんなことを言い出す。
「いや、おまえまで何言って……」
「おれもさー凛の為なら、身体張ってもいい
と思ってるもんよ」
いつものふざけた調子ではなく、不意に真面目な顔でそんなことを言われ、おれは心臓がドギマギするのを感じる。
「や、だから……」
「おれもだ」
「おれも」
「はぁ……おれもだよ」
なぜか、皆口々にそんな事を言い出す。
なんだよ、皆しておれを泣かせて何が楽しいんだよ。
「な……んでだよ。何言ってんだよ……」
「好きだからに決まってんじゃん」
至極当然のことのようにそう言った翔太に、その場にいた全員が頷く。
皆……おまえたちがそんなに仲間思いだったなんて……!
おれは感動しすぎて涙腺が崩壊しそうになった。
これ以上泣いたら、目が溶けるんじゃ無いか?
「皆……おれはこんな仲間思いなメンバーを持って、幸せだよ……!」
「……あ、やっぱりそっちで解釈する?」
「だと思った」
「凛らしいな」
「はぁ……」
え、なに。
この感動のシーンでなんで呆れてるの?
「ーー凛さん……。ドラマの撮影ですけど……事情が事情ですし、撮影辞退しましょう」
敦士は、一人だけ真剣な表情でおれに視線をよこす。
撮影辞退……。
おれはその言葉を何度も反芻する。
本当にそれでいいのか?
俳優さんたちやスタッフさん、作者さん皆に迷惑かけて、脅迫犯の前に膝をついて……それでいいのか?
「……いやだ」
「え?」
「そんなの、嫌だ」
「でも、凛さん……」
「監督や作者がおれを使うのが嫌だって言ったり、他の俳優陣がこんな物騒なおれとの共演が嫌だって言うならそれに従う。けど……そうじゃ無いなら、おれはこのまま続けたい」
「凛さん……」
このまま、こんな脅迫犯のクソ野郎に負けたまま終わるのは嫌だ。
「勿論、他の俳優さんやスタッフに迷惑かかりそうになったら、おれは降りる。けど、おれだけに矛先が向いてるなら、おれはやめない」
「……わかりました。監督さん方は、出来ればこのまま撮影は続けたいと言ってます。セキュリティも今以上に厳しくするとも言ってくれています。凛さんがその気なら……おれが必ず凛さんを守ります」
「おれたちもな」
皆の気持ちが純粋に嬉しい。
おれは頷くと、笑顔を作る。
「皆、サンキュ」
「……ふっ。まあ、かっこいいこと言う前に、まずは鏡を見てみろよ。そんなんで今日の歌番組の収録に出るつもりか?」
ーーなに?
そういえば、おれはさっき盛大に吐くわ泣くわしたんだった……!!
おれは痛む頭を押さえて立ち上がると、鏡に直行する。
う、流石に今日は盛大に目が腫れてるなぁ。
「今何時?」
「午後四時。収録まで後四時間」
ぎゃー!腫れが引くかどうかギリギリじゃん!
「敦士!氷ちょうだい!!」
「はい。頭痛薬も持ってきますね」
さすが敏腕マネ、よく気がつく……。
おれは、持ってきてもらった薬を飲み、アイスノンで目を冷やす。
「凛、声は大丈夫?」
「そっちはなんとか……」
「温かいルイボスティーをお淹れしましょうか」
「ありがたい、頼む」
しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

コンビニごと異世界転生したフリーター、魔法学園で今日もみんなに溺愛されます

はるはう
BL
コンビニで働く渚は、ある日バイト中に奇妙なめまいに襲われる。 睡眠不足か?そう思い仕事を続けていると、さらに奇妙なことに、品出しを終えたはずの唐揚げ弁当が増えているのである。 驚いた渚は慌ててコンビニの外へ駆け出すと、そこはなんと異世界の魔法学園だった! そしてコンビニごと異世界へ転生してしまった渚は、知らぬ間に魔法学園のコンビニ店員として働くことになってしまい・・・ フリーター男子は今日もイケメンたちに甘やかされ、異世界でもバイト三昧の日々です!

俺の妹は転生者〜勇者になりたくない俺が世界最強勇者になっていた。逆ハーレム(男×男)も出来ていた〜

七彩 陽
BL
 主人公オリヴァーの妹ノエルは五歳の時に前世の記憶を思い出す。  この世界はノエルの知り得る世界ではなかったが、ピンク髪で光魔法が使えるオリヴァーのことを、きっとこの世界の『主人公』だ。『勇者』になるべきだと主張した。  そして一番の問題はノエルがBL好きだということ。ノエルはオリヴァーと幼馴染(男)の関係を恋愛関係だと勘違い。勘違いは勘違いを生みノエルの頭の中はどんどんバラの世界に……。ノエルの餌食になった幼馴染や訳あり王子達をも巻き込みながらいざ、冒険の旅へと出発!     ノエルの絵は周囲に誤解を生むし、転生者ならではの知識……はあまり活かされないが、何故かノエルの言うことは全て現実に……。  友情から始まった恋。終始BLの危機が待ち受けているオリヴァー。はたしてその貞操は守られるのか!?  オリヴァーの冒険、そして逆ハーレムの行く末はいかに……異世界転生に巻き込まれた、コメディ&BL満載成り上がりファンタジーどうぞ宜しくお願いします。 ※初めの方は冒険メインなところが多いですが、第5章辺りからBL一気にきます。最後はBLてんこ盛りです※

日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが

五右衛門
BL
 月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。  しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜 ・不定期

花屋の息子

きの
BL
ひょんなことから異世界転移してしまった、至って普通の男子高校生、橘伊織。 森の中を一人彷徨っていると運良く優しい夫婦に出会い、ひとまずその世界で過ごしていくことにするが___? 瞳を見て相手の感情がわかる能力を持つ、普段は冷静沈着無愛想だけど受けにだけ甘くて溺愛な攻め×至って普通の男子高校生な受け の、お話です。 不定期更新。大体一週間間隔のつもりです。 攻めが出てくるまでちょっとかかります。

〜異世界に行くと男の子!?〜

BL
妹に看取られてなくなったら 神の子で⁈ まさかの異世界転生で男の子に!

腐男子(攻め)主人公の息子に転生した様なので夢の推しカプをサポートしたいと思います

たむたむみったむ
BL
前世腐男子だった記憶を持つライル(5歳)前世でハマっていた漫画の(攻め)主人公の息子に転生したのをいい事に、自分の推しカプ (攻め)主人公レイナード×悪役令息リュシアンを実現させるべく奔走する毎日。リュシアンの美しさに自分を見失ない(受け)主人公リヒトの優しさに胸を痛めながらもポンコツライルの脳筋レイナード誘導作戦は成功するのだろうか? そしてライルの知らないところでばかり起こる熱い展開を、いつか目にする事が……できればいいな。 ほのぼのまったり進行です。 他サイトにも投稿しておりますが、こちら改めて書き直した物になります。

攻略対象者やメインキャラクター達がモブの僕に構うせいでゲーム主人公(ユーザー)達から目の敵にされています。

BL
───…ログインしました。 無機質な音声と共に目を開けると、未知なる世界… 否、何度も見たことがある乙女ゲームの世界にいた。 そもそも何故こうなったのか…。経緯は人工頭脳とそのテクノロジー技術を使った仮想現実アトラクション体感型MMORPGのV Rゲームを開発し、ユーザーに提供していたのだけど、ある日バグが起きる───。それも、ウィルスに侵されバグが起きた人工頭脳により、ゲームのユーザーが現実世界に戻れなくなった。否、人質となってしまい、会社の命運と彼らの解放を掛けてゲームを作りストーリーと設定、筋書きを熟知している僕が中からバグを見つけ対応することになったけど… ゲームさながら主人公を楽しんでもらってるユーザーたちに変に見つかって騒がれるのも面倒だからと、ゲーム案内人を使って、モブの配役に着いたはずが・・・ 『これはなかなか… 面白い方ですね。正直、悪魔が勇者とか神子とか聖女とかを狙うだなんてベタすぎてつまらないと思っていましたが、案外、貴方のほうが楽しめそうですね』 「は…!?いや、待って待って!!僕、モブだからッッそれ、主人公とかヒロインの役目!!」 本来、主人公や聖女、ヒロインを襲撃するはずの上級悪魔が… なぜに、モブの僕に構う!?そこは絡まないでくださいっっ!! 『……また、お一人なんですか?』 なぜ、人間族を毛嫌いしているエルフ族の先代魔王様と会うんですかね…!? 『ハァ、子供が… 無茶をしないでください』 なぜ、隠しキャラのあなたが目の前にいるんですか!!!っていうか、こう見えて既に成人してるんですがッ! 「…ちょっと待って!!なんか、おかしい!主人公たちはあっっち!!!僕、モブなんで…!!」 ただでさえ、コミュ症で人と関わりたくないのに、バグを見つけてサクッと直す否、倒したら終わりだと思ってたのに… 自分でも気づかないうちにメインキャラクターたちに囲われ、ユーザー否、主人公たちからは睨まれ… 「僕、モブなんだけど」 ん゙ん゙ッ!?……あれ?もしかして、バレてる!?待って待って!!!ちょっ、と…待ってッ!?僕、モブ!!主人公あっち!!! ───だけど、これはまだ… ほんの序の口に過ぎなかった。

処理中です...