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閑話-サクラコ

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 わたしには、ママとパパとの思い出が少ないです。
 昔からなかなか家に帰ってこないで、ずっとお仕事をしています。それが、どんなお仕事かはわたしには分かりません。だけど、よく飛行機に乗っているのは知っていました。
 別に、寂しいとかそんな事を思ったことはありません。ママとパパは、わたしが生活できるためにお仕事をしているって、知ってるから。

 寂しくはないけど、つまらない毎日でした。そんなつまらない日々は色がありません。最初は色盲?とか言う色が分からない病気なのかと思いましたが、そういう訳では無く、そんな風に感じていただけです。

 わたしはつまらない毎日を忘れようと、家にあった本を沢山読みました。難しい本がいっぱいあったから、最初はわたしでも簡単に読める絵本から読み始めました。本は素敵で、とても綺麗で、読んでる間はつまらなさを感じませんでした。そして、本を読んでいる間は、色が分かる……正確には感じる、と言った方が正しいかな? 特に、小説みたいな物語性があって読んでて楽しい本だと、もっともっと色が付きます。きっと、楽しい間は私の世界に色が付くという事が分かりました。
 どんどん本を読み進めると、自然と漢字も読めるようになりました。そうすると読める本も増えて、更に私の世界に色が沢山付きました。

 でも、色が付くのは本を読んでいる間だけ。小学生になったら少しは変わるかな、なんて思ったこともあったけど、そんな事はありませんでした。
 確かに先生は個性的で面白い人だけど、小説程面白いかと言われるとやはり物足りません。わたしが高望みしすぎなのか、はたまた基準が小説になっているかは分かりませんが、どちらにせよわたしが面白いと感じる、わたしの世界に色が付くのにはそれなりの難しさがあると、自分でも理解していました。

 わたしも、この状況には危機感を感じていました。このままじゃダメだ、どうにかして変えないと……でも、どうすれば良いのか分かりません。
 そこでわたしは、ある小説の人物が言っていた言葉を思い出しました。

『行動しなければ、現状を変える事は出来ない。何をすれば最善なのか、そんな事が分からなくてもいい。何でも良いから行動してみれば、そこから解決の糸口が見つかるはずだ』

 その人物が小説でこの言葉を言った状況とは全然違う。だけど、この言葉の意味としては今のわたしにも当てはまるはずだ。なのでわたしは、本を読む、小説を読む以外に自分の世界に色が付くものを探しに行こうと決めました。



 自分の世界に色を塗る ――興味の向くものを探す、いわば自分探しのための第一歩としてわたしは簡単な家周辺の散歩から始めました。

 たかが近所の散歩ですが、わたしにとっては難しい事です。普段外に出る機会なんて、学校に行くくらいか、食べ物を買いに行くくらいです。やはりそんなわたしにとって、知らない場所に行くということはとても難しい……いや、怖いんです。
 何があるのか分からない環境。よく小説なんかでは知らない場所に行くのは心躍るとか、ワクワクするとかそんな表現をされていますが、わたしはそんなに楽しい表現は出来そうにありませんでした。
 でも、行動しないと現状を変える事は出来ない。わたしは毎日、恐怖心と戦いながら着実に行動距離を広げていきました。

 そして、初めて散歩に挑戦してから一年程経った頃。毎日のように外に出ていたからか、これまで不健康なまでに真っ白だった肌は健康的な褐色肌になっていました。
 その頃にはもうこの地域周辺は恐怖心を抱くことなく歩けるようになっていました。だけどまだ、世界に色は塗られない。全然、興味の向くものが見つけられていない状態でした。それもそのはず……散歩に挑戦した初日は興味の向くものを探すことが最優先でしたが、恐怖心を覚えてしまってからはその優先度が恐怖心を克服する事に傾いていたからです。そんな状態では興味の向くものなんて探せる余裕があるはずも無い。
 とはいえ、一年掛かったけどようやくこの地域であれば恐怖心は無くなりました。ようやく、興味の向くものを探すためのスタートラインに立つことができました。

 そこからの散歩は、色が塗られるにはまだ物足りないけど、楽しかったです。
 普段気にしない景色だったり、そういった物に目を向けるのは楽しい事でした。これまで抱いていた恐怖心が本当に無駄な事だったんだと理解して少し残念……ではないけど、時間を無駄にしていたと思って何とも言えない感情になりました。
 確かに恐怖心を抱くという事は大事な事だとは理解しています。だけど、臆病すぎるのは損だと気が付いたので、これからは改めていかなきゃな、って思いました。

 そして心境を改めてから少しした頃、近所の人が話している内容が少し気になりました。「近所に都会から引っ越してきた若者がいる」との事です。
 若者をどれくらいの年齢の人の事を言っているのかは分かりませんが、わたしの住んでいる地域には若者と言える人はこれまでわたしか学校の先生くらいしかいませんでした。これに、わたしは初めて本以外で興味がある、と思いました。その若者がどこにいるかは分からない。だけど、必ずどこかにいるはずだ。わたしは、この好奇心を抑える事ができず、駆けだしました。

 目当ての人物をなかなか見つける事ができなくて、沢山走りました。あっちに行って、こっちに行って……八月下旬の夕暮れ時とはいえ、走り回ったのでもう汗だくです。だけど、汗だくになるほど探し回った苦労は、ついに報われました。
 畑を抜けた先に、空高く登る煙――焚火かな?その煙を辿っていった先に、お目当ての人物はいました。周囲にはその焚火で料理をしているのか、良いにおいが漂っていました。
 若者……といって良いのかは分かりませんが、少なくともこの地域に住むおじいちゃんおばあちゃんと比べればずっと若者です。
 さて、どんな人かな? 面白い人だったらいいな。私を、気に入ってくれるといいな。
 そんな事を思いながら彼のもとへと近づき、さっきまで走っていたから乱れてる髪を手櫛で整えてからわたしは彼に声を掛けます。

「いいにおーい!何作ってるのー?」

 その日から、わたしの世界は色付き始めました。





●あとがき
 投稿が遅くなり、申し訳ございません。最近はどうもスランプ気味です。
 この小説は、書き始めた頃から今まで、プロットのようなものは書いた事が無く、今でも私の脳内にストーリーを残しているだけでした。これまではその脳内ストーリーに沿った内容を綴っていたのですが、「もっと面白くできるのでは?」と思ってしまい改変を進めていたのですが、今脳内ストーリーごっちゃごっちゃでございます。
 いやね……うん。プロットを文字で書き起こさなかった私が悪いという原因は分かっているんですよ。でもね、どうしてもプロットを書くのが苦手でねぇ。
 というわけで、現在ごちゃごっちゃーなプロットを整理している最中(頭の中で)ですので本編投稿はもう少しお時間を頂くこととなりそうです。申し訳ございません。


 さて、今回の閑話ですが、サクラコの過去を綴ったものとなります。
 サクラコは元々、とても臆病であると共に、とても賢い子です。思慮深い、とも言えるでしょうか。
 孝文くんがサクラコの事を地頭が良いと評価したのも納得の頭の良さですね。
サクラコ「わたしって、頭良いのー?」
 こらこら、あとがきに登場するんじゃありません。ちゃんと本編に出すんだから、それまで待っておきなさいな。
サクラコ「分かったー、待ってるねー! でも、またちょくちょくあとがきにも顔出すよ!」
 ……え、また出てくるの……?
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