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奮闘、庭づくり編 第三話
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バーク堆肥を買ってから数日後、ようやく芝の種が届いた。
芝の種ははじめて見たが、結構小ぶりでゴマを少し大きくしたようなサイズだった。なんか美味しそうだな。昔ヒマワリの種を食べたことがあるが、あれが結構美味しくてね。クセになる味してるんだよね。それ以来植物の種を見ると美味しそうに感じてしまっていた。
さて、この芝の種だが、10kg分購入したのでこれをパラパラと撒くわけにはいかない。これを土とバーク堆肥を混ぜた土の山に種を混入させ、攪拌させる。そして攪拌させた土の山を庭全体に平に馴染ませればその内芝が生えてくるというわけだ。
というわけで、作業に取り掛かろう。
ツナギに着替え、麦わら帽子を被る。そして手には豆が潰れないように養生するためにテーピングを巻く。これが俺の庭いじりスタイルだ。
俺は新しく購入した熊手とスコップを手に、さっそく作業を開始する。
まずは先日耕した時にできた土の山に買い込んだ200kgのバーク堆肥を混ぜ込む。それをスコップを使って大雑把に攪拌させ、そこに芝の種を混ぜ込み、更に攪拌させる。これがまた重労働だ。重い土を掬っては混ぜ、掬っては混ぜ……すぐに腕がパンパンになる。社会人の時にもっと運動をしていればよかった。
腕がパンパンになっても我慢して攪拌させ、ある程度全体的に混ざった頃合いに、庭全体に大雑把にばら撒く。それを熊手を使って慣らしていく。
慣らす作業は攪拌とは違い、楽だった。熊手で土をシャコシャコと慣らしていくのは、なかなかに楽しい。地面が平らになるように、気を付けながら慣らしていく。
「今日も精が出てるね」
「頑張ってて偉いねぇ」
作業中に声を掛けられた。声のほうを振り向くと、猫村さんとご近所の飯田さんだった。
「えぇ、最近は土弄りが楽しいんですよね」
「これは、今何をしてるんだい?」
「芝の種を混ぜて、庭一面を芝生にする準備をしてますよ」
「ほぅ、だからバーク混ぜてるんだね」
すごいな、バークを混ぜ込んでるなんて言っていないが、猫村さんは気が付いたらしい。
「よく分かりましたね、仰る通りバークを混ぜてます」
「はっはっは、匂いでわかるものさ」
「昔から、猫村さんは鼻がよく効いたからねぇ」
「へぇ、匂いで。流石ですね」
確かにバークはちょっと独特な匂いがするからな。とはいえ、土と混ざっているのによくわかるものだ。
「喜多くん、畑は作るんだったかな?」
「あ、はい。小さいのを作ろうかと思ってます」
「じゃあ、バークの他に鶏糞も混ぜ込むといいよ」
「けいふん……ですか?」
「そう、鶏の糞。そこまで匂いもキツくないから、はじめは鶏糞を使ってみるといいよ。有機肥料だから害は無いよ」
「鶏糞を使うんだったら、分けてあげるから言ってねぇ、沢山余ってるからねぇ」
「ありがとうございます、飯田さん。畑を作るときに貰いに行きますね」
都会にいた時とは違う、ご近所付き合い。こういうのも悪くはないね。貰ってばかりだから、いつかはちゃんと返さなきゃだ。
「それじゃ、頑張ってね。あぁ、そうだ。もう草乾燥してるだろうしそろそろ野焼きしてもいいかもだね」
「はい、分かりました。頃合いを見て野焼きしますね」
「頑張ってねぇ」
そう言うと2人は去っていった。いいね、こういうの。
俺は伸びをして、少し体を楽にする。
「野焼きも同時並行してやってみるか」
土の慣らし作業と並行して野焼きをしてみることにする。結構草の山が邪魔になってたんだよね。
草の山を庭端の作業の邪魔にならないようなところに再度集めて、少量取り出して火を付ける。十分に乾燥させたせいか、よく燃える。
「そうだ、水用意しとかなきゃ」
野焼きをするのに消火用の水を用意していなかった事に気が付いた俺は、急いでバケツに水を貯める。そして貯め終わると、野焼きをしている横に置く。これで過度に燃え広がっても大丈夫だろう。
火の熱は暖かいな。心が落ち着く暖かさだ。そして、パチパチと時折音を鳴らしながら燃える草も落ち着く音だ。
草を継ぎ足しながら火が大きくならない程度に管理する。そして、ある程度落ち着いたら土慣らしを再開する。
草の燃える匂いを周囲に漂わせながら、土いじりをする。なんとも田舎っぽくて良い雰囲気だ。こっちに移住してからもうすぐで1ヵ月になるが、”やりたい事”の進捗としてはあまり進んでいない。だが、それでいいだろう。ゆっくりと楽しむ事も大事だ。はやくやらなきゃ、って焦っても失敗するだろうし、ゆっくり確実にやっていこう。
庭全体に満遍なく土を鳴らし終わる頃には、夕暮れ時になっていた。少しずつ燃やしていた草も燃え終わり今はくすぶっている。
8月下旬のこの時間帯は、気温も日中とは比べていくらか涼しいので、とても過ごしやすい。時折吹き抜ける風が心地良く感じた。
どこか近所でも野焼きをやっているのか、風に乗って煤の匂いがした。なんとも風情があって、田舎らしい香りだ。
今日で土の一通りの作業は終わったので、あとは芝が生えてくるのを待つだけだ。都合のいい事に明日は雨が降るらしいので、芝に十分に水分を含ませることができるだろう。
俺は今度は、野焼きではなく焚火の準備を始める。
先日ご近所さんから薪を貰ったので、それを燃焼材としてくすぶっている火を再度大きくする。そして、その火を囲むようにコンクリートブロックを置けば、簡易の調理台の完成だ。
俺は蒸し器と数個のジャガイモを家から持ってきて、調理台に置く。今日は貰ったジャガイモを使ってジャガバターでも作ってみよう。自分の家の庭先でこういった調理をできるのは、キャンプをしているみたいで楽しいよね。
さっそく調理に取り掛かろう。
まずは、蒸し器に少量の水を入れて火にかける。ある程度蒸し器に熱が通ったら、後は洗って十字に切り込みを入れたジャガイモを蒸し器に入れて放置するだけだ。
なんとも簡単な料理だ。こちらに引っ越してからは自炊をするようになったが、こういった簡単な料理はとても助かる。もちろん難しい料理に挑戦してみたさは感じるものの、もう少し庭の整備が進んで余裕が出来た頃にやってみようと思う。もちろん最初は失敗するだろうが、なんとかなるだろう。
俺はジャガイモが蒸されるまで火を眺めて過ごす。とても落ち着いた、有意義な時間だ。まるで、都会にいた時とは時間の流れる速度が違うかのようだ。田舎はとてもゆっくりと、ゆったりとした時間の流れを感じる事が出来る。
「いいにおーい!何作ってるのー?」
庭の外から声をかけられた。幼い声だった。
声のした方を見てみると、健康的な褐色肌で髪を肩まで伸ばした幼女……というには背が高いな。小学校1年生くらいの少女がいた。
「おにいちゃん、何作ってるのー?」
「あぁ、今ジャガバターを作ってるんだよー」
「なにそれ!」
少女は俺の傍まで駆けよってくる。おいおい、人の敷地に勝手に入ってきちゃいかんよ。動物を飼った時の逃げ出し防止以外に、勝手に侵入されることを防ぐためにも早急に柵を設置したほうがよさそうだ。
「火傷するから触っちゃダメだよ」
「いいにおい!」
人の話を聞きなさい。
少女は好奇心旺盛という言葉を体現したかのように目をキラキラさせながら蒸し器を見ていた。
「食べてみるか?」
「うん!」
蒸し器の蓋を開け、竹串でジャガイモを刺してみる。柔らかく竹串が吸い込まれるように刺さったので、十分に蒸すことができているだろう。
皿に取り出し、バターを上に置く。
「熱いから気をつけながら食べるんだよ」
「はーい!」
少女にジャガバターの乗った皿を渡すと、その少女は綺麗な箸使いで食べだした。
少し意外だった。人の家の庭に勝手に入ってくる割には、箸の使い方が綺麗で違和感を感じる。
「なにこれ!おいしい!」
じゃがバターを食べたことが無かったのか?とはいえ、美味しいらしい。
「ゆっくり食べるんだよ」
「うん!」
俺も食べてみたがこのジャガイモ、めちゃくちゃに美味しいぞ。蒸したにも関わらず、身がしっかりしていて崩れないので、食べ応えがある。そして、噛めば噛むほどに甘味が出てくる。何だこのジャガイモ、こんなの食べたことがないぞ。
「おいしいね!」
「うん、美味しいね」
俺と少女はそれからジャガバターを食べ進めるわけだが、食べ応えがあったせいかあっという間に腹は膨れてしまう。
まずは少なめでと思い4つ作ったわけだが、俺が3個、少女が1個食べた時点でもう満足してしまった。
「ジャガイモって結構腹にたまるのな……」
「もうお腹いっぱーい」
少女は満足そうにしている。
「さて……君は誰かな?」
「うん?わたしはねー、近所の小学校に行ってるのー」
「うんそっかぁ、小学生かぁ……で、お名前は?」
「いまね、学校で引き算やってるの!」
「そっかぁ、引き算難しいよねぇ。で、お名前は?」
「でもね、わたしは体育が好きなの!」
駄目です、話が通じません。
「あっ!そろそろ帰らないと!またね、おにいちゃん!」
「あ、うんまたねー、気をつけて帰るんだよー」
少女はお腹がいっぱいにも関わらず、元気に駆けだす。そんなに急に走ると吐くぞー。
少女は駆けていくが、時折振り返っては俺に手を振り、そして駆けていっては俺に手を振り……を、姿が見えなくなるまで続けた。
「……あの子、誰?」
最後まで解決しなかった謎だった。いったい、あの少女はどこの家の子なのだろうか。正直ジャガバターをあげた事を懸念している。もしこの後あの少女の家で晩御飯が出されたとして、きっとお腹がいっぱいだから食べられないだろう。それで怒られないかが心配だ。
まあ、後日あの少女の親に何か言われたら謝っておこう。
風が冷たくなってきた。雲行きも怪しくなってきているので、もうすぐ雨が降るんだろう。
俺は早々と調理台の後片付けをして、消化をして家の中へと入っていく。
今日でひとまずは庭の土壌整備は完了だ。芝生はいずれ芽を出し生えてくるだろうから放置しておこう。後は柵の設置と、動物を飼った時用に小屋も作ってみよう。
「さて、忙しくなりそうだ」
俺は明日からやる事を考えながら、泥を落としに風呂場へ歩いて行くのだった。
芝の種ははじめて見たが、結構小ぶりでゴマを少し大きくしたようなサイズだった。なんか美味しそうだな。昔ヒマワリの種を食べたことがあるが、あれが結構美味しくてね。クセになる味してるんだよね。それ以来植物の種を見ると美味しそうに感じてしまっていた。
さて、この芝の種だが、10kg分購入したのでこれをパラパラと撒くわけにはいかない。これを土とバーク堆肥を混ぜた土の山に種を混入させ、攪拌させる。そして攪拌させた土の山を庭全体に平に馴染ませればその内芝が生えてくるというわけだ。
というわけで、作業に取り掛かろう。
ツナギに着替え、麦わら帽子を被る。そして手には豆が潰れないように養生するためにテーピングを巻く。これが俺の庭いじりスタイルだ。
俺は新しく購入した熊手とスコップを手に、さっそく作業を開始する。
まずは先日耕した時にできた土の山に買い込んだ200kgのバーク堆肥を混ぜ込む。それをスコップを使って大雑把に攪拌させ、そこに芝の種を混ぜ込み、更に攪拌させる。これがまた重労働だ。重い土を掬っては混ぜ、掬っては混ぜ……すぐに腕がパンパンになる。社会人の時にもっと運動をしていればよかった。
腕がパンパンになっても我慢して攪拌させ、ある程度全体的に混ざった頃合いに、庭全体に大雑把にばら撒く。それを熊手を使って慣らしていく。
慣らす作業は攪拌とは違い、楽だった。熊手で土をシャコシャコと慣らしていくのは、なかなかに楽しい。地面が平らになるように、気を付けながら慣らしていく。
「今日も精が出てるね」
「頑張ってて偉いねぇ」
作業中に声を掛けられた。声のほうを振り向くと、猫村さんとご近所の飯田さんだった。
「えぇ、最近は土弄りが楽しいんですよね」
「これは、今何をしてるんだい?」
「芝の種を混ぜて、庭一面を芝生にする準備をしてますよ」
「ほぅ、だからバーク混ぜてるんだね」
すごいな、バークを混ぜ込んでるなんて言っていないが、猫村さんは気が付いたらしい。
「よく分かりましたね、仰る通りバークを混ぜてます」
「はっはっは、匂いでわかるものさ」
「昔から、猫村さんは鼻がよく効いたからねぇ」
「へぇ、匂いで。流石ですね」
確かにバークはちょっと独特な匂いがするからな。とはいえ、土と混ざっているのによくわかるものだ。
「喜多くん、畑は作るんだったかな?」
「あ、はい。小さいのを作ろうかと思ってます」
「じゃあ、バークの他に鶏糞も混ぜ込むといいよ」
「けいふん……ですか?」
「そう、鶏の糞。そこまで匂いもキツくないから、はじめは鶏糞を使ってみるといいよ。有機肥料だから害は無いよ」
「鶏糞を使うんだったら、分けてあげるから言ってねぇ、沢山余ってるからねぇ」
「ありがとうございます、飯田さん。畑を作るときに貰いに行きますね」
都会にいた時とは違う、ご近所付き合い。こういうのも悪くはないね。貰ってばかりだから、いつかはちゃんと返さなきゃだ。
「それじゃ、頑張ってね。あぁ、そうだ。もう草乾燥してるだろうしそろそろ野焼きしてもいいかもだね」
「はい、分かりました。頃合いを見て野焼きしますね」
「頑張ってねぇ」
そう言うと2人は去っていった。いいね、こういうの。
俺は伸びをして、少し体を楽にする。
「野焼きも同時並行してやってみるか」
土の慣らし作業と並行して野焼きをしてみることにする。結構草の山が邪魔になってたんだよね。
草の山を庭端の作業の邪魔にならないようなところに再度集めて、少量取り出して火を付ける。十分に乾燥させたせいか、よく燃える。
「そうだ、水用意しとかなきゃ」
野焼きをするのに消火用の水を用意していなかった事に気が付いた俺は、急いでバケツに水を貯める。そして貯め終わると、野焼きをしている横に置く。これで過度に燃え広がっても大丈夫だろう。
火の熱は暖かいな。心が落ち着く暖かさだ。そして、パチパチと時折音を鳴らしながら燃える草も落ち着く音だ。
草を継ぎ足しながら火が大きくならない程度に管理する。そして、ある程度落ち着いたら土慣らしを再開する。
草の燃える匂いを周囲に漂わせながら、土いじりをする。なんとも田舎っぽくて良い雰囲気だ。こっちに移住してからもうすぐで1ヵ月になるが、”やりたい事”の進捗としてはあまり進んでいない。だが、それでいいだろう。ゆっくりと楽しむ事も大事だ。はやくやらなきゃ、って焦っても失敗するだろうし、ゆっくり確実にやっていこう。
庭全体に満遍なく土を鳴らし終わる頃には、夕暮れ時になっていた。少しずつ燃やしていた草も燃え終わり今はくすぶっている。
8月下旬のこの時間帯は、気温も日中とは比べていくらか涼しいので、とても過ごしやすい。時折吹き抜ける風が心地良く感じた。
どこか近所でも野焼きをやっているのか、風に乗って煤の匂いがした。なんとも風情があって、田舎らしい香りだ。
今日で土の一通りの作業は終わったので、あとは芝が生えてくるのを待つだけだ。都合のいい事に明日は雨が降るらしいので、芝に十分に水分を含ませることができるだろう。
俺は今度は、野焼きではなく焚火の準備を始める。
先日ご近所さんから薪を貰ったので、それを燃焼材としてくすぶっている火を再度大きくする。そして、その火を囲むようにコンクリートブロックを置けば、簡易の調理台の完成だ。
俺は蒸し器と数個のジャガイモを家から持ってきて、調理台に置く。今日は貰ったジャガイモを使ってジャガバターでも作ってみよう。自分の家の庭先でこういった調理をできるのは、キャンプをしているみたいで楽しいよね。
さっそく調理に取り掛かろう。
まずは、蒸し器に少量の水を入れて火にかける。ある程度蒸し器に熱が通ったら、後は洗って十字に切り込みを入れたジャガイモを蒸し器に入れて放置するだけだ。
なんとも簡単な料理だ。こちらに引っ越してからは自炊をするようになったが、こういった簡単な料理はとても助かる。もちろん難しい料理に挑戦してみたさは感じるものの、もう少し庭の整備が進んで余裕が出来た頃にやってみようと思う。もちろん最初は失敗するだろうが、なんとかなるだろう。
俺はジャガイモが蒸されるまで火を眺めて過ごす。とても落ち着いた、有意義な時間だ。まるで、都会にいた時とは時間の流れる速度が違うかのようだ。田舎はとてもゆっくりと、ゆったりとした時間の流れを感じる事が出来る。
「いいにおーい!何作ってるのー?」
庭の外から声をかけられた。幼い声だった。
声のした方を見てみると、健康的な褐色肌で髪を肩まで伸ばした幼女……というには背が高いな。小学校1年生くらいの少女がいた。
「おにいちゃん、何作ってるのー?」
「あぁ、今ジャガバターを作ってるんだよー」
「なにそれ!」
少女は俺の傍まで駆けよってくる。おいおい、人の敷地に勝手に入ってきちゃいかんよ。動物を飼った時の逃げ出し防止以外に、勝手に侵入されることを防ぐためにも早急に柵を設置したほうがよさそうだ。
「火傷するから触っちゃダメだよ」
「いいにおい!」
人の話を聞きなさい。
少女は好奇心旺盛という言葉を体現したかのように目をキラキラさせながら蒸し器を見ていた。
「食べてみるか?」
「うん!」
蒸し器の蓋を開け、竹串でジャガイモを刺してみる。柔らかく竹串が吸い込まれるように刺さったので、十分に蒸すことができているだろう。
皿に取り出し、バターを上に置く。
「熱いから気をつけながら食べるんだよ」
「はーい!」
少女にジャガバターの乗った皿を渡すと、その少女は綺麗な箸使いで食べだした。
少し意外だった。人の家の庭に勝手に入ってくる割には、箸の使い方が綺麗で違和感を感じる。
「なにこれ!おいしい!」
じゃがバターを食べたことが無かったのか?とはいえ、美味しいらしい。
「ゆっくり食べるんだよ」
「うん!」
俺も食べてみたがこのジャガイモ、めちゃくちゃに美味しいぞ。蒸したにも関わらず、身がしっかりしていて崩れないので、食べ応えがある。そして、噛めば噛むほどに甘味が出てくる。何だこのジャガイモ、こんなの食べたことがないぞ。
「おいしいね!」
「うん、美味しいね」
俺と少女はそれからジャガバターを食べ進めるわけだが、食べ応えがあったせいかあっという間に腹は膨れてしまう。
まずは少なめでと思い4つ作ったわけだが、俺が3個、少女が1個食べた時点でもう満足してしまった。
「ジャガイモって結構腹にたまるのな……」
「もうお腹いっぱーい」
少女は満足そうにしている。
「さて……君は誰かな?」
「うん?わたしはねー、近所の小学校に行ってるのー」
「うんそっかぁ、小学生かぁ……で、お名前は?」
「いまね、学校で引き算やってるの!」
「そっかぁ、引き算難しいよねぇ。で、お名前は?」
「でもね、わたしは体育が好きなの!」
駄目です、話が通じません。
「あっ!そろそろ帰らないと!またね、おにいちゃん!」
「あ、うんまたねー、気をつけて帰るんだよー」
少女はお腹がいっぱいにも関わらず、元気に駆けだす。そんなに急に走ると吐くぞー。
少女は駆けていくが、時折振り返っては俺に手を振り、そして駆けていっては俺に手を振り……を、姿が見えなくなるまで続けた。
「……あの子、誰?」
最後まで解決しなかった謎だった。いったい、あの少女はどこの家の子なのだろうか。正直ジャガバターをあげた事を懸念している。もしこの後あの少女の家で晩御飯が出されたとして、きっとお腹がいっぱいだから食べられないだろう。それで怒られないかが心配だ。
まあ、後日あの少女の親に何か言われたら謝っておこう。
風が冷たくなってきた。雲行きも怪しくなってきているので、もうすぐ雨が降るんだろう。
俺は早々と調理台の後片付けをして、消化をして家の中へと入っていく。
今日でひとまずは庭の土壌整備は完了だ。芝生はいずれ芽を出し生えてくるだろうから放置しておこう。後は柵の設置と、動物を飼った時用に小屋も作ってみよう。
「さて、忙しくなりそうだ」
俺は明日からやる事を考えながら、泥を落としに風呂場へ歩いて行くのだった。
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