57 / 61
欲。
しおりを挟む
「何でもって。何でも持ってたのは兄さんの方じゃ無いか!」
「ワタシは確かに第三王子で王位継承権もあった」
ガンとノワールの剣を弾くレヒト。
「だがそれは兄上たちの予備の予備でしかないそんなあやふやなものだ! なんの価値も無い!」
「だからって!」
「病弱のワタシはずっと元気に飛び回るお前が羨ましかった。人々から好かれ、勇者と崇められるお前は嫉妬を通り過ぎて憎くもあった」
「そんなの!」
「お前にとってはそんなものなのだろうよ! 頑強さも、愛らしさも、勇者としての名声も! だが!」
「だから俺を殺そうと思ったっていうの!?」
「そうだよ!」
「そんなの!!」
ノワール……。
ああ。
ノワールは兄さんたちが大好きで、その大好きな兄さんたちに喜んでもらいたくて。
勇者として頑張っていたのだって、そのためだったのに。
「だが、今のワタシのこの体を見よ! この力を! 人を超越したこの完成された生命体としてのワタシを! 病弱で何をすることも出来ず弱々しく生きることしかできなかったワタシでは無い!」
「悪魔に魂を売ったのか! 兄さん!」
「それの何が悪い!」
「人間としての尊厳はどうした! 王族としての使命は! 忘れてしまったのか!?」
「ははっ! 生きていくのに理由が必要か? 快楽を求めるのに意味が必要か?」
「少なくとも俺にはそれは重要で必要なものだよ!」
「そんな甘い事を言うからワタシはお前が嫌いなんだ! そのくせなんでもその手にしてしまうお前がな!」
レヒトは左手をブンと横なぎに払った。
「ノワ!」
その圧をまともに受け吹っ飛ぶノワ。
あたしも全力でそちらに飛ぶ。
「どうだこの力をみよ! 欲望のままに、快楽のままに、そうして生きても誰にも否と言わせることのない力を! ワタシはワタシがしたいように生きる! 今はただそれだけが望みだ! 何をも跳ね返し、何に囚われることもなく、ただ快楽に生きる、それが!」
「ノワ!」
あたしは倒れたノワを抱き上げ顔を覗き込む。うん、意識はしっかりしてる、大丈夫。
「兄さん……」
悲しげな表情を浮かべるノワ。
うん、レヒトは、
あれはレヒトの欲。
人の欲は魔と化す。
そうした魔が暴走した結果がゲームのラスボス魔王だった。
でもあのレヒトは、
欲が魔となり、魔界と繋がり悪魔となり、その結果本物のレヒトを食べ尽くしてしまった、と。
レヒトの欲に潜り込んだ悪魔の種子。
魔界からやってきた悪魔だと、あたしはそう思っていたけど。
どうやらそれだけでは無い、そんな。
「ワタシは確かに第三王子で王位継承権もあった」
ガンとノワールの剣を弾くレヒト。
「だがそれは兄上たちの予備の予備でしかないそんなあやふやなものだ! なんの価値も無い!」
「だからって!」
「病弱のワタシはずっと元気に飛び回るお前が羨ましかった。人々から好かれ、勇者と崇められるお前は嫉妬を通り過ぎて憎くもあった」
「そんなの!」
「お前にとってはそんなものなのだろうよ! 頑強さも、愛らしさも、勇者としての名声も! だが!」
「だから俺を殺そうと思ったっていうの!?」
「そうだよ!」
「そんなの!!」
ノワール……。
ああ。
ノワールは兄さんたちが大好きで、その大好きな兄さんたちに喜んでもらいたくて。
勇者として頑張っていたのだって、そのためだったのに。
「だが、今のワタシのこの体を見よ! この力を! 人を超越したこの完成された生命体としてのワタシを! 病弱で何をすることも出来ず弱々しく生きることしかできなかったワタシでは無い!」
「悪魔に魂を売ったのか! 兄さん!」
「それの何が悪い!」
「人間としての尊厳はどうした! 王族としての使命は! 忘れてしまったのか!?」
「ははっ! 生きていくのに理由が必要か? 快楽を求めるのに意味が必要か?」
「少なくとも俺にはそれは重要で必要なものだよ!」
「そんな甘い事を言うからワタシはお前が嫌いなんだ! そのくせなんでもその手にしてしまうお前がな!」
レヒトは左手をブンと横なぎに払った。
「ノワ!」
その圧をまともに受け吹っ飛ぶノワ。
あたしも全力でそちらに飛ぶ。
「どうだこの力をみよ! 欲望のままに、快楽のままに、そうして生きても誰にも否と言わせることのない力を! ワタシはワタシがしたいように生きる! 今はただそれだけが望みだ! 何をも跳ね返し、何に囚われることもなく、ただ快楽に生きる、それが!」
「ノワ!」
あたしは倒れたノワを抱き上げ顔を覗き込む。うん、意識はしっかりしてる、大丈夫。
「兄さん……」
悲しげな表情を浮かべるノワ。
うん、レヒトは、
あれはレヒトの欲。
人の欲は魔と化す。
そうした魔が暴走した結果がゲームのラスボス魔王だった。
でもあのレヒトは、
欲が魔となり、魔界と繋がり悪魔となり、その結果本物のレヒトを食べ尽くしてしまった、と。
レヒトの欲に潜り込んだ悪魔の種子。
魔界からやってきた悪魔だと、あたしはそう思っていたけど。
どうやらそれだけでは無い、そんな。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
美しい姉と痩せこけた妹
サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
ドアマットヒロインはごめん被るので、元凶を蹴落とすことにした
月白ヤトヒコ
ファンタジー
お母様が亡くなった。
それから程なくして――――
お父様が屋敷に見知らぬ母子を連れて来た。
「はじめまして! あなたが、あたしのおねえちゃんになるの?」
にっこりとわたくしを見やるその瞳と髪は、お父様とそっくりな色をしている。
「わ~、おねえちゃんキレイなブローチしてるのね! いいなぁ」
そう、新しい妹? が、言った瞬間・・・
頭の中を、凄まじい情報が巡った。
これ、なんでも奪って行く異母妹と家族に虐げられるドアマット主人公の話じゃね?
ドアマットヒロイン……物語の主人公としての、奪われる人生の、最初の一手。
だから、わたしは・・・よし、とりあえず馬鹿なことを言い出したこのアホをぶん殴っておこう。
ドアマットヒロインはごめん被るので、これからビシバシ躾けてやるか。
ついでに、「政略に使うための駒として娘を必要とし、そのついでに母親を、娘の世話係としてただで扱き使える女として連れて来たものかと」
そう言って、ヒロインのクズ親父と異母妹の母親との間に亀裂を入れることにする。
フハハハハハハハ! これで、異母妹の母親とこの男が仲良くわたしを虐げることはないだろう。ドアマットフラグを一つ折ってやったわっ!
うん? ドアマットヒロインを拾って溺愛するヒーローはどうなったかって?
そんなの知らん。
設定はふわっと。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断
Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。
23歳の公爵家当主ジークヴァルト。
年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。
ただの女友達だと彼は言う。
だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。
彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。
また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。
エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。
覆す事は出来ない。
溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。
そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。
二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。
これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。
エルネスティーネは限界だった。
一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。
初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。
だから愛する男の前で死を選ぶ。
永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。
矛盾した想いを抱え彼女は今――――。
長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。
センシティブな所へ触れるかもしれません。
これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。
彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。
父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。
わー、凄いテンプレ展開ですね!
ふふふ、私はこの時を待っていた!
いざ行かん、正義の旅へ!
え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。
でも……美味しいは正義、ですよね?
2021/02/19 第一部完結
2021/02/21 第二部連載開始
2021/05/05 第二部完結
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる