4 / 61
山猫亭。
しおりを挟む
「あ、あ、ありがとう、ございます……」
呆然とした顔をしてこちらを見つめる少女。
可愛らしいその感じ、まだ10歳くらいだろうか?
「怪我はない?」
手を貸そうと思って伸ばしたけど怖がっちゃった? もう一度そう声をかけてみると恐る恐るな感じではあるけど手を伸ばしてもらえた。
「ありがとうございます。怪我はないです。ほんと助かりました」
そうにこりと微笑むその少女。なんだかすごく大人びた物言いで、そのままゆっくりと立ち上がると。
パンパンとスカートについた草や土を払い、改めてお辞儀をした。
「ならよかった。このあたりはあんな野獣が出るのね。用心しないとね」
あんなグリズリーみたいなのが出没するならこんな幼い子が一人で出歩いていいわけはないよね。
「一人できたの? もしよかったら街まで送ろっか?」
とそう言ってみた。流石に一人で帰すのは気が引ける。
「はうごめんなさい。ありがとうございます。お姉さん強いんですね」
「ふふ。これでもいっぱい冒険してきたからね」
ゲームでだけどね。
「冒険者さんなんですか?」
「うーん、というか旅人? ここには初めてきたから」
「え? そんな軽装でですか?」
「荷物、落としちゃってね」
はう、嘘だけど。
「ああ、じゃぁ、お困りですよね。そうだ! うち宿屋なんですよ。よかったら泊まってってください。お礼しなくっちゃですし」
「あー。それはありがたいんだけど、あたし今お金もないんだ」
「ああ、なら父ちゃんに言ってそこのグリズリーを回収してもらいます。あんな立派なグリズリーだったら肉も毛皮もきっといい値段で売れるはずです。そうすればお姉さんにお礼のお金も渡せます!」
「え? いいの?」
「はい! 任せてください」
そうにこにこと笑う彼女。
小さいのに結構しっかりしてるよ。びっくりだ。
「あたしはマキナ。よろしくね」
「わたしはティファです。うちは街で山猫亭っていう宿屋兼食堂やってます。あは、マキナさん歓迎しますよ!」
そういうとパタパタと街に向かって走り出した彼女。
あたしも急いで追いかけた。
陽が傾き始めてる。
あたし、なんとかこの世界でやっていけるかな。
そんな気がしていた。
☆☆☆
「そんな細っこいのになぁ」
熊肉を捌きながらこちらに笑顔をむけるでっかい人。
山猫亭のご主人、ダントさん。
あたしはカウンターに腰掛けその手際の良さを眺めていた。
「マキナお姉さんはすごいの。こう、やーって蹴飛ばしてその大きな熊をやっつけちゃったんだから」
「ああ何度も聞いたよティファ。ほんと信じられないが」
「もう、父ちゃん、ほんとなんだよ!?」
「そうだな。そのおかげでこんなに上等な熊肉が手に入ったんだからなぁ」
ティファと共に街に入ったあたし。
山猫亭で彼女の話を聞いたダントさんは数人の男手とともに林まで出向き。
そして信じがたい表情のままグリズリーの遺体を持ち帰るとさっそくその解体を請け負ってくれたのだった。
グリズリーの毛皮もその爪も牙も素材としては一級品だという事で結構な金額で売れそうだとほくほくな顔のダントさん。明日はギルドまで売りにいくぞと盛り上がっていた。
お肉はそのままこの山猫亭で買い取ってくれた。
そのお金であたしはしばらくここで宿泊させてもらうことにしたんだけれど、ね。
まあでも。
まさかとは思ってはいたけれど。
それでもうすうすそうかもしれないと思い始めてはいたけれど。
この街の名前は、「ロムルス」だった。
そう。
あたしが迷い込んでしまったこの世界。
ここは紛れもなく、ゲームのマギアクエストと世界観を同じくする世界、で間違いなさそうだと言う事。
まあでもね。
百歩譲って気がついたら異世界だった。
これはまだわかる。
あたしが好きだった異世界転生ものの小説でもよくあったもの。
でもね?
気がついたら異世界? ううん、異世界は異世界でも、ここってマギアクエストの世界だったわけでしょ?
っていうことはどう言う事なの?
マギアクエストの世界が別の異世界として現実に存在したってこと?
もうほんとわけがわからないよ。
呆然とした顔をしてこちらを見つめる少女。
可愛らしいその感じ、まだ10歳くらいだろうか?
「怪我はない?」
手を貸そうと思って伸ばしたけど怖がっちゃった? もう一度そう声をかけてみると恐る恐るな感じではあるけど手を伸ばしてもらえた。
「ありがとうございます。怪我はないです。ほんと助かりました」
そうにこりと微笑むその少女。なんだかすごく大人びた物言いで、そのままゆっくりと立ち上がると。
パンパンとスカートについた草や土を払い、改めてお辞儀をした。
「ならよかった。このあたりはあんな野獣が出るのね。用心しないとね」
あんなグリズリーみたいなのが出没するならこんな幼い子が一人で出歩いていいわけはないよね。
「一人できたの? もしよかったら街まで送ろっか?」
とそう言ってみた。流石に一人で帰すのは気が引ける。
「はうごめんなさい。ありがとうございます。お姉さん強いんですね」
「ふふ。これでもいっぱい冒険してきたからね」
ゲームでだけどね。
「冒険者さんなんですか?」
「うーん、というか旅人? ここには初めてきたから」
「え? そんな軽装でですか?」
「荷物、落としちゃってね」
はう、嘘だけど。
「ああ、じゃぁ、お困りですよね。そうだ! うち宿屋なんですよ。よかったら泊まってってください。お礼しなくっちゃですし」
「あー。それはありがたいんだけど、あたし今お金もないんだ」
「ああ、なら父ちゃんに言ってそこのグリズリーを回収してもらいます。あんな立派なグリズリーだったら肉も毛皮もきっといい値段で売れるはずです。そうすればお姉さんにお礼のお金も渡せます!」
「え? いいの?」
「はい! 任せてください」
そうにこにこと笑う彼女。
小さいのに結構しっかりしてるよ。びっくりだ。
「あたしはマキナ。よろしくね」
「わたしはティファです。うちは街で山猫亭っていう宿屋兼食堂やってます。あは、マキナさん歓迎しますよ!」
そういうとパタパタと街に向かって走り出した彼女。
あたしも急いで追いかけた。
陽が傾き始めてる。
あたし、なんとかこの世界でやっていけるかな。
そんな気がしていた。
☆☆☆
「そんな細っこいのになぁ」
熊肉を捌きながらこちらに笑顔をむけるでっかい人。
山猫亭のご主人、ダントさん。
あたしはカウンターに腰掛けその手際の良さを眺めていた。
「マキナお姉さんはすごいの。こう、やーって蹴飛ばしてその大きな熊をやっつけちゃったんだから」
「ああ何度も聞いたよティファ。ほんと信じられないが」
「もう、父ちゃん、ほんとなんだよ!?」
「そうだな。そのおかげでこんなに上等な熊肉が手に入ったんだからなぁ」
ティファと共に街に入ったあたし。
山猫亭で彼女の話を聞いたダントさんは数人の男手とともに林まで出向き。
そして信じがたい表情のままグリズリーの遺体を持ち帰るとさっそくその解体を請け負ってくれたのだった。
グリズリーの毛皮もその爪も牙も素材としては一級品だという事で結構な金額で売れそうだとほくほくな顔のダントさん。明日はギルドまで売りにいくぞと盛り上がっていた。
お肉はそのままこの山猫亭で買い取ってくれた。
そのお金であたしはしばらくここで宿泊させてもらうことにしたんだけれど、ね。
まあでも。
まさかとは思ってはいたけれど。
それでもうすうすそうかもしれないと思い始めてはいたけれど。
この街の名前は、「ロムルス」だった。
そう。
あたしが迷い込んでしまったこの世界。
ここは紛れもなく、ゲームのマギアクエストと世界観を同じくする世界、で間違いなさそうだと言う事。
まあでもね。
百歩譲って気がついたら異世界だった。
これはまだわかる。
あたしが好きだった異世界転生ものの小説でもよくあったもの。
でもね?
気がついたら異世界? ううん、異世界は異世界でも、ここってマギアクエストの世界だったわけでしょ?
っていうことはどう言う事なの?
マギアクエストの世界が別の異世界として現実に存在したってこと?
もうほんとわけがわからないよ。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持
空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。
その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。
※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。
※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

だいたい全部、聖女のせい。
荒瀬ヤヒロ
恋愛
「どうして、こんなことに……」
異世界よりやってきた聖女と出会い、王太子は変わってしまった。
いや、王太子の側近の令息達まで、変わってしまったのだ。
すでに彼らには、婚約者である令嬢達の声も届かない。
これはとある王国に降り立った聖女との出会いで見る影もなく変わってしまった男達に苦しめられる少女達の、嘆きの物語。

公爵夫人アリアの華麗なるダブルワーク〜秘密の隠し部屋からお届けいたします〜
白猫
恋愛
主人公アリアとディカルト公爵家の当主であるルドルフは、政略結婚により結ばれた典型的な貴族の夫婦だった。 がしかし、5年ぶりに戦地から戻ったルドルフは敗戦国である隣国の平民イザベラを連れ帰る。城に戻ったルドルフからは目すら合わせてもらえないまま、本邸と別邸にわかれた別居生活が始まる。愛人なのかすら教えてもらえない女性の存在、そのイザベラから無駄に意識されるうちに、アリアは面倒臭さに頭を抱えるようになる。ある日、侍女から語られたイザベラに関する「推測」をきっかけに物語は大きく動き出す。 暗闇しかないトンネルのような現状から抜け出すには、ルドルフと離婚し公爵令嬢に戻るしかないと思っていたアリアだが、その「推測」にひと握りの可能性を見出したのだ。そして公爵邸にいながら自分を磨き、リスキリングに挑戦する。とにかく今あるものを使って、できるだけ抵抗しよう!そんなアリアを待っていたのは、思わぬ新しい人生と想像を上回る幸福であった。公爵夫人の反撃と挑戦の狼煙、いまここに高く打ち上げます!
➡️登場人物、国、背景など全て架空の100%フィクションです。

竜王の花嫁は番じゃない。
豆狸
恋愛
「……だから申し上げましたのに。私は貴方の番(つがい)などではないと。私はなんの衝動も感じていないと。私には……愛する婚約者がいるのだと……」
シンシアの瞳に涙はない。もう涸れ果ててしまっているのだ。
──番じゃないと叫んでも聞いてもらえなかった花嫁の話です。
【書籍化進行中、完結】私だけが知らない
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる