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第二部。
大聖女。
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「コーネリアス!!」
一瞬で、来賓席よりジャンプしてきたアルブレヒト皇太子。
武器は携帯してはいなかったはずなのに、今その手には細身の剣が掲げられていた。
「ああ、アルブレヒトか。私はやっと力を手に入れたよ。これでお前にも負けることはない」
「そんな力! 何度も言ったろ、そんな闇の力など求めて何になるのだと!!」
「お前には感謝してるよ。魔王が降臨したあの厄災の日、世界に降り注いだ無数の厄災の種のうちの一つが、この私に宿っていると教えてくれて。ああ、なんて素晴らしいことだろう! と、歓喜に打ち震えたよ」
「馬鹿野郎! 人の身を滅ぼす厄災の力など、使いこなせるわけがないだろう!!」
「お前にはわからないさ、古い王家の血を引いていながら冷遇され続けた我が家系の無念は。しかし、長年我らが国のためにと武を磨き国家安寧のために奔走している時に、なんだ今の王族は。神、神、神、いつまで経っても神頼み。そんな他力本願な政治しかしてこなかったではないか! 私は違う。この力でもってこの国を、世界一の強国にしてみせる! 世界一の豊な国に!」
「そうやって、お前のその瘴気で国を滅ぼすのか!!? わかっているのか、今のお前が魔の瘴気を発していることを!!」
「瘴気、だと? そんなはずはない! 私の力は正義だ! 力こそが正義なのだ!!」
ドドン!!
コーネリアスの纏った氣が怒りのあまり噴き上がる!!
その瘴気の塊は、斎場の天井を打ち抜き上空へと打ち上がる。
会場内は上昇する気流によって、暴風となって吹き荒れた。
「くそ! このままじゃ」
「お兄様、下がって! ヴァルキュリー部隊、行きなさい!」
黒い服に身を包んだメイド部隊を引き連れたサラ皇女、暴風の中をいつの間にかシルフィーナのそばまでやってきていた。
そんなメイド部隊、サラの掛け声と共にコーネリアスをとらえるべく飛びかかる。
「サラ様」
「シルフィーナ様、ごめんなさいね。コーネリアス様のこと、注意はしていたんだけど」
「そんな、だって」
「彼は厄災の種、魔王石に飲まれてしまったの。おねがい、シルフィーナ様、力を貸してください」
目の前で漆黒の鎖を武器のように振り回すコーネリアスと、その周囲を飛び回り攻撃を仕掛けるメイド部隊が戦っている。
アルブレヒト皇太子は、剣に魔力を溜めつつ戦況を見守っている。
天井からはパラパラと壊れた漆喰のかけらが降って、あたりは粉塵に塗れていた。
「わたくしに、できることがあるのなら」
このまま、何もしないでいることなんか、シルフィーナにはできなかった。
もし。
自分の力を使い切り、また倒れてしまうことがあったとしても。
そんなことはもう構ってはいられない。
目の前のあの、漆黒の闇。
あの、コーネリアス様の心の奥深くに感じる、真っ赤に燃えたぎった力。
あれを、冷ましてあげなくちゃ。
そう、感じて。
ただ、心配なのはさっき上空に逃げた分の瘴気。
かなりの量があそこから巻き上がったように感じていた。
逆に、ここに残っているコーネリアス様は、すでに空っぽに近い状態に見えないこともないくらいに。
(ままよ!!)
悩んでみてもしょうがない。
今は目の前の、コーネリアス様に集中しよう。
そう気持ちを集中させたシルフィーナ。心の奥底にずずっと潜って。
(わかる。これを)
心の底にあった。
きっと、ずっと昔の過去から、自分の中にあった、神の魔法。
たぶん、コレット家のずっと昔の聖女様から、その血の中に受け継がれてきた、そんな。
神の魔法。神の鍵。あの厄災の魔溜まり、禁忌の魔法陣、そんなこの空間のほつれを閉じる鍵の魔法がここにあった。
今、あのコーネリアスの心の奥底には魔の塊の石が真っ赤に燃えているのがわかる。
感じられる。
それもきっと、この神の魔法のおかげかもしれないと、そうシルフィーナは信じて。
解き放ったのだ。
自分の中にあったその神の魔法を。
♢ ♢ ♢
その時、光が溢れた。
シルフィーナを中心に、その斎場全体が眩い光に包まれて。
誰もが皆、一瞬視界が真っ白になって。
白銀に輝く粒子がシルフィーナの周囲に湧き出して、それはそのままコーネリアスをも包み込む。
そして。
静寂が、訪れた。
♢ ♢ ♢
視界が晴れた時。
ヴァルキュリー部隊によってコーネリアスは取り押さえられていた。
あの心の奥底にあった熱は、すっかりと冷め。
本人も、呆然と、何があったのかもわからない、そんな状態に見える。
「大丈夫か! シルフィーナ!」
斎場の外で警備にあたっていたサイラスがやっと中に駆けつけて。
警備責任者として避難するものたちの安全を優先し、やっと手をあけ中に入った時には周囲はすでに白銀に包まれていた。
それでもその視界が晴れ一目散にシルフィーナのもとに辿り着き。
そして、立ち尽くす彼女を抱き止めて。
気丈に、ぎりぎりのところでなんとか立っていたシルフィーナ。
自分の中のマナを一気に放出し、もうすでに、その魂の真那は切れかけて。
「旦那さま……」
サイラスに抱き止められると同時に、脱力し、その身体を彼に預けてしまう。
「すみません、旦那さま」
「いや、いいんだシルフィーナ。それよりも。よくがんばったね」
そう笑みを向け、シルフィーナの耳元で囁いて。
「ありがとうございます。わたくし、がんばりました」
「ああ。愛してるよ、私の聖女」
「ええ、わたくしも愛してます。わたくしの大好きな旦那さま」
シルフィーナの意識はそこで途絶えた。
一瞬で、来賓席よりジャンプしてきたアルブレヒト皇太子。
武器は携帯してはいなかったはずなのに、今その手には細身の剣が掲げられていた。
「ああ、アルブレヒトか。私はやっと力を手に入れたよ。これでお前にも負けることはない」
「そんな力! 何度も言ったろ、そんな闇の力など求めて何になるのだと!!」
「お前には感謝してるよ。魔王が降臨したあの厄災の日、世界に降り注いだ無数の厄災の種のうちの一つが、この私に宿っていると教えてくれて。ああ、なんて素晴らしいことだろう! と、歓喜に打ち震えたよ」
「馬鹿野郎! 人の身を滅ぼす厄災の力など、使いこなせるわけがないだろう!!」
「お前にはわからないさ、古い王家の血を引いていながら冷遇され続けた我が家系の無念は。しかし、長年我らが国のためにと武を磨き国家安寧のために奔走している時に、なんだ今の王族は。神、神、神、いつまで経っても神頼み。そんな他力本願な政治しかしてこなかったではないか! 私は違う。この力でもってこの国を、世界一の強国にしてみせる! 世界一の豊な国に!」
「そうやって、お前のその瘴気で国を滅ぼすのか!!? わかっているのか、今のお前が魔の瘴気を発していることを!!」
「瘴気、だと? そんなはずはない! 私の力は正義だ! 力こそが正義なのだ!!」
ドドン!!
コーネリアスの纏った氣が怒りのあまり噴き上がる!!
その瘴気の塊は、斎場の天井を打ち抜き上空へと打ち上がる。
会場内は上昇する気流によって、暴風となって吹き荒れた。
「くそ! このままじゃ」
「お兄様、下がって! ヴァルキュリー部隊、行きなさい!」
黒い服に身を包んだメイド部隊を引き連れたサラ皇女、暴風の中をいつの間にかシルフィーナのそばまでやってきていた。
そんなメイド部隊、サラの掛け声と共にコーネリアスをとらえるべく飛びかかる。
「サラ様」
「シルフィーナ様、ごめんなさいね。コーネリアス様のこと、注意はしていたんだけど」
「そんな、だって」
「彼は厄災の種、魔王石に飲まれてしまったの。おねがい、シルフィーナ様、力を貸してください」
目の前で漆黒の鎖を武器のように振り回すコーネリアスと、その周囲を飛び回り攻撃を仕掛けるメイド部隊が戦っている。
アルブレヒト皇太子は、剣に魔力を溜めつつ戦況を見守っている。
天井からはパラパラと壊れた漆喰のかけらが降って、あたりは粉塵に塗れていた。
「わたくしに、できることがあるのなら」
このまま、何もしないでいることなんか、シルフィーナにはできなかった。
もし。
自分の力を使い切り、また倒れてしまうことがあったとしても。
そんなことはもう構ってはいられない。
目の前のあの、漆黒の闇。
あの、コーネリアス様の心の奥深くに感じる、真っ赤に燃えたぎった力。
あれを、冷ましてあげなくちゃ。
そう、感じて。
ただ、心配なのはさっき上空に逃げた分の瘴気。
かなりの量があそこから巻き上がったように感じていた。
逆に、ここに残っているコーネリアス様は、すでに空っぽに近い状態に見えないこともないくらいに。
(ままよ!!)
悩んでみてもしょうがない。
今は目の前の、コーネリアス様に集中しよう。
そう気持ちを集中させたシルフィーナ。心の奥底にずずっと潜って。
(わかる。これを)
心の底にあった。
きっと、ずっと昔の過去から、自分の中にあった、神の魔法。
たぶん、コレット家のずっと昔の聖女様から、その血の中に受け継がれてきた、そんな。
神の魔法。神の鍵。あの厄災の魔溜まり、禁忌の魔法陣、そんなこの空間のほつれを閉じる鍵の魔法がここにあった。
今、あのコーネリアスの心の奥底には魔の塊の石が真っ赤に燃えているのがわかる。
感じられる。
それもきっと、この神の魔法のおかげかもしれないと、そうシルフィーナは信じて。
解き放ったのだ。
自分の中にあったその神の魔法を。
♢ ♢ ♢
その時、光が溢れた。
シルフィーナを中心に、その斎場全体が眩い光に包まれて。
誰もが皆、一瞬視界が真っ白になって。
白銀に輝く粒子がシルフィーナの周囲に湧き出して、それはそのままコーネリアスをも包み込む。
そして。
静寂が、訪れた。
♢ ♢ ♢
視界が晴れた時。
ヴァルキュリー部隊によってコーネリアスは取り押さえられていた。
あの心の奥底にあった熱は、すっかりと冷め。
本人も、呆然と、何があったのかもわからない、そんな状態に見える。
「大丈夫か! シルフィーナ!」
斎場の外で警備にあたっていたサイラスがやっと中に駆けつけて。
警備責任者として避難するものたちの安全を優先し、やっと手をあけ中に入った時には周囲はすでに白銀に包まれていた。
それでもその視界が晴れ一目散にシルフィーナのもとに辿り着き。
そして、立ち尽くす彼女を抱き止めて。
気丈に、ぎりぎりのところでなんとか立っていたシルフィーナ。
自分の中のマナを一気に放出し、もうすでに、その魂の真那は切れかけて。
「旦那さま……」
サイラスに抱き止められると同時に、脱力し、その身体を彼に預けてしまう。
「すみません、旦那さま」
「いや、いいんだシルフィーナ。それよりも。よくがんばったね」
そう笑みを向け、シルフィーナの耳元で囁いて。
「ありがとうございます。わたくし、がんばりました」
「ああ。愛してるよ、私の聖女」
「ええ、わたくしも愛してます。わたくしの大好きな旦那さま」
シルフィーナの意識はそこで途絶えた。
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