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未来と前世と。

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 記憶の映像は濁流のように続いていた。それでも、その時の出来事に伴うはずの感情までを全て思い出せたわけではなかった。
(なんだか他人の人生を眺めているみたい)
 そんな風にも感じて。

 確かにこの身体はこの記憶はセラフィーナの物だ。それは間違いない。
 それでも、それだけじゃない。
 兄を好きだったことは思い出した。兄と一緒にいたあの白銀の髪の男の子、あれはルークヴァルトだ。
 そう確信もした。

(だったら? セラフィーナはルークヴァルトが好きだったの? でも……)

 今の自分の中には恋愛感情というものは無い気がする。
 そこだけが何故か漆黒の穴のように抜け落ちている。


 映像が続いていた。

 母が亡くなって、父は荒れた。貧乏になった事で兄は奨学金を貰い寄宿舎に入った。
 子供の自分はここで心を閉ざしたのだろう。誰に頼ることもできず、ただただ苦痛を心の奥に押し込めたのだ。

 場面が変わる。

「——だから、これは契約による婚姻だ。私が君を愛する事はない」

 降って湧いた話にのって、セラフィーナ自身もが望んだ縁談、だったけれど。
 目の前でそう宣ったのは、幼い頃大好きだったあの白銀の王子様、だった。
 悲しくて毎日泣きくらした。
 氷結公爵と噂されるほど冷酷なお顔になってしまっていた彼。
 彼がセラフィーナに笑顔を向けてくれる事は最後まで無かった。

 反転。


 屋敷の中なのに吹雪が激しく舞っている。
 これは、夫、ルークヴァルトの氷結魔法だろうか。
 最大魔法をはねかえされ倒れるルーク。命の火が今にも消えそうに、小さくなっていく。
「ダメ、旦那様、死なないで!」
 悪漢らに人質になっている兄。セラフィーナはルークに縋りついて泣いている。
「ごめん、セラフィ。君を守ることができなかった……」
 弱々しくそう言うルークの顔。

「いや、いや、いやー!! ルーク様、おねがい死なないで!」

 彼の命が消えた時。セラフィーナの中で何が弾けた。
 そして思い出したのだ。自分が何者であったのか。

「許さない! 絶対に許さない!!」

 魔力を暴走させた一瞬で悪漢達を消し飛ばし、そしてルークの亡骸に向き直って祈った。

「死なせない、絶対に貴方を助けてみせる。わたしの全てを賭けて!」

 白蓮の魔女エメラ。
 それがセラフィーナの前世の名前。
 全てを思い出し、彼女自身の心の奥底にあった枷を解放し、権能を解き放った。
 白金の粒子が周囲を覆い、光の渦が巻き上がる。
 そして。
 時が遡った。
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