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[幸福]しあわせ。
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無言で頷いて。
両手を宙空に掲げた。
この白い空間はシルビアの心の中の世界。
わたくしのこの身体だって意識だけのもの。
外の世界とは違う。だけど。
キュアが、そこここに現れたのがわかった。
そっか。
外の世界もこの心の中の世界も、結局のところは本質は変わらないんだ。
無限に広がるように見えるこの白い世界。
きっと、世界ってこんなふうに無数に重なり合ってできているんじゃないかって。
そんなふうにも思えた。
気のせいかもしれないけど、この時のわたくしは本気でそう思ったのだ。
目の前に出現したキュアたちは、空想や意識だけのそんな存在じゃない。
ちゃんと、小さいけれどそこにあるもの。
ちゃんと、ギアとしてのちっちゃな意識を持って、わたくしに力をかしてくれる。
そう、思えたのだもの。
(エルザ 好き)
(エルザ 大丈夫)
(エルザ 祈って)
そんな意識が流れ込んでくる。
「キュア、お願い。あのアウラクリムゾンから闇を、取り払って!」
光がこの白い世界に溢れる。
白銀の光のカーテンが、何層にも膨らんでこの世界を覆っていった。
——ありがとう姉さま。これで、もう大丈夫……。
最後にそう、シルビアの声が聞こえた気がした。
わたくしはそのまま、彼女の心から弾かれるように離れ。
現実の、元の世界のわたくしの心に返ってきていた。
もう、ものすごく時間が経ったような気がしていたのに。
気がつくとそこにはフリード様がいて。
地面に転がったままの勇者様がいた。
むくっと起き上がった勇者様が口を開いた。
「やあ。エルザ。うまくやれたみたいだね」
その声は優しくて、最初にあった時のままの勇者様だったけど。
その奥に、あんなに熱い心を隠していたのももう知ってる。
勇者様は勇者様なりに一生懸命皆を守ろうとしてくれていたのも、ちゃんと感じていたのに。
「ごめんなさい。でも、わたくしにはこの選択しかできませんでした」
「ああ、まあ、そうだね。もう、いいよ。結果オーライだ」
そう言って笑顔を見せてくれたから。
心の中で、「ありがとうございます」と呟いて。
目の前の結果を見据える。
「エルザ。よかった、よかったよ」
フリード様が、そうわたくしの手をとってくれた。
わたくしも、彼の手をぎゅっと握って。
「シルビアは」
そう声にする。
「ああ、多分、大丈夫だ。呼吸はしてる。きっとまだ眠っているだけだよ」
そう、優しく声にしてくれたフリード様と一緒にシルビアのそばに駆け寄った。
童話の眠り姫のように、横たわって目を瞑っている彼女。
そっと抱き起こしてみると、ちゃんと温かい。心音も、スーと呼吸の音も聞こえる。
キュアで治療をするまでもなく、身体はちゃんと健康体で。
というか、キュアは、シルビアの周りにもちゃんといた。
彼女のために、彼女のことを大好きだってそんな感情が伝わってきて。
思わず、笑みが溢れた。
そっか。
最初っから。
そうだったんだね。
キュアたちは、わたくしだけじゃなくってちゃんとシルビアも守ってくれてたんだ。
そう気がついて、嬉しくなって。
結局、わたくしが勘違いしていただけ。
わたくしとシルビアは、こんなにも似ていたのに。
♢ ♢ ♢
シルビアが寝ている間に最奥の間の結界の強化を終え。
聖石は一個足りなくなっちゃったけど、そこはそれ。
多分このままシルビアが生きている間はこのままずっと、アウラクリムゾンは彼女の魔ギアであり続けるだろう、って、そう勇者様がおっしゃった。
目が覚めたシルビアと一緒に馬車に乗って帰る道中で、なんとか人の形を取り戻したベアトリーチェ様も顕現した。
「わたくしが大好きなのはシルビィですから! もう、フリード兄様のことなんかなんとも思っていませんから!!」
そう、ぷんとほっぺたを膨らまして横を向くベアトリーチェ様は、気のせいかなんだか前より幼く見えて。
わたくしたちのわだかまりも、なんだかどこかに行ってしまったような気がして。
うん。
わたくしの隣にはフリード様が座って、ずっとわたくしの手を握ってくれている。
それが、嬉しくて。
幸せ。
そう、心から思えたのだった。
両手を宙空に掲げた。
この白い空間はシルビアの心の中の世界。
わたくしのこの身体だって意識だけのもの。
外の世界とは違う。だけど。
キュアが、そこここに現れたのがわかった。
そっか。
外の世界もこの心の中の世界も、結局のところは本質は変わらないんだ。
無限に広がるように見えるこの白い世界。
きっと、世界ってこんなふうに無数に重なり合ってできているんじゃないかって。
そんなふうにも思えた。
気のせいかもしれないけど、この時のわたくしは本気でそう思ったのだ。
目の前に出現したキュアたちは、空想や意識だけのそんな存在じゃない。
ちゃんと、小さいけれどそこにあるもの。
ちゃんと、ギアとしてのちっちゃな意識を持って、わたくしに力をかしてくれる。
そう、思えたのだもの。
(エルザ 好き)
(エルザ 大丈夫)
(エルザ 祈って)
そんな意識が流れ込んでくる。
「キュア、お願い。あのアウラクリムゾンから闇を、取り払って!」
光がこの白い世界に溢れる。
白銀の光のカーテンが、何層にも膨らんでこの世界を覆っていった。
——ありがとう姉さま。これで、もう大丈夫……。
最後にそう、シルビアの声が聞こえた気がした。
わたくしはそのまま、彼女の心から弾かれるように離れ。
現実の、元の世界のわたくしの心に返ってきていた。
もう、ものすごく時間が経ったような気がしていたのに。
気がつくとそこにはフリード様がいて。
地面に転がったままの勇者様がいた。
むくっと起き上がった勇者様が口を開いた。
「やあ。エルザ。うまくやれたみたいだね」
その声は優しくて、最初にあった時のままの勇者様だったけど。
その奥に、あんなに熱い心を隠していたのももう知ってる。
勇者様は勇者様なりに一生懸命皆を守ろうとしてくれていたのも、ちゃんと感じていたのに。
「ごめんなさい。でも、わたくしにはこの選択しかできませんでした」
「ああ、まあ、そうだね。もう、いいよ。結果オーライだ」
そう言って笑顔を見せてくれたから。
心の中で、「ありがとうございます」と呟いて。
目の前の結果を見据える。
「エルザ。よかった、よかったよ」
フリード様が、そうわたくしの手をとってくれた。
わたくしも、彼の手をぎゅっと握って。
「シルビアは」
そう声にする。
「ああ、多分、大丈夫だ。呼吸はしてる。きっとまだ眠っているだけだよ」
そう、優しく声にしてくれたフリード様と一緒にシルビアのそばに駆け寄った。
童話の眠り姫のように、横たわって目を瞑っている彼女。
そっと抱き起こしてみると、ちゃんと温かい。心音も、スーと呼吸の音も聞こえる。
キュアで治療をするまでもなく、身体はちゃんと健康体で。
というか、キュアは、シルビアの周りにもちゃんといた。
彼女のために、彼女のことを大好きだってそんな感情が伝わってきて。
思わず、笑みが溢れた。
そっか。
最初っから。
そうだったんだね。
キュアたちは、わたくしだけじゃなくってちゃんとシルビアも守ってくれてたんだ。
そう気がついて、嬉しくなって。
結局、わたくしが勘違いしていただけ。
わたくしとシルビアは、こんなにも似ていたのに。
♢ ♢ ♢
シルビアが寝ている間に最奥の間の結界の強化を終え。
聖石は一個足りなくなっちゃったけど、そこはそれ。
多分このままシルビアが生きている間はこのままずっと、アウラクリムゾンは彼女の魔ギアであり続けるだろう、って、そう勇者様がおっしゃった。
目が覚めたシルビアと一緒に馬車に乗って帰る道中で、なんとか人の形を取り戻したベアトリーチェ様も顕現した。
「わたくしが大好きなのはシルビィですから! もう、フリード兄様のことなんかなんとも思っていませんから!!」
そう、ぷんとほっぺたを膨らまして横を向くベアトリーチェ様は、気のせいかなんだか前より幼く見えて。
わたくしたちのわだかまりも、なんだかどこかに行ってしまったような気がして。
うん。
わたくしの隣にはフリード様が座って、ずっとわたくしの手を握ってくれている。
それが、嬉しくて。
幸せ。
そう、心から思えたのだった。
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