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[追憶]生き写し。

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 翌日。
 朝食の時も夕食の時も、アルベルト様のお顔をまともにみることができなかった。
(この人がわたくしのお父様かもしれないなんて)
 お顔を見るとついついそんなことを考えてしまって、ついつい目を逸らしてしまう。

 フリード様はそんなわたくしの様子を眺め、心配そうなお顔をしてくださる。
 それも、心苦しかった。

 もう、当たって砕けるしかないのかな。
 直接お尋ねしてみるしかないのかな。
 もし思い違いなら、とっても失礼な質問になってしまうからと躊躇するけれど、それでも。
 きっと、これは。
 もうこの疑問を何とかしなければ、わたくしはフリード様ともまともに結婚することができそうにない。
 実家の父とも、もうまともに顔を合わすことができなくなる。

 このままじゃだめ。
 何もかも知らないふりしてこのまま過ごすなんて、もうできない。

 ♢

「僕の城にようこそ。お嬢さま」

 そんなふうに少しおちゃらけた雰囲気で、アルベルト様はお部屋に招き入れてくれた。

 今日は公務もそこまで多くなかったって言って、昼間のうちに帰ってきたアルベルト様。
 フリード様を代理で残して自分だけ帰って来たんだよ、と、笑ってた。
 何だか、雰囲気がすごくお若くて。
 お年は父グラームスと一緒のはずなのに、何だか今日は見た目も若く見える。

「ありがとうございますアルベルト侯爵閣下。フリード様からお話をお聞きになって下さったのですね?」

 もし良かったら今から私の書斎に来ないかい?
 お昼をご一緒して、そう声をかけて頂いて。

 わたくしの質問を笑顔で肯定して下さったアルベルト様にエスコートされるまま、彼の書斎に到着した。

 何だかすごく上機嫌な侯爵様に、自分の推測がもし当たってしまっていたら、と。
 そんなふうに少し不安も感じる。
 できたら、ちゃんと否定をしてほしい。
 そんな、だって。
 自分がそんな不貞の結果の子だなんて、そんな事考えたくないもの。

 お部屋には。
 たくさんの本が並んだ本棚が、やっぱりたくさんところせましと並んでいる。
 そんな本棚の本を眺めながらお酒を飲むのか、棚の隙間に設られたテーブルと椅子。
 そして。
 ぎっしりと本が並ぶなか、一箇所だけ絵が飾ってあるスペースがあって。
 そこにある絵には、若かりし日のグラームスお父様とフローラお母様が仲睦まじく並んで描かれていた。

「お父様と、お母様?」

「もしかして、君はフローラの絵姿も見たことはなかったのかい?」

「ええ。父はそういうのを飾ったりしませんでしたから。お婆様のところにあったのは母が子供の頃の肖像画だけでしたし」

「そうか。やっぱり君をここに招いて良かったよ。この絵は君に見せてあげたかったから」

 優しい瞳でそうおっしゃる侯爵様。

「ありがとうございます。この母は今のわたくしと同じくらいの歳の頃、でしょうか?

「そうだね、ちょうど一緒くらいかな。君は本当にお母様に生き写しだ」

 ああ。わかる。

 この絵はわたくしをモデルに描いたのだと言われても信じてしまうくらい、今のわたくしにそっくりで。

 侯爵様の優しい瞳が見ているのは、もしかしてお母様の面影?
 わたくしを見て、お母様を思い出していらっしゃった?

 そうなのかもしれない。ううん、そうに違いない。
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