「あなたのことはもう忘れることにします。 探さないでください」〜 お飾りの妻だなんてまっぴらごめんです!

友坂 悠

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感謝の気持ちが。

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 あ。忘れてた。

 お皿三つに具なしのナポリタンスパゲティーとカリッカリのポテトフライ、そして美味しそうに焼き色のついた粗挽きハンバーグステーキをのせてデミグラスソースをふわっとかけて完成、だなんて思ってたけど肝心のものが足りなかった。

 慌てず騒がず最初っからこの手順だったかのようにフライパンに油を引いて卵を三個割り入れる。
 綺麗に黄身がまあるく残ったそれを、弱火でゆっくり焼いて。黄身部分がまだ生な状態でハンバーグの上にのせて……。

 今度こそ本当に完成だ。
 美味しそうに見える、かな?

 あたしはギディオン様とジェフさんの顔を順番にのぞきこみ、反応を……。


「うまそう、だ」

「ああ、本当に美味しそうだよ。セリーヌ」

 そう満面の笑みでこちらを見てくれるギディオン様。
 ちょっとニヒルな笑顔だけど、なんとなく親しみの持てるジェフさん。
 二人に褒められてなんだかすっごく満足して。
 心の中からあったかくなった。

 にへらと顔も緩む。

「ふふふ。ありがとうギディオン様。ジェフさんもお手伝いしてくれてありがとうございます。さあ、試食をしましょ?」


 お昼のピークも終わってお店はちょうど休憩時間になっていた。
 給仕の方達も休み時間なのかな。お店にはジェフさんとギディオン様、そしてあたしの三人しかいなかった。

 真ん中の席にお皿を運び、三人で腰掛ける。

「どうぞお召し上がりくださいな」

 そう声をかけるあたし。

「じゃぁ、いただくか」

「そうだね。本当に美味しそうだ」

 豪快にフォークを刺すジェフさん。丁寧にナイフを入れるギディオン様。
 正反対な所作だけど、そんな二人は息もぴったりと言った感じにハンバーグを口に運んだ。

「うまい!!」

「ああ、口の中に肉汁が溢れてくるよ。とろけるようだ」

「お肉はジェフさんに用意してもらって、焼くのもジェフさんにお願いしましたからね。ジェフさんのおかげです」

「いや、このハンバーグのうまさはそれだけじゃない。丁寧に表面を仕上げ肉汁が外に出てしまわないようにした工夫、そして何よりこの絶妙な香辛料の味付けだ。ああ、つなぎのパン粉や飴色になった玉ねぎもいい仕事してるよ。これは本当にうまいな」

「よかった。多分、あの絵のものもこんなお味だったと思うんですよ」

「そうだな。本当にありがとうセリーヌ姫」

 途端に紳士的な瞳でこちらを見るジェフさん。それに、姫、だなんて……。

「あ、いえ、そんな……」

「このかかっているソースも、うちのブラウンシチューとは思えないほどのコクがある。上にのったたまごの黄身を混ぜて食うと美味さがまた一段変わるな。絶品だよこれは」

「ありがとう、ございます……」



 喜んでもらいたかった。
 でも、それよりも、元の世界で食べていたハンバーグをもう一度食べてみたかった。
 だから、このジェフさんの賛辞は恥ずかしく。
 でもやっぱりとっても嬉しくて。

 あたしの心は満足感に包まれて、ふわふわと浮き上がるような気持ちで。

「ありがとうございます!!」

 感謝の気持ちが溢れてとまらなかった。
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