「あなたのことはもう忘れることにします。 探さないでください」〜 お飾りの妻だなんてまっぴらごめんです!

友坂 悠

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かわいいな。

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 紅い街道。

 全ての道はローマに通ず。
 その言葉を地でいくように、この世界では全ての国や地方が帝都に快適にたどり着けるよう、古くから紅い煉瓦の街道が敷設されている。
 この煉瓦もある意味聖魔具アーティファクトと呼んでもいい代物で、自動修復、魔物避け等の魔法効果が何千年と保たれている特級品らしい。
 紅い街道を通りさえすれば魔物に襲われることもない。
 そして、この街道は轍一つ残ることなく常に最適な状態を保っている。
 実はもう今の技術では作成することも不可能なレベルの聖魔具アーティファクトとなっていたのだ。

 そんな街道を走る馬車の旅は、快適だった。
 轍一つ見ることのない道は限りなくフラットで、段差なんかどこにも見えなかった。
 あたしの乗った馬車もほとんど揺れることはなく、まるで地球の高級車にでも乗っているかのような快適さだったから。

「ねえギディオンさま、何か魔法を使っていらっしゃいます?」

 思わずそう聞いてしまった。

「いや、何も? どうして?」

「だって、まるで宙に浮いているかのように快適なんですもの」

「はは。そういう意味でなら、この馬車には工夫が施されてるからね」

「馬車に、ですか?」

「うん。安定してフラットに滑るように走るよう、特殊な加工が施されてるよ。おかげで通常の馬車の三倍は早く走れるんだ」

 さ、三倍??

「そんな、、お馬は持つのですか?」

「馬もね、特殊仕様さ。専用オートマタだからね。見かけは完全な生きてる馬を装ってるけれど、中身は魔具の自動人形なのさ」

 そうあっさりと話すギディオンさま。


「特殊な秘密、でもないのですね?」

「そうだね。まだ一般には広めていない技術だけれどね、父が魔具研で研究した成果でもあるんだよ。すごいでしょ?」

 あは。
 子供みたいに悪戯っぽく笑うギディオンさま。
 なんだかその表情が、かわいいな、ってそう思った。


 ♢ ♢ ♢


 昼はピクニックのように。
 緑の草原でお弁当をつまむ。

 そして。

 夜は街道ぞいの宿場町で宿をとる。
 美味しい料理に舌鼓をうち、あたたかいベッドで眠るのだ。


 そんな快適な旅は、あっという間に終わりを告げようとしていた。

 目的地の聖都「カサンドラ」は、すぐそこに迫っていたのだった。








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