「あなたのことはもう忘れることにします。 探さないでください」〜 お飾りの妻だなんてまっぴらごめんです!

友坂 悠

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【side アラン】あらがう。

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 ジャンはオレがいなくなった後、すぐに帝都の修行は辞めてこの街に帰ってきたのだという。
 自分とのトラブルのせいで居づらくなっしまったかと最初はそれにも同情してしまったが、どうやらそれだけでもない様子。
 まともに修行をするそぶりもなく、地下組織のチンピラどもと遊び回っているっていう噂もあった。

 数年の冒険者仕事で経験を積み金も貯め、オレが自分の店を出すことにしたときにはモーリスじいさんのところにも一応挨拶に行った。
「俺はお前にこの店を継いで貰いたかった」
 そういうモーリス。
 矍鑠として見えるがだいぶ気が弱っているのか?
 こんな顔、するじいさんじゃなかったのに。
 その時はそう思った。
「ジャンがいるだろう」
 オレのその声に、
「ああ、そうだな……」
 と、力無く答えるモーリス。
 そんなじいさんを見ると少し悲しくはなったけれど、こうして近くにいれば何かと力になれることもあるはず。
 だから。



 店のメインの商品はモックパンと被らないようドーナツにすることにした。
 マフィンは多少被るけれどモックパンではあまり力を入れていない。ならそこまでじいさんの店に迷惑かけることもないだろう。
 そう考えたのだ。

 妻のマロンと二人で頑張って、やっと店員も雇って順風満帆となった頃。
 国内の砂糖が不足し値段が高騰した時があった。
 オレだけではどうにもならなかったところにじいさんが輸入砂糖を世話してくれた。
 代金も貸してくれるという。
 もしかしたらこれもモーリスじいさんのロック商会にとっては儲けの出る商売なのかもしれない。そう思ったオレは、恩返しの意味も含めて必要以上に砂糖を仕入れることにした。
 なに、多少高めの砂糖ではあるけれど、今の店の状態なら充分代金の金も返していける。そう算段もつけて。
 それがまさか罠だったとはその時には考えもしなかった。

 ジャンの入れ知恵か? モーリスじいさんの差金か?
 それはもうどうだって良かった。
 やつらはこの店を潰したいのだ。
 そう理解したら、なんとしてでも抗ってやらなきゃ気が済まなくなった。

 オレはジャンの為にと身を引いたのに。
 それをわかって貰えていなかったと思うとやるせない気持ちになる。
 帝都で見ていたジャンのあの目。
 狂気にも見えたあのあからさまな嫉妬。
 あんなこと、もう繰り返したくは無いっていうのに。

 このままオレが店を畳んだとしてもあいつらの元には帰る事はない。
 そんな事もわからないモーリスじいさんに腹が立ち。

 こんな事で潰されそうになっている事が悔しくってやるせない。

 もうやめてどこか遠くの街に行ってしまおうか、そう諦めかけたこともあった。
 それでも。
 一緒に頑張ってきてくれた妻マロンのことを想うと、どうしても諦めきれない。
 悔しくて、もう少しだけでも抗いたい。
 そう思っていた時に彼女は言ったのだ。
 天使のようなかわいらしいその顔を真剣な怒りに変え。


「あたし、昼間のドーナツ屋さんを手伝いたいんです! ちゃんと儲からなきゃお給金は要りません! あんなわるいやつらのせいでこのお店が潰れちゃうの、許せないんです!!」

 と。
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