「あなたのことはもう忘れることにします。 探さないでください」〜 お飾りの妻だなんてまっぴらごめんです!

友坂 悠

文字の大きさ
上 下
44 / 74

優しいお声で……。

しおりを挟む
「セリーヌ、か?」

 回復魔法が効いたのか、お父様のお顔の色も随分と明るくなって。
 ふわっと目を開けたお父様、すぐにあたしのことに気がついてくれた。

「大丈夫ですか? お父様」

「ああ。これは。お前が祈ってくれたのだね。すっかりと良くなっているようだ……」

 お父様ゆっくりと身体を起こしてあたしをみつめる。

「ありがとう。お前が見舞いに来てくれるとは思わなかった。マリアンネに聞いてくれたのかい?」

 え?
 お父様、もしかして何も聞かされていない?

「あ、いえ。お父様、でも、どうして……」

 たとえご病気だったとしても、今は良いポーションも多い。
 万病に効くポーションがあるわけではないけれど、それでも体力を回復させるだけならよく効くお薬もあるはずだ。
 お母様が亡くなってから今までに、国内のお薬の状況もかなり進歩しているはずなのに。

 それに。
 お父様のお身体にはもう病巣は残っていない。
 ポーション魔法の権能のおかげか、あたしには病気の人の症状も、お薬の効能も、鑑定することができるから。

 さっきまでのお父様は確かに全身が疲弊し内臓にもダメージが蓄積されていた。
 でも。
 それに対応する病巣を見つけることはあたしにはできなくて。
 今こうして改めて鑑定してみても、「健康体」としかいえない状態になっている。

「お父様! もしかしてお父様、何かお薬とか飲んでいましたか?」

「ああ。体調がすぐれなくなってすぐマリアンネが持ってきてくれたこれだ。お前が用意してくれたのだと聞いたが……」

「マリアンネ、は、今どこに?」

「ん? どう言うことだ? マリアンネはお前の仕事を手伝うのだと、アルシェード公爵邸に入り浸りではないか?」

「義母様も、ですか?」

「ああ。マリアンネの世話は他の人間には任せられないと言ってついていったさ。まあ、わしは一人でも大丈夫だからと許可を出したが」

「どうして……」

「お前がパトリックのもとで頑張っている、領地の仕事も任され大変なので手伝ってあげたい。お前にも頼まれた。そうマリアンネは言っておったが……。違うの、か?」

 あああああ。
 なんてこと。なんてことを……。


 見せて貰った薬は毒だ。
 即死するわけでもなくすぐに効果が出るわけでもない、遅効性の、毒物。
 前世の日本で言ったらヒ素みたいなそんな毒。

 まさか、パトリック様の指示だろうか?
 だとしたら、どうして?
 お父様はパトリック様にとっても恩人なはず。
 どうして……。


 それと。
 今日はいつにもなく饒舌にあたしに色々お話をしてくださるお父様。
 気が弱っていらっしゃるのかな。
 以前のような問答無用な圧力は感じない。
 病み上がりのせい?

 どちらにしても。

 今日、ここにあたしが来ることができて、よかった。
 お父様の命を救うことができて、本当によかった。

「ごめんなさい、お父様……」

「どうした……、セリーヌ?」

「わたくしのせいかもしれません……。わたくしがパトリック様の元から逃げ出してしまったから、あの人……、でも、なんで……」

「逃げた、だと?」

「ごめんなさい、お父様。お父様に逆らう形になってしまいましたが、わたくしパトリック様の浮気にもう耐えられなくなってしまって、自分の名前だけ書いた離婚届を置いて家を出ていたのです……。もう、ひと月近くになりますわ……」

 怒る、ような、驚いた、ような。そんな複雑な表情でこちらを見つめるお父様。

「わたくしが……、わたくしが家を出てさえいなければ、お父様をこんな目に遭わせるような真似、絶対にさせなかったのに……。もっと早く気がついていれば、お父様をこんなにも苦しめることなく治して差し上げることができたのに……。ごめんなさいお父様……」

 涙がこぼれてきてもうはっきりお父様の姿を見ることができなかった。

「そうか。よくわかった。だいたいの事情は飲み込めた。奴め、恩を仇で返すとは許せん……。お前はベルクマール家で匿われていたのだな。先ほどセバスからベルクマール家からの見舞いが来たと報告があった。体調がすぐれず帰っていただくようセバスには言ったのだが、お前も一緒だったというわけか。辛い思いをさせてすまなかった。もっとわしが気をつけていれば……本当にすまない……」

 もう、お父様がどんなお顔でそうおっしゃっているのかはわからなかったけれど……。

 そのお声が、とても優しいお声だったのは、わかった。
 嫌われてると思っていたのがもしかしたらあたしの勘違いだったのかもしれない。
 そう思いなおして。
しおりを挟む
感想 53

あなたにおすすめの小説

忘却令嬢〜そう言われましても記憶にございません〜【完】

雪乃
恋愛
ほんの一瞬、躊躇ってしまった手。 誰よりも愛していた彼女なのに傷付けてしまった。 ずっと傷付けていると理解っていたのに、振り払ってしまった。 彼女は深い碧色に絶望を映しながら微笑んだ。 ※読んでくださりありがとうございます。 ゆるふわ設定です。タグをころころ変えてます。何でも許せる方向け。

【完結】もう辛い片想いは卒業して結婚相手を探そうと思います

ユユ
恋愛
大家族で大富豪の伯爵家に産まれた令嬢には 好きな人がいた。 彼からすれば誰にでも向ける微笑みだったが 令嬢はそれで恋に落ちてしまった。 だけど彼は私を利用するだけで 振り向いてはくれない。 ある日、薬の過剰摂取をして 彼から離れようとした令嬢の話。 * 完結保証付き * 3万文字未満 * 暇つぶしにご利用下さい

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

《完結》愛する人と結婚するだけが愛じゃない

ぜらいす黒糖
恋愛
オリビアはジェームズとこのまま結婚するだろうと思っていた。 ある日、可愛がっていた後輩のマリアから「先輩と別れて下さい」とオリビアは言われた。 ジェームズに確かめようと部屋に行くと、そこにはジェームズとマリアがベッドで抱き合っていた。 ショックのあまり部屋を飛び出したオリビアだったが、気がつくと走る馬車の前を歩いていた。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

王太子妃は離婚したい

凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。 だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。 ※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。 綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。 これまで応援いただき、本当にありがとうございました。 レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。 https://www.regina-books.com/extra/login

【完結】偽りの婚約のつもりが愛されていました

ユユ
恋愛
可憐な妹に何度も婚約者を奪われて生きてきた。 だけど私は子爵家の跡継ぎ。 騒ぎ立てることはしなかった。 子爵家の仕事を手伝い、婚約者を持つ令嬢として 慎ましく振る舞ってきた。 五人目の婚約者と妹は体を重ねた。 妹は身籠った。 父は跡継ぎと婚約相手を妹に変えて 私を今更嫁に出すと言った。 全てを奪われた私はもう我慢を止めた。 * 作り話です。 * 短めの話にするつもりです * 暇つぶしにどうぞ

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

処理中です...