「あなたのことはもう忘れることにします。 探さないでください」〜 お飾りの妻だなんてまっぴらごめんです!

友坂 悠

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お父様。

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 エントランスまで押しかけたことで根負けした執事に案内され応接室に通されたあたしたち。
 旦那さまに確認して参りますと部屋を出ていく執事セバス。
 に、しても。
 義母さまもマリアンネもいないのかしら?
 屋敷の中はとても静かな状態だった。

「じゃぁちょっとこっそりお父様のお部屋に行ってきます」

「ええ、頑張ってねセリーヌ」

 ここからお父様の寝室はそこまで遠くない。廊下にも今は誰もいない。
 うん。急ごう。
 お父様の寝室の隣にはお母様とあたしの部屋。あたしが結婚するまで使ってた部屋があり婚姻後も里帰り用に残っている。
 あたしの部屋が移動をしたというのは特に聞いていないし、私物も残してあったはずだからまずそのお部屋で着替えよう。
 侍女服はこのお屋敷で目立たないようにって配慮なだけで、お父様に会うのならちゃんと元のあたしの姿でないと怪しまれたりわかってもらえなかったりしたら嫌だ。
 お父様ったら今まであたしの顔なんかいつもしっかり見てはくださらなかったし、侍女服のままだとちゃんとあたしだってわかってくれるかどうかもわからないもの。

 スルッと部屋に潜り込む。
 ああ、これでちょっと安心だ。
 大急ぎでウイッグを外し、侍女服を脱ぐ。
 そのままワードローブを漁ってドレスを見繕う。
 あたし一人でも着られるのを探してシンプルだけど上品に見えるお母様のお古のドレスを見つけた。
 胸から下は花柄の刺繍で埋め尽くされ、腰から下がふんわりと広がるワンピースドレス。
 お母様が好きだったドレス。大きくなったら絶対に着るんだと思ってしまってあったけど、着る機会もなくてワードローブのこやしになってた。

 うん。これにしよう。

 着替えが終わり髪を整えて。
 お父様の寝室へと続く扉を開ける。
 この部屋はお父様のお部屋と続きになっている。廊下に出なくてもお父様に会いに行けたけれど、子供の頃のあたしは拒否されるのが怖くて一度も開けたことがなかった、けれど。

 カチャン。

 扉を開けるとそこは、カーテンも全て閉めてあるのかとても薄暗くて。
 奥にあるベッドには確かに誰かが寝ていらっしゃるのがわかる。
 お父様がご病気って、ほんとだったの?
 ゆっくり、なるべく足音も立てないよう気をつけてベッドの脇まで歩くあたし。

 ああ……。

 なんだかしばらく見ない間に随分と老けてしまったようなお父様の寝顔がそこにあった。

「お父様……」

 胸の前で両手を合わせ。
 祈る。

 お願い、キュア。
 お父様を治して。

 ふわっと金色のキュアの粒子が舞って、お父様の身体に吸い込まれるように入っていく。

 お願い。
 お父様、元気になって……。

 涙がほおを伝って落ちたのがわかった。
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