「あなたのことはもう忘れることにします。 探さないでください」〜 お飾りの妻だなんてまっぴらごめんです!

友坂 悠

文字の大きさ
上 下
41 / 74

対決、お父様。

しおりを挟む
「お父さんと話をする?」

「ええ、ギディオン様お願いします。わたくしをこっそり王都のリンデンバーグ家に連れて行って欲しいのです」

「そうか。どういう心境の変化があったのかはわからないけど、君がそうしたいのなら私は協力を惜しまないよ。それに、今、君の父、アドルフ・リンデンバーグ公爵は病気を理由に表社会に顔を出して居ないらしい。君が見舞ってあげるのがいちばんの薬だとも思うしね」

「え? お父様がご病気!?」

「ああ。どんな病なのか病状がどうなのか、一切外に情報が出てこないらしい。王宮でも心配されているそうだ。ああこれは姉さん情報だけど」

 ああ、そっか。
 アデライア姉様は王太子妃だから、王宮の情報も聞けるのね。

 姉様元気かな。シャルル王子ももうだいぶ大きくなったかしら。お会いしたいな。
 それこそミスターマロンのハニーリングを召し上がって貰いたいな。きっとシャルル王子なら、美味しいって気に入ってくれると思うけど。

 に、しても。
 あんなに丈夫で矍鑠としてらしたお父様がご病気だなんて……。

 アランさんがモーリスさんに会いにいくという話を聞いて。
 あたしにも少しだけ心境の変化があった。

 そう。このままじゃ、結局あたしはずっと中途半端だ。
 パトリック様と会いたくない、話もしたくないのは今でもそう、変わらない。だけど。
 ちゃんと離婚しないまま逃げ回るのも無責任にも思えて。
 このままじゃ、もしかしたらギディオン様にもベルクマール家にも迷惑をかけることにもなりかねない。
 だから。

 お父様に直訴しよう。
 わかってもらえないって、そう諦めるんじゃなくって。
 わかってもらえるよう、言葉を尽くしてみよう。
 そう、決めたのだ。

 アランさんに勇気を貰った、のかな。

 家出をして、そのまま離婚をして貰えたのならそれでよかった。
 パトリック様なんてマリアンネにのしをつけてあげたのに。
 どうやらそうならなかったってことは、マリアンネにとっても不幸なことだろう。
 だから。



「よし。それなら私もついていく」

「え? そんな、ギディオンさま」

「君をリンデンバーグ邸まで運ぶだけでは心配だ。そのまま軟禁されたら嫌だろう? だから私も、というか、私がアドルフ公爵の見舞いだと言ってリンデンバーグ家に乗り込むことにする。なあに、姉の王太子妃の名代だといえば玄関先で追い返されたりはしないだろうさ。君は私の付き添いの侍女のふりをして屋敷に入り、こっそりお父さんの部屋に向かえばいい。同じ屋敷にいれば君の魔力紋を私が見失うことはないから安心して」

 ♢ ♢ ♢

「じゃぁわたくしもご一緒に行きますわ」

 と、そうノリノリで話すニーアお姉様。
 ああ、でも?

「そうだね。ニーアならベルクマール侯爵家まで一瞬で跳べるしね」

「ええ、まあギディオンはちょっと邪魔だけど、セリーヌなら軽いしなんてこともないわね」

 そう腕組みするお姉様。

「ねえ、セリーヌ。侯爵家に着いたら御一緒にお風呂入りましょうね。ピカピカに磨いて差し上げますわ」

 え? え?

「そうだね。せっかくお父様にお会いするんだからちゃんと元のセリーヌに戻っておかないとね」

 なんだかセリフに釈然としないものを感じつつ、あたしはお姉様にぎゅっと抱きつかれ。
 そのままグルンと空間が反転するのを感じた。

 駐屯地のギディオン様の執務室から、ベルクマール侯爵邸のロビーまで。
 一瞬で移動したのだった。




「おかえりなさいませ奥様。おかえりなさいませぼっちゃま」

 急に跳ぶと驚かせるからって先に魔具で連絡してあったって言ってたけど……。

 え、え? どういうこと? 奥様? マリサさん、確かにそう言ったよね……。
 と言うことはニーアお姉様って、ギディオン様の奥様、だったの……?

「なかなか帰ってこれなくて悪いわね。変わりはない?」

「ええ、奥様。旦那様もギディオン様もお仕事漬けでお忙しいようで、お屋敷には滅多にお顔を出してくださりませんし」

「あの人も? もうしょうがないわね。また研究漬けで魔道士の塔に閉じこもっているのね。まあいいわ。この国じゃあの人以上の魔具の研究家は居ないのだし、せいぜい頑張ってもらわないとね」

 と、しょうがないわねって顔をしてすぐ思い返した様子のお姉様。

「ああでも今度の晩餐会には引っ張ってでも参加させないとだわ。なんてったってお兄様がこられるのに、弟のあの人が顔を出さないわけに行かないでしょう? あなたたちもジョアス様がお帰りになったら念を押しておいてくださいね」



 えええ?

 どういう、こと……。

「さあセリーヌ。さっさとお風呂に入っちゃいましょう。ゆっくり身体をあっためて綺麗にして。あのアドルフと対決するならそれくらい気合を入れないとね」

 そう言いあたしの手を引っ張って。

 勝手知ったる道と言わんばかりに迷わず浴室にまで連れていってくれたニーアお姉様。
 マリサさんも付いてきたからそれこそあっという間に服をひん剥かれ、あたしは浴槽に沈められたのだった。
しおりを挟む
感想 53

あなたにおすすめの小説

忘却令嬢〜そう言われましても記憶にございません〜【完】

雪乃
恋愛
ほんの一瞬、躊躇ってしまった手。 誰よりも愛していた彼女なのに傷付けてしまった。 ずっと傷付けていると理解っていたのに、振り払ってしまった。 彼女は深い碧色に絶望を映しながら微笑んだ。 ※読んでくださりありがとうございます。 ゆるふわ設定です。タグをころころ変えてます。何でも許せる方向け。

【完結】もう辛い片想いは卒業して結婚相手を探そうと思います

ユユ
恋愛
大家族で大富豪の伯爵家に産まれた令嬢には 好きな人がいた。 彼からすれば誰にでも向ける微笑みだったが 令嬢はそれで恋に落ちてしまった。 だけど彼は私を利用するだけで 振り向いてはくれない。 ある日、薬の過剰摂取をして 彼から離れようとした令嬢の話。 * 完結保証付き * 3万文字未満 * 暇つぶしにご利用下さい

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

王太子妃は離婚したい

凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。 だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。 ※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。 綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。 これまで応援いただき、本当にありがとうございました。 レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。 https://www.regina-books.com/extra/login

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

【完結】偽りの婚約のつもりが愛されていました

ユユ
恋愛
可憐な妹に何度も婚約者を奪われて生きてきた。 だけど私は子爵家の跡継ぎ。 騒ぎ立てることはしなかった。 子爵家の仕事を手伝い、婚約者を持つ令嬢として 慎ましく振る舞ってきた。 五人目の婚約者と妹は体を重ねた。 妹は身籠った。 父は跡継ぎと婚約相手を妹に変えて 私を今更嫁に出すと言った。 全てを奪われた私はもう我慢を止めた。 * 作り話です。 * 短めの話にするつもりです * 暇つぶしにどうぞ

婚約「解消」ではなく「破棄」ですか? いいでしょう、お受けしますよ?

ピコっぴ
恋愛
7歳の時から婚姻契約にある我が婚約者は、どんな努力をしても私に全く関心を見せなかった。 13歳の時、寄り添った夫婦になる事を諦めた。夜会のエスコートすらしてくれなくなったから。 16歳の現在、シャンパンゴールドの人形のような可愛らしい令嬢を伴って夜会に現れ、婚約破棄すると宣う婚約者。 そちらが歩み寄ろうともせず、無視を決め込んだ挙句に、王命での婚姻契約を一方的に「破棄」ですか? ただ素直に「解消」すればいいものを⋯⋯ 婚約者との関係を諦めていた私はともかく、まわりが怒り心頭、許してはくれないようです。 恋愛らしい恋愛小説が上手く書けず、試行錯誤中なのですが、一話あたり短めにしてあるので、サクッと読めるはず? デス🙇

処理中です...