「あなたのことはもう忘れることにします。 探さないでください」〜 お飾りの妻だなんてまっぴらごめんです!

友坂 悠

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あたしの帰る場所。

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「セリーヌ! セリーヌ! 目を開けてセリーヌ!!」

 気がついたら見知らぬ天井、じゃ、なくって。
 すごく近くに見えるお姉様のお顔。

 ああ。やっぱり綺麗だな。それに、どことなくお母様に似ていらっしゃる気もする……。
 っていうかあたしのお顔もお母様と似ているってよく言われるから、お姉様と並ぶと本当の姉妹のように見えるかな。だったらうれしいな。そんなふうに夢の中みたいな感覚で考えていたら、はっと目が覚めた。

「気がついたようだね。良かった」

 ギディオン様のお声もする。

 っていうか、あたしお姉様に抱きしめられてる?

「あああ。ごめんなさいお姉様。わたくし気を失ってしまってたんですね……」

 気を失う前のこと、もうどこまでが本当のことでどれが夢だったのかもわからない。
 お姉様、どこもお怪我をしていない?
 ああ、良かった。
 あれは夢だったのか……。

「ありがとうねセリーヌ。貴女が産み出した命の水のおかげで助かったわ」

 へ?

「身体の怪我だけじゃなくってマナまで完全に回復するなんて。普通魔法じゃマナを回復させることなんてできないから、ほんとうに奇跡の水、命の水と言っていい、そんな泉になってるわよ、ほらそこ」

 身体を起こしてよく見ると、たぶんちょうど魔溜りのあった辺りの窪みが清浄な水面に変わっていた。
 月の光が降るように照らし出したその泉。キラキラと溢れたキュアが降ってくる光と一緒になって踊っているようで。綺麗、だった。

「じゃぁあれって夢じゃ……」

「夢じゃ、ないわ。わたくしはセリーヌのおかげで救われたのよ。ほんと、ありがとうね」

 優しい笑みをこちらに向け、お姉様、あたしの手をぎゅっと握ってそうおっしゃって。

 胸の奥がジーンときて。
 嬉しかった。
 お姉様を守れたことが。
 お姉様の役に立てたことが。
 自分の力が感謝される。それが本当に嬉しくて。
「わたくし、お姉様のお役に立てたのですね……」

 泣き出しそうな声でそれだけ何とか呟くと。

「ええ。ほんとう。貴女はすごいわ。大好きよ」

 今日初めて会ったばかりなのに、もう何年も一緒に過ごしてきたかのように。
 ニーアお姉様がそうあたしに抱きついて。

 そばで優しく見守ってくださっているギディオン様。
 そして、その近くにいらっしゃる騎士団の皆様も、みな笑みを浮かべてくれていた。

 幸せだなって。そう心の奥から温かいものが込み上げてきていた。



 ♢ ♢ ♢


 駐屯地に帰り着く頃にはもう明け方になっていた。
 なんとか平和は守れたし、これで安心して帰れる。

 って、帰る、んだよね。
 あたしの帰り着く先は、ミスターマロン。
 アランさんとマロンさんのいるあのお店。

 そう思えることが嬉しかった。

 王都のジャン・ロックのお店の状況も説明しなきゃだし、あたしが考えた起死回生の作戦も相談したい。

 ギディオン様とニーアお姉様はまだちょっと後処理のお仕事があるらしい。
 あのできてしまったポーションの泉もどうするか検討しなきゃらしいし。

 ちょっと眠いけどこのまま街に帰ることにしたあたし。
 あとで行くからねって言うギディオン様とニーアお姉様に別れを告げ、眩しい朝陽を浴びながら街に向かったのだった。
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