「あなたのことはもう忘れることにします。 探さないでください」〜 お飾りの妻だなんてまっぴらごめんです!

友坂 悠

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ドラゴン・ノバ!

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 キュイ 
 キュイ

 あれは、怪鳥ラクラスの鳴き声だろうか。
 魔物の一種ではあるけど、こうした森によく生息している鳥とトカゲの合いの子みたいな生き物だ。
 まあそこまで脅威じゃない。
 ただ、森に入る人を見つけるとああして声で周囲に知らせるたちの悪いトカゲだ。

 騎士団は30数名ほど。馬ではこの森に入れないことから、皆重装備のまま歩いて進軍している。
 あたしはそんな彼らの少し後ろを空中に浮かびながらついていく。
 一応、アウラの結界で空気の壁を作り纏っていることで、周囲にはあたしの気配は漏れていないはず。
 このまま騎士団が何事もなく魔獣を退治すればよし、危険になるのであれば手助けしたいと思って。
 あたしの聖魔法はきっと彼らの役に立ってくれるはず。
 ギディオン様のいう通り、あたしは実戦で攻撃魔法なんて使ったことはない。
 多分、練習すればちゃんとできるようにはなるかもしれない。だけど、今は、時間がないもの。

 アウラの壁、結界だって、上手く使えば彼らを守ることくらいできるはず。
 アランさんを助けた時のような、あんな失敗はもうしない。
 あれから夜な夜な少しずつだけどマナを放出する練習はしてきたんだから。
 ギディオン様に連れられ空を飛んだ時だって、上手くできたもの。
 だから、きっと。
 大丈夫。


 前方に大量の魔獣の気配。
 一箇所に集まってくれているのは幸いだ。
 はぐれ個体がいくつか騎士団と遭遇したけど、それは難なく退治できたみたい。
 デッドボア。
 ホーンドウルフ。
 あ、オーガもいる。
 小型の魔獣は少ないな。っていうか、あれだけの魔獣がひしめき合っていたら、体の小さな個体は大きい個体に喰われ魔力の足しになってしまうのかも。
 必然的に残った個体は大型魔獣ばかりになっていく。そんな感じなのか。


 魔素が充満している魔溜りは、もう少し奥にあるみたい。
 だけど。
 そろそろと。騎士団の目の前は魔獣の壁のようなもので塞がれ。

 奥に、やっぱりとんでもないほどの魔力の塊があるのを感じる。
 あれは……魔王?
 ううん、違う。
 もっと違う何か。

 吹き荒ぶ魔素の嵐。
 せめて、と、あたしは前方の風に干渉する。
 騎士団の面々が直接魔素の嵐にあてられないように、上空に魔素を逃して。

 戦端が開かれた。
 ギディオン様がさっと先頭に立つ。
 左腕を魔獣にむけ、興したマナを放った。

「ドラゴン・ノバ!!」


 そう叫ぶ声が聞こえ、ギディオン様の前方が真っ赤な炎の嵐に包まれた。


 その炎が戦闘開始の合図となった。
 まずギディオン様の魔法で先頭の魔獣を薙ぎ払い、その後各個撃破に移る。
 それが騎士団の作戦だったのだろう。
 大きな魔法を使える魔道士部隊のようなものはどうやらいない。
 魔法攻撃はもっぱらギディオン様の役目?

「ファイヤバレット!」

 弾丸のように炎の塊を飛ばすギディオン様。
 そして弱った敵を切り裂く騎士のヤイバ。

 先制したことで最初のうちは騎士団有利にことを運んでいるようにも見えていた。
 でも。
 数に勝る魔獣の圧が、だんだんと大きくなっていく。
 明らかに、押され始めているのがあたしにもわかってきた。
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