「あなたのことはもう忘れることにします。 探さないでください」〜 お飾りの妻だなんてまっぴらごめんです!

友坂 悠

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悪寒。

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 お風呂もテントのような簡易な感じかなって思ってたけどそうでもないらしい。
 ほかの建物はそれこそ体育館のようなだだっ広いスペースを布で区切っていたり、簡易なテント張りの建物だったりといかにも臨時といった雰囲気だけど、お風呂場をはじめ調理場食堂とかそういった生活に密着した場所はきちんと煉瓦造りで建ててあるみたい。
 どうしてだろう。もう長年ここに騎士団は駐屯しているんだもの。
 ちゃんとした宿舎を建てればいいのに。
 予算の問題?
 そんなことを考えながら通路を歩くうちにあることに気がついた。

 って言うか、これ、破壊されたあとだ。

 もとはもっと立派な建物だったんだろう。それが、ここまで魔獣に攻め込まれたってこと?

 大規模な魔法で延焼したのだろう、焼け焦げ溶けてしまった痕のある壁。継ぎ足した天井、通路の痕。
 よくみるとそんな戦いの傷跡が垣間見える。


 それもたぶん数年前程度。比較的新しい。
 そうか。ここは復旧中なのだ。
 予算の問題か時間の問題か、それとも次の襲撃を見越してなのか、大急ぎで倉庫のようなだだっ広いとりあえず屋根があればいい程度の建物を継ぎ足して、そしてそこを布で区切って仮住まいとしてきたみたい。

 ギディオン様たちは、そんな大変な思いをしながら街を人を守ってきたんだな、そんなふうに感謝の気持ちが湧いてくる。

「こちらになりますわ。女性用はもとの人数が少ないので男性用の浴室よりは狭いのです。すみません」

 レミリアさんが案内してくれたのはそんな女性用浴室の脱衣所。
 四人ほどが一度にはいれるのかな。脱衣籠の棚が四つ。ドレッサーもちゃんとある。
 奥の扉の向こうが浴室かな。

「今は誰も使ってませんね」

 籠に誰の衣服も入ってないのを見てレミリア。

「訓練中でもどうしても体を流さなければいけない時もありますからね。途中で誰かが入ってくる可能性はありますが、いちおうこの扉にはマジックゲートが仕掛けてあって、許可なく男性が入れないようになっていますのでご安心ください」

 うん。まぁ。大勢の男性が勤務する場所だし、そう言う工夫も必要だよね。
 なんて説明を聞きつつちょっと安心もして。

「ありがとうございますレミリアさん。じゃぁちょっとお風呂お借りしますね」

「はい。ごゆっくり。お出になったらロビーでお待ちください。ギディオン様に連絡がいくようにしておきますね」

 通りにあったロビー。
 一応あそこが玄関口なのか。
 今まで、まともに玄関から入ったことも出たこともなかったから。
 ソファーがいくつかあったし、一応面会の人があそこで待ったりするのかな?
 そうだよね。普通は一般人が勝手にうろついて良いわけない施設だものね。
 と、最初の日のことをちょっと反省する。あの日は走り回ってなんとか抜け出したけど、あまりよろしくなかったんだろうなって。


 レミリアさんが居なくなったところでおもむろに服を脱ぐ。
 そう言えばこの黄色のワンピース、かわいいけどどうしよう。
 アデライア姉様のお古だったよね。姉様はもう嫁いで王太子妃になってるしこれはもう着ない服だから大丈夫、ってギディオン様言ってたけど、この格好で帰ったらアランさんびっくりするかな? 流石に上等なワンピースだもの。どこぞの大店のお嬢様って雰囲気あるしね。

 でも服を取りに帰ってる余裕なかったしなぁ……。
 新しい平民用の服を買う?
 でもなぁそこまでの余裕もないしなぁ……。
 っていうか、平民用の服ってどこで売ってるんだろう?
 いくらくらいなんだろう?
 まだまだ知らないことがいっぱいだ。

 そんなことをつらつら考えながら湯船に浸かる。
 なんだか疲れた。
 リラックスしてお風呂に入ってるうちに、だんだんと心の中まで緩んでくるみたい。
 うとうと、と、寝てしまいそうになったところで悪寒がした。

 ゾクッ

 っとした感触が全身に走る。
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