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子供の頃のおもいで。
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ギディオン様が声をかけるとわらわらと現れた侍女さんたち。
「姉さんの服、彼女に何か貸してあげて。結婚する前のがまだ残ってるよね?」
「ええ、ちなみにどのような場所に行かれるのでしょう?」
「南の商業区だけど、その最奥の回廊のある場所だから。ちょっと品のあるそれでいてカジュアルな、そんな装いに仕上げて欲しい」
「了解いたしましたぼっちゃま。それではこちらへ」
侍女頭さん? 一番古株っぽいそんな彼女に先導され、あたしは数名の侍女さんに囲まれたまま屋敷の奥まで進んで行った。
っていうか頭が完全にパニックになっていて、放心状態になっているところを彼女らのいうがまま歩いてきたっていうのが正解。
「さあお嬢様こちらに。あら、お肌が少し荒れていますね。お着替え前に軽く入浴をしましょうか」
はわわ。
あーん、でも、もう、しょうがない。
あたしは腹を括り。
「ありがとうございます。それではよろしくお願いします」
と答え、後のことは全て彼女らのなすがまま、任せることにした。
っていうか……。
ギディオン様って、ギィくんだったの? アデライア姉様にはよく遊んでもらった覚えがある。まだお母様が生きていらっしゃった頃。あたしがまだ幼い頃だから、姉様の弟さんにギィくんって子がいたなぁくらいな記憶しかない。
一度だけ。
あれは薔薇が咲き誇る生垣で。
あたしがその薔薇の木の枝に髪が絡まって泣いている時。
優しく解くのを手伝ってくれた男の子がいたっけ。
涙が溢れて前もよく見えなくて、助けてくれた子のお顔もよく見えなかったけど。
明るい金色の巻毛のかわいらしい男の子。あたしよりちょっとだけ年上くらい。
そんな印象を覚えている。
あれが多分ギィくん。
お礼を言いたかったけど言いそびれて、それでまた泣いたっけ。
お母様の容態が悪くなって、このお屋敷にもくる機会がなくなって。
そうか。それでずっと忘れちゃってた。
彼にお礼を言わなくっちゃ。
と思ったところではっと気がついた。
(あたし、今セリーヌじゃないもの。お礼なんかおかしいよね……)
長年の心残りにやっとけりがつけられる。一瞬そう思ったけれどそれを叶えることはできないって思い返す。
「お湯加減、いかがですか?」
ちゃぷんと湯船に浸かりながら、侍女さん(マリサさんっていうらしい)のなすがまま、頭を洗われているあたし。
「ええ。マリサさん。ありがとうございます」
「お嬢様、洗われ慣れていらっしゃいますね。こちらもとても助かりますわ」
「そう?」
「普段からお世話をされ慣れていらっしゃるお方とそうでないお方というものは、私達にはすぐにわかるものなのですよ」
そうか。ちょっとしまったかな。
でもこうやって完全に身体を任せてしまうほうが自分も気持ちよくなれるからしょうがないなぁと、そんなことを思いつつ。
「おぐしは染めていらっしゃるのですね。根本の白銀の髪が見えておりますわよセリーヌ様?」
え?
「貴女様が姿を消したと、今王都の貴族街の侍従侍女の間では大騒ぎになっておりますの。アルシェード公爵邸には私の従兄弟が勤めておりますのよ。公爵様がもう鬼の形相で貴女様をお探しになっていらっしゃるのだとか」
「あたし、そんなんじゃ……」
「私は幼い頃の貴女様をこうしてお風呂にお入れしたこともあるんですよ。それくらいわかりますわ」
ああ。詰んだ。
どうしようどうしようどうしよう。
逃げ出さなきゃ。
でも、どうやって……。
「姉さんの服、彼女に何か貸してあげて。結婚する前のがまだ残ってるよね?」
「ええ、ちなみにどのような場所に行かれるのでしょう?」
「南の商業区だけど、その最奥の回廊のある場所だから。ちょっと品のあるそれでいてカジュアルな、そんな装いに仕上げて欲しい」
「了解いたしましたぼっちゃま。それではこちらへ」
侍女頭さん? 一番古株っぽいそんな彼女に先導され、あたしは数名の侍女さんに囲まれたまま屋敷の奥まで進んで行った。
っていうか頭が完全にパニックになっていて、放心状態になっているところを彼女らのいうがまま歩いてきたっていうのが正解。
「さあお嬢様こちらに。あら、お肌が少し荒れていますね。お着替え前に軽く入浴をしましょうか」
はわわ。
あーん、でも、もう、しょうがない。
あたしは腹を括り。
「ありがとうございます。それではよろしくお願いします」
と答え、後のことは全て彼女らのなすがまま、任せることにした。
っていうか……。
ギディオン様って、ギィくんだったの? アデライア姉様にはよく遊んでもらった覚えがある。まだお母様が生きていらっしゃった頃。あたしがまだ幼い頃だから、姉様の弟さんにギィくんって子がいたなぁくらいな記憶しかない。
一度だけ。
あれは薔薇が咲き誇る生垣で。
あたしがその薔薇の木の枝に髪が絡まって泣いている時。
優しく解くのを手伝ってくれた男の子がいたっけ。
涙が溢れて前もよく見えなくて、助けてくれた子のお顔もよく見えなかったけど。
明るい金色の巻毛のかわいらしい男の子。あたしよりちょっとだけ年上くらい。
そんな印象を覚えている。
あれが多分ギィくん。
お礼を言いたかったけど言いそびれて、それでまた泣いたっけ。
お母様の容態が悪くなって、このお屋敷にもくる機会がなくなって。
そうか。それでずっと忘れちゃってた。
彼にお礼を言わなくっちゃ。
と思ったところではっと気がついた。
(あたし、今セリーヌじゃないもの。お礼なんかおかしいよね……)
長年の心残りにやっとけりがつけられる。一瞬そう思ったけれどそれを叶えることはできないって思い返す。
「お湯加減、いかがですか?」
ちゃぷんと湯船に浸かりながら、侍女さん(マリサさんっていうらしい)のなすがまま、頭を洗われているあたし。
「ええ。マリサさん。ありがとうございます」
「お嬢様、洗われ慣れていらっしゃいますね。こちらもとても助かりますわ」
「そう?」
「普段からお世話をされ慣れていらっしゃるお方とそうでないお方というものは、私達にはすぐにわかるものなのですよ」
そうか。ちょっとしまったかな。
でもこうやって完全に身体を任せてしまうほうが自分も気持ちよくなれるからしょうがないなぁと、そんなことを思いつつ。
「おぐしは染めていらっしゃるのですね。根本の白銀の髪が見えておりますわよセリーヌ様?」
え?
「貴女様が姿を消したと、今王都の貴族街の侍従侍女の間では大騒ぎになっておりますの。アルシェード公爵邸には私の従兄弟が勤めておりますのよ。公爵様がもう鬼の形相で貴女様をお探しになっていらっしゃるのだとか」
「あたし、そんなんじゃ……」
「私は幼い頃の貴女様をこうしてお風呂にお入れしたこともあるんですよ。それくらいわかりますわ」
ああ。詰んだ。
どうしようどうしようどうしよう。
逃げ出さなきゃ。
でも、どうやって……。
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