「あなたのことはもう忘れることにします。 探さないでください」〜 お飾りの妻だなんてまっぴらごめんです!

友坂 悠

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王都のお屋敷。

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 馬に乗るって初めてで、それも騎士様の前に乗せてもらうだなんて。

 きっとお尻も痛くなっちゃうんだろう。
 きっとあまりの揺れに気持ち悪くなっちゃうんだろう。
 この姿勢で小一時間もあたし、もつのかな。
 ギディオン様に迷惑かけちゃったらどうしよう。

 そんなことばっかり考えていたけど、なんだかとっても快適な道中ですこし拍子抜け。

 多分、ギディオン様の魔法。
 あまり揺れないようにふんわりと浮いているようなそんな感覚。
 これ、重力魔法?
 黒魔法の一種ではあるけど、悪い意味じゃなくてとっても強力な魔法。
 ギア・ブラドが操るそんな特殊な魔法だ。

 最上位の重力魔法は確かブラックホールをも生み出しちゃう。って聞いた。
 まあそこまでいくと人智を超える。もう神の領域ではあるよね。

 あと。

 触れてみてわかった彼の魔力。
 膨大なその魔力量。
 多分、マグナカルロの他のどんな貴族よりもその身に秘める魔力は膨大で。
 多分、魔法でギディオン様に敵う人なんていないんじゃ無いか、そう思わせる。

 最初は馬に乗るのも騎士様に身体を委ねるのもすごく怖かった。
 だけど。
 なんていうか、心地よいの。
 ものすごく肌が合う。
 馬上で寝てしまいそうになっちゃったくらい気持ちよくて。

 パトリック様に触れるのは怖かった。どこか、拒否? されているような壁を感じて。
 ピリピリとした肌触りっていったらいいのかな。反面、それでいてねっとり絡みつくような違和感もあった。好きじゃなかったら耐えられなかったかもしれない。

 これって魔力の質みたいなものの差だろうか? パトリック様以外の人にこうして深く触れたことなんかなかったから気が付かなかった。

 だったらパトリック様も同じように感じていたのだろうか? 
 だとしたら……。
 愛されなくって当然だったのか……。
 嫌われても仕方がなかったのか……。

 ああ、ダメ。考えれば考えるほどどんどん落ち込んでいく。

「どうしたの? 大丈夫?」

「あ、ごめんなさい。ちょっと考え事をしてしまって……」

「あまり思い詰めないほうがいいよ。君の魔力が悲しみに染まっていくのがわかるから心配で。魔力はね、感情の影響を受けやすいんだ。そしてその感情に染まった魔力が精神にかえってくる。強い感情はどんどん増幅して取り返しのつかないことにもなりかねないからね」

「え……、ギディオンさま?」

「私は君の優しい魔力が好きだよ。君はそんなふうに思い詰めているよりも、明るく笑っているときのほうがかわいいからね」

 はうあうあうあうあう。
 心臓の鼓動が跳ね上がる。

 彼のそのイケメンすぎるセリフにあてられたのか、あたしの顔は恥ずかしくてたまらなくて火照っていく。
 もう恋なんてしないって、そう誓ったはずだったのに。
 あたし、惚れっぽいのかな。
 わかんない。
 前世でも恋愛経験なんてそんなに無かった。っていうか恋愛小説はいっぱい読んだけど、現実にはぜんぜんダメで。
 男性と触れ合った経験なんて無かったもの!
 こんなにも近くにイケメンなお顔があること自体、人生初の体験かもしれなくって……。

 ああダメ。意識が飛びそう。
 あたしに魔力があるってことがバレたことも、今のドキドキで頭がいっぱいになっちゃってそれ以上考えられなかった。

 そんなふうにクラクラしているうちに、どうやら王都に到着したらしい。
 ギディオン様の操る馬は、そのまま王都中心部の貴族街へと向かって。
(あれ? ジャン・ロックのお店は流石にこっちには無いよね?)
 そう思った時には貴族街最奥の豪奢なお屋敷のエントランスにまで乗り付けていた。

「ごめん。まずは着替えないとね。流石にその格好で一流店が立ち並ぶ場所に行くと場違いに思われてしまう。私も少しラフな格好に着替えるから」

 そう言って優しくあたしを降ろしてくれるギディオン様……。

 って、ここって、ここって……。

 ああああああ。
 ここってベルクマール侯爵家。
 あたしのお母様の従兄弟、お母様が輿入れする際にご一緒にこのマグナカルロにいらっしゃった当時のベルクマール大公のご子息で、この国で侯爵位を賜ったジョアス・ベルクマール侯爵のお屋敷のはず。
 幼い頃に来たことがある。間違いないよ!

 だったら、ギディオン様って、まさか……。
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